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暗所でも光合成 もっとも原始的な藻類・灰色藻が明らかにする藻類の驚くべき進化

暗所でも光合成!?
もっとも原始的な藻類・灰色藻が明らかにする藻類の驚くべき進化

灰色藻は、暗所でも光合成の状態が他の代謝の影響を受けて変化しており、その意味ではもっとも原始的な藻類であることが明らかになりました。

早稲田大学 教育・総合科学学術院 理学科植物生理学研究室の三角将洋(みすみ まさひろ 大学院博士課程)および園池公毅(そのいけ きんたけ)教授は、灰色藻は、暗所でも光合成の状態が他の代謝の影響を受けて変化しており、その意味ではもっとも原始的な藻類であることを明らかにしました。

藻類のうち、シアノバクテリアの形態的な特徴を色濃く残す灰色藻は、進化的に極めて興味深い生物です。本研究は灰色藻の葉緑体で行われる光合成と、細胞内の葉緑体以外の部分で行われる呼吸などとの反応との間の関係を調べることにより、代謝の観点から藻類の進化を明らかにすることを目的としています。方法としては「パルス変調クロロフィル蛍光解析装置」という測定機械により、測定細胞を壊さずに細胞の外側から、細胞の中の光合成の状態についての情報を得ることができました。

その結果、細胞が暗所におかれているときには大きく、弱い光を照射すると小さくなるが、強い光を照射すると再び大きくなるという、下に凸の形を描くことがわかりました。この結果は、灰色藻では、暗所でも、光合成の状態が他の代謝の影響を受けて変化していることを示しています。そして代謝という観点から見る限り、藻類の3つのグループの中で灰色藻はもっともシアノバクテリアに近く、緑藻や紅藻よりも進化の根元に位置する灰色藻は、他の藻類より祖先のシアノバクテリアに似ているという発見は、光合成生物の進化における代謝の相互作用の重要性も示しています。

本研究は光合成生物の進化の過程を通して、呼吸などの他の代謝が光合成に与える影響に対して新たな可能性を提示します。

今回の研究の成果は、英国の科学誌(オープンアクセス誌)『Scientific Reports』に、2017年4月7日に掲載されました。

論文題目:Characterization of the influence of chlororespiration on the regulation of photosynthesis in the glaucophyte Cyanophora paradoxa
「灰色藻シアノフォラ・パラドキサの光合成の制御に葉緑体呼吸が与える影響の解析」
著者:園池公毅・三角将洋(早稲田大学 教育・総合科学学術院)

(1) これまでの研究で分かっていたこと

約30億年前に、地球上にシアノバクテリアが出現し、水を分解し酸素を発生させる光合成を始めました。このシアノバクテリアを含む光合成生物が発生する酸素により、大気中の酸素濃度が上昇し、私たちのような酸素を呼吸する生物が地球上に存在できるようになりました。このシアノバクテリアの一部が、約10億年前に、別の生物に共生することによって、葉緑体へと進化したと考えられています。葉緑体をもつ最初の生物は、単細胞の藻類でしたが、その藻類の祖先は、緑藻、紅藻、灰色藻と呼ばれる3つのグループへ分かれて進化していきました。そして、約5億年前に、それまで水中に生育していた緑藻の一部が陸地へ上陸し、陸上植物へと進化することで、地球上は緑に覆われるようになりました。

この光合成生物の長い進化の過程において、水を分解して酸素を発生させる光合成の中心的なメカニズムは高度に保存されてきたのに対して、細胞内の様々な化学反応、すなわち代謝とその相互作用は大きく変化しました。それまで光合成と呼吸を同時に行ってきたシアノバクテリアが葉緑体へと進化することによって、細胞内の別の器官であるミトコンドリアが呼吸を担うようになるなど、シアノバクテリアという細胞から、細胞の中の一器官に過ぎない葉緑体へと変化したことがその背景にあるのでしょう。そして、その変化の影響は、緑藻の場合と紅藻の場合とで異なる結果が報告されています。最初の藻類の直接の子孫である緑藻、紅藻、灰色藻という一次共生藻の中で、シアノバクテリアの共生によりどのグループが最初に現れたのかについて、遺伝情報を保持するDNAの配列を解析することにより調べられましたが、いまだはっきりとした結論は得られていません(図1)。シアノバクテリアが共生によって葉緑体になった後、藻類の3つのグループがどのように分かれていったのかは謎のままでした。

図1.ゲノム情報から見た光合成生物の進化

図1.ゲノム情報から見た光合成生物の進化

(2) 今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

そこで、今回私たちが着目したのは、藻類のうち、シアノバクテリアの形態的な特徴を色濃く残す灰色藻です。青海苔として使われるアオサなどの緑藻や、海苔の原料であるアサクサノリなどが含まれる紅藻とは異なり、灰色藻にはあまりなじみがないかもしれませんが、葉緑体の周囲の二重の膜の間にシアノバクテリアの細胞壁の成分であるペプチドグリカンからなる層が存在しているなど、進化的に極めて興味深い生物です(図2)。この灰色藻の一種シアノフォラ・パラドキサ(Cyanophora paradoxa)において、葉緑体で行われる光合成と、細胞内の葉緑体以外の部分で行われる呼吸などとの反応との間の関係を調べることにより、代謝の観点から藻類の進化を明らかにすることを目的に本研究は進められました。

図2.灰色藻シアノフォラ・パラドキサの顕微鏡写真

図2.灰色藻シアノフォラ・パラドキサの顕微鏡写真

(3) そのために新しく開発した手法

灰色藻の光合成の状態を解析するためには、光合成色素であるクロロフィルが発する蛍光の測定を用いることにしました。光合成のために光を集めるクロロフィルは、光合成に使えなかった光エネルギーの一部をもう一度光(蛍光)として放出する性質があるため、クロロフィルが放出する蛍光を「パルス変調クロロフィル蛍光解析装置」という測定機械により測定することによって、細胞を壊さずに細胞の外側から、細胞の中の光合成の状態についての情報を得ることができます。藻類にクロロフィル蛍光測定を応用することは必ずしも簡単ではないのですが、私たちはシアノバクテリアのクロロフィル蛍光測定手法の開発に長年携わってきたため、灰色藻にこの測定手法を適用することが可能となりました。

(4) 今回の研究で得られた結果及び知見

灰色藻の細胞に様々な光を当てながらクロロフィルの蛍光の強さを測定していくと、照射した光によって細胞内の光合成の状態が変化し、その変化から光合成と呼吸などの反応の相互作用を調べることができます(図3)。測定結果を解析したところ、照射する光の強さを変化させたときの蛍光の変化の指標(NPQ)は、細胞が暗所におかれているときには大きく、弱い光を照射すると小さくなるが、強い光を照射すると再び大きくなるという、下に凸の形を描くことがわかりました(図4A)。この結果は、灰色藻では、暗所でも、光合成の状態が他の代謝の影響を受けて変化していることを示しています。このような下に凸の形は、シアノバクテリアにおいても見られ(図4B)、これは光合成と呼吸の相互作用の結果であることを私たちは以前報告していました。つまり、灰色藻では、細胞の同じ区画で光合成と呼吸をしているシアノバクテリアとは異なり、光合成と呼吸が葉緑体とミトコンドリアという別の区画で行われているにもかかわらず、シアノバクテリアと同様の相互作用が見られたことになります。従って代謝という観点から見る限り、藻類の3つのグループの中で灰色藻はもっともシアノバクテリアに近く、緑藻や紅藻よりも進化の根元に位置すると思われます(図5)。また、シアノバクテリアから葉緑体へという大きな進化のイベントを経たにも係わらず、灰色藻は、他の藻類より、むしろ祖先のシアノバクテリアに似ているという発見は、光合成生物の進化における代謝の相互作用の重要性を示していると考えられます。

図3.灰色藻の細胞のクロロフィル蛍光測定結果

図3.灰色藻の細胞のクロロフィル蛍光測定結果

 

図4.灰色藻の細胞のクロロフィル蛍光の解析結果

図4.灰色藻の細胞のクロロフィル蛍光の解析結果

 

図5.代謝から見た光合成生物の進化

図5.代謝から見た光合成生物の進化

(5) 研究の波及効果や社会的影響

本研究の結果により、シアノバクテリアが共生して生じた藻類の3つのグループの進化に伴って、細胞内の代謝の相互作用がどのように変わったのかが明らかになりました。この3つのグループの内、緑藻からは陸上植物が誕生する一方、緑藻と紅藻は、別の単細胞生物にさらに共生することによって、二次共生藻類が出現します。本研究は、緑藻、紅藻、灰色藻の一次共生藻類だけにとどまらず、二次共生藻類や陸上植物も含めた光合成生物の進化を考えるうえでも、重要な基盤になると考えています。

(6) 今後の課題

今回の研究では、光合成生物の進化の過程を通して、呼吸などの他の代謝が光合成に与える影響に対して新たな可能性を提示しています。この影響は光合成の効率を低下させる方向に働くのですが、それにもかかわらず灰色藻の葉緑体は、呼吸に代えて細胞内の別の代謝経路を採用することによって光合成への影響を保持しています。このことは、シアノバクテリアや灰色藻におけるこれらの相互作用には、なんらかの重要な生理学的な意義が存在することを示しています。近年、光合成の調節遺伝子が機能しなくなった植物でも一定の光条件では問題なく生育できるのに対して、自然環境下のような、光の強弱が大きく頻繁に変化する環境下では、そのような植物の光合成は、簡単に破壊されてしまうことがわかってきています。この点を合わせて考えると、シアノバクテリアや灰色藻では、暗所や弱光の条件の下で光合成を代謝の相互作用によってあらかじめ抑制しておくことは、自然環境下での円滑な光合成反応に必須なのではないか、というポジティブな仮説が浮かび上がってきます。光合成とは逆向きの反応である呼吸が、実は光合成を助けているのかも知れません。今後、この仮説を検証していきたいと考えています。

用語解説
  • シアノバクテリア:藍藻ともよばれる単細胞の光合成生物。古くは藻類として考えられてきたが、緑藻などとは異なり、バクテリアの仲間であることが明らかになったため、シアノバクテリアの表記が一般的になった。
  • 細胞内共生:植物の中で光合成の機能を担う葉緑体は、シアノバクテリアの一種が別の生物の細胞内に共生することにより生じたと考えられている。このような、細胞の中への共生を細胞内共生といい、呼吸を担うミトコンドリアも、好気性細菌の細胞内共生によって生じたと考えられている。
  • 一次共生藻:シアノバクテリアの細胞内共生によって生じた最初の藻類は、その後、緑藻、紅藻、灰色藻に分かれた。これらの藻類を一次共生藻という。この一次共生藻がさらに別の生物に共生して出現した藻類が二次共生藻である。二次共生藻には、褐藻や珪藻などが含まれる。
  • 灰色藻:シアノバクテリアの細胞内共生により誕生した一次共生藻のグループの一つ。シアノバクテリアと同様に光合成色素としてフィコビリンという色素を含み、葉緑体を取り囲む膜に、シアノバクテリアの細胞壁に由来すると思われる層が見られるなど、原始的な特徴を示す。
  • 蛍光:色素が吸収した光のエネルギーの一部が、色素が元の状態に戻る際にもう一度光として放出される場合があり、そのような光を蛍光という。蛍光灯の光も、蛍光管の内側に塗られた蛍光色素による蛍光である。光合成色素の場合、光合成にエネルギーが使われる場合には蛍光は弱く、光合成が止まると蛍光は強くなるため、光合成の状態を解析するために蛍光を測定する。
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