早稲田大学エジプト学研究所(所長・近藤二郎文学学術院教授)は、エジプト・アラブ共和国の南部のルクソール市対岸(古代テーベ西岸)のアル=コーカ地区で、色鮮やかな壁画が描かれた岩窟墓を発見しました。
2017年1月31日(火)、エジプト考古省は、この岩窟墓が新王国ラメセス王朝(第19・20王朝:前1200年頃)の「王の書記」の称号をもつ「コンスウ」という人物のものであると発表しました。
早稲田大学エジプト学研究所は3年前の2013年12月末にも、同じ発掘区でやはり鮮やかな色彩の壁画の残る「ビール醸造長」の称号をもつ「コンスウエムヘブ」の墓を発見しており、今回の発見はそれに続く快挙です。
早稲田大学のエジプト調査隊は1966~67年に踏査を開始、1971年に発掘権を獲得、1976年には拠点となるワセダハウスを建設し、現在も毎年発掘調査を続けています。
発見された墓の概要
コンスウの墓は逆T字の形をしており、東の(現在埋もれている)入口から西の奥室の奥壁まで約4.6メートル、南北に細長い前室の全長が約5.5メートルあります。
入口の北壁には、太陽神ラー・アトゥムの太陽の船を礼拝するヒヒのリリーフとともに、被葬者の名と書記であるという称号がヒエログリフで刻されています。(写真2)
前室の東壁南側には、オシリス神とイシス女神を礼拝する王の書記コンスウと彼の妻の図像があり、コンスウと妻の後ろには、羊頭の神(クヌム神かクヌム・ラー神)など他の神々の姿が、描かれています。(写真3)
前室の東壁の北側部分には、上半身が損傷したオシリス神とその妻イシス女神の図像があり、その下部には被葬者のコンスウの仲間たちが描かれています。前室の西壁の壁画は、残念ながら、ほとんど見えない状態です。現在は壊されて開口部となっているコンスウ墓の前室南壁の西側の天井近くには「コンスウ」の名前と「王の書記」の彼の称号がヒエログリフで記されています。
フリーズ装飾は、典型的なラメセス朝時代(第19・20王朝)のものです。天井の装飾は、壁面よりも良好な状態です。古代エジプト研究の歴史は200年近くにもなりますが、被葬者の名前や称号まで明らかになる墓が新しく発見されるのは、珍しいことです。発掘区周辺からは、未知の墓が今後も発見されることが期待されます。