10月14日に『フランスの写真家ロベール・ドアノー:写真と朗読でつづる自伝的試み』が小野記念講堂で開催されました。本イベントは、世界的に著名な写真家ロベール・ドアノーの写真芸術とその生涯を振り返るものとして、2015年度早稲田文化芸術週間の中で催されたものです。
会場入り口では、東京都写真美術館学芸員の遠藤みゆき氏によるドアノーの解説と年譜が配付されると共に、ドアノーの写真を用いたポストカードが配られました。また、戸山キャンパス学生生協の書籍部では、本イベントと連動した特設コーナーが設けられ、多くの学生がドアノーの写真集やエッセイを目にする機会となりました。
イベント第一部は、坂内太・文学学術院教授の司会で、写真作品が大スクリーンに投影され、ドアノー自身のエッセイの邦訳が朗読されました。また、本イベントには、ドアノーの受容に関するドキュメンタリー制作の一環として、フランスのテレビ会社Arteの取材・収録が入りました。
堀江敏幸・文学学術院教授は、作家としてのキャリアを始めた1994年に、ロベール・ドアノーの作品との出会いがあり、写真家としてだけではなく名文家としてのドアノーに感銘を受けたと述べました。堀江教授は、版画・石版画工から出発し、広告会社での文字図案制作や工業・広告写真に携わったドアノーの経歴について解説し、その後、自身のデビュー作である『郊外へ』の冒頭で、ドアノーの生まれ故郷であるパリ南部郊外ジャンティイやドアノー作品について語った一節を朗読しました。
第一部後半では、ドアノーのエッセイの邦訳(堀江敏幸訳、『不完全なレンズで』、月曜社)が、俳優・声優の郷田ほづみ氏によって行われました。郷田氏の朗読は、ドアノーの文章の、ときに極めて感覚的な、ときに豪放かつ大胆で個性的な声を活かしたもので、聴衆の間から拍手が沸き起こりました。
イベント第二部は、ドアノーのお孫さんであり、ジャーナリスト、文筆家、編集者、展覧会キュレーターとして多方面の活躍で知られるクレモンティーヌ・ドルディル氏をお招きして、在りし日の祖父ドアノーの日常についてお話し頂きました。「私が、ロベール・ドアノーの孫娘として生まれたのは、運命であり贈り物であると思っています。祖父の家は、我が家の近くにあり、毎日のように夕飯を食べに来ていました。いつも身近にカメラが置いてあり、シャッターの音が聞こえてきて撮影していることに気付くのでした。家族で散歩に出かけて、途中から写真撮影になったこともありました。家族旅行は撮影の絶好の機会となりました。祖父は、女優のジュリエット・ビノシュや写真家のカルティエ・ブレッソンなど、多くの文化人と交流がありました。普段は魚釣りが大好きで、よく釣りに出かけていました。」。様々なエピソードが語られ、ドアノーの人となりや日頃の生活の様子が浮き彫りになりました。
また、クレモンティーヌ・ドルディル氏と千葉文夫・文学学術院教授との間で、ウィットや示唆に富む対話が繰り広げられました。聴衆からの質問に答えるかたちで、生前のドアノーが、いかに作品のアーカイブを慎重に保管していたか、また、パリの街を舞台として独自の世界を演出するような写真をも撮影し得た写真家であったことなど、興味深い一面が明らかにされました。
本イベントは、文化構想学部「表象・メディア論系」と「文芸・ジャーナリズム論系」による初めての共同プロジェクトでしたが、ロベール・ドアノーの写真作品や文章の奥深さについて新たな光を投げかけるような催しとなり、盛況のうちに幕を閉じました。
*写真撮影:文化構想学部表象メディア論系3年生飯田奈海