「特集 Feature」 Vol.3-3 多様なつながりで日本はまた立ち上がる(全3回配信)

国際経済学・開発経済学研究者
戸堂 康之(とどう やすゆき)/政治経済学術院 政治経済学部 国際政治経済学科 教授

経済学と経済学者が社会のためにできること

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日本には高い生産性をもち世界で活躍する企業が多くある一方で、潜在力があるにもかかわらずグローバル化していない企業もたくさんあります。今後の日本経済にとって企業はどうあるべきか、政治はどうあるべきか、そして経済学と経済学者は社会のために何ができるのか、自身の研究を踏まえて語っていただきました。

 

目覚めよ、日本の臥龍企業

これまでの実証研究でわかった理想の社会・経済の姿を一言で表現すると、多様なつながりをもった社会・経済ということに尽きます。個人も企業も国も、地域や組織内の強い絆とよそ者とのつながりの両方を持つことで、イノベーティブになり発展できるのです。しかし現在の日本では、地域や組織内の絆が強すぎてよそ者とのつながりを阻んでいることが、長期的な経済停滞の要因になっています。

例えば、企業はグローバル化することで、海外の知恵を取り込んでイノベーションが活発になりますが、日本には潜在的には高い生産性を有しているにも関わらず、国内にとどまってグローバル化していない企業が数多くあります。

私は、そうした企業を臥龍企業と呼んでいます。臥龍とは、中国の歴史書である三国志で、劉備玄徳に仕える前に野にあった諸葛亮孔明を指した言葉です。つまり、優れた能力があるにもかかわわらず、その能力を十分に発揮していない人を指します。

日本に数多いる現代の臥龍が目覚めれば、グローバル化がもたらす好循環によって、日本の国際競争力が強化され、日本が再び立ち上がるきっかけになるはずです。

私は日本の企業データをもとに臥龍企業の存在を定量的に示し、臥龍企業のグローバル化に対する政策の必要性を訴えてきました。近年では、安倍政権の「日本再興戦略」(いわゆる「成長戦略」)でも中小企業が国際化するための支援策が積極的に提唱されており、その成果に強く期待しているところです。

 

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図:中小企業庁『国際化と企業活動に関するアンケート調査』(2009年12月実施,製造・非製造業中小企業3513社)による分析(出典:戸堂 康之)

 

グローバル化のためにもう1つ重要な政策は、TPP(環太平洋連携協定)などのEPA(経済連携協定)です。EPAのメリットの本質は、貿易が増えることよりもむしろよそ者とのつながりが増えることによって技術革新やイノベーションが促進されることです。

ですから、TPPの効果は一般に考えられているよりもはるかに大きいはずなのです。この点についても、新聞の論説やウェブサイトなどで提唱してきましたが、ようやくTPPも締結への道筋が見えてきたことは喜ばしいことです。

日本の地方創生のためにも、よそ者とのつながりを構築する政策が重要です。例えば、IターンやUターンを促進したり、外資企業やベンチャー企業を誘致したりすることで、新しい知恵を地域に取り込めば、必ずや地域が発展すると考えています。私は、様々な地方を訪れては地方の企業の実態を見せていただきつつ、自治体の委員会や企業団体の講演などでそのような話をさせていただいています。

 

社会に貢献する経済学を目指して

7〜8年前までの私は、研究者は学術論文を英文の国際学術誌に発表していればそれでよいと思っていました。しかし、学術研究の成果が社会一般の方々にも政策担当者にも十分に伝わっていないことを実感するようになり、研究成果を社会に丁寧に伝えていく努力をしなければならないと考え始めました。

さらに、20年にもわたって日本経済が停滞する中で2011年に東日本大震災が起こり、経済学者として被災地の復興や日本の再興に貢献しなければならないと強く思うようになりました。

ですから、私はここ数年は自分の研究成果から導かれる政策的な提言を、『日本経済の底力』などの一般向けの書籍、新聞の論説、ウェブサイト、委員会、講演などを通して、社会一般に伝えようと努力をしているつもりです。

とは言え、学術的な研究の質にしても、社会に対する貢献にしてもまだまだ十分とは言えません。昨年早稲田大学に来て、多様な専門の研究者とのつながりができるとともに、優秀な若手研究者とチームを組んでの共同研究を深化させることもできるようになりました。これらの「よそ者とのつながり」と「組織内の強い絆」を活用して、もっともっと社会に貢献できる研究者を目指したいと考えています。

 

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写真:ベトナムにおける輸出振興のための企業研修(出典:戸堂 康之)

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写真:韓国の国際ワークショップにて(出典:戸堂 康之)

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写真:ブルキナファソの政府官僚らとの会議にて(東京大学澤田康幸教授、本学野口晴子教授と)(出典:戸堂 康之)

 

迷わず行けよ、行けばわかるさ

学生にも、海外経験などを通じて多様なネットワークを持つことを薦めています。しかし、それ以上に伝えたいのは「迷わず行けよ、行けばわかるさ」という、アントニオ猪木氏が引退式で語った言葉です。

大学院生の頃、私は毎日毎日机とコンピュータに向かって計算をしているばかりで、「本当にこんなことをして将来役に立つのか」と疑問に思った時期もありました。しかし、猪木氏のこの言葉に出会い、迷わずに努力を続けてPh.D.(博士号)をとることができ、研究を通じて少しばかりは社会に貢献できる(できていると自分で思っている)人間になることもできました。

ですから、人生に迷っている学生たちにも、迷わずにとにかく一生懸命頑張っていれば道は開けるということを伝えたいです。 また、私自身も研究を通して社会に貢献することを目指し、これからも社会のために「迷わず行けよ」と自分を奮い立たせていこうと思います。わかるまで行きます!

 

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写真:「迷わず行けよ、行けば分かるさ」が座右の銘の戸堂康之教授。早稲田大学3号館を背にして

 

 

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  プロフィール

6 戸堂 康之(とどう やすゆき)/政治経済学術院教授

 1991年東京大学教養学部卒業、1994年アジア経済研究所開発スクール修了、1995年スタンフォード大学Food Research Institute修士課程修了 (M.A.)、2000年同大学経済学部博士課程修了 (Ph.D.)、2000年南イリノイ大学経済学部助教授、2001年東京都立大学経済学部講師、2002年同大学同学部助教授、2005年青山学院大学国際政治経済学部助教授、2007年東京大学大学院新領域創成科学研究科国際協力学専攻准教授、2010 年同大学院同研究科国際協力学専攻教授、2012年同専攻長、2014年より早稲田大学政治経済学術院経済学研究科教授

現在、経済産業研究所ファカルティフェロー、JICA研究所客員研究員、日本貿易振興機構運営審議会委員、海外産業人材育成協会業績評価委員会委員、経済産業所産業構造審議会通商・貿易分科会委員を務める。

個人WEBサイト http://www.f.waseda.jp/yastodo/index.html

研究業績
学術論文
著書
  • 開発経済学入門,新世社,2015(近刊)
  • 日本経済の底力-臥龍が目覚めるとき-,中央公論新社,2011.
  • 途上国化する日本,日本経済新聞出版社,2010.
  • 技術伝播と経済成長-グローバル化時代の途上国経済分析-, 勁草書房, 2008.
一般向け論説・講演資料

日本経済

途上国・新興国経済

 

 

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