132億年前の銀河に超高温の星間塵
~天の川の5倍の熱さ 猛烈な星形成で加熱~
ポイント
- 132億年前(宇宙誕生から6億年)の遠方銀河「Y1」は、観測史上最遠方の星間塵の検出例です。アルマ望遠鏡による観測から、塵の温度が絶対温度90ケルビン(摂氏マイナス180度)と測定され、他の遠方銀河より2〜3倍、天の川銀河より5倍も高温であることが判明しました。
- 銀河Y1では、天の川銀河の約180倍もの速さで星が形成されており、このような急速な星形成の結果、塵の温度が異常に加熱されている可能性が示されました。
- この発見は、銀河の元素進化や星間塵の蓄積過程という長年の謎を解く手がかりとなります。
概要
宇宙誕生からわずか6億年後に存在した銀河「Y1」は、これまでに星間塵※1の光が検出された銀河の中で最遠方のものです。
今回、早稲田大学理工学術院の井上昭雄(いのうえあきお)教授、名古屋大学大学院理学研究科の田村陽一(たむらよういち)教授、筑波大学大学院数理物質科学研究科の橋本拓也(はしもとたくや)助教、広島大学宇宙科学センターの稲見華恵 (いなみはなえ) 准教授を含む国際研究チームは、南米チリのアルマ望遠鏡※2を用いて、Y1の星間塵の温度が絶対温度90ケルビン(摂氏マイナス180度)にも達することを明らかにしました。この温度は、これまでに測定された遠方銀河の星間塵の温度の2倍から3倍も高温であり、天の川銀河の星間塵の温度に比べると5倍も高温です。Y1は天の川銀河の約180倍という猛烈なペースで星を生み出しており、急速な銀河成長の最中にあると考えられます。今回の研究は、初期宇宙の銀河の中で元素や星間塵がどのように蓄積していくのかを理解する重要な手がかりとなります。
本研究成果は、国際学術誌「Monthly Notices of the Royal Astronomical Society」に2025年11月12日に公開されました。
論文名:A warm ultraluminous infrared galaxy just 600 million years after the big bang

最遠方の星間塵が検出された銀河Y1(丸で囲まれた赤い色の天体)。背景はジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で取得された画像(赤外線の波長を擬似的にカラーで表現)
Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, J. Diego (Instituto de Física de Cantabria, Spain), J. D’Silva (U. Western Australia), A. Koekemoer (STScI), J. Summers & R. Windhorst (ASU), and H. Yan (U. Missouri)
これまでの研究で分かっていたこと
宇宙が誕生して間もない時代には、星や銀河が現在とは異なる条件のもとで急速に形成されたと考えられています。しかし、その詳しい仕組みはまだ明らかではありません。これまでの観測から、遠方(=初期宇宙)の銀河にも塵(ちり)が存在することがわかっており、若い銀河にも関わらず大量の塵を含む例が報告されていました。元素や塵がある程度の量まで蓄積するには時間がかかるとする説もあり、「多すぎる塵の問題」として長年知られていました。
新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと、新しく開発した手法
早稲田大学を含む国際研究チームは、アルマ望遠鏡を用いて、約133億光年彼方にある銀河「Y1」(赤方偏移8.3)を観測しました。Y1は宇宙誕生からわずか6億年後に存在した非常に若い銀河であり、また、これまでに星間塵の光が検出された最遠方の銀河です。※3従来の電波望遠鏡と比べ、アルマ望遠鏡の大きな特色の一つである、短波長の電波観測機能を活用して、波長0.44ミリメートルの電波を観測したところ、Y1はこの波長で明るく輝いていることを発見しました。
その輝きは、銀河内の塵粒子が星の光で異常に加熱されていることを示しています。解析の結果、塵の温度は絶対温度約90ケルビン(摂氏マイナス180度)であることが判明しました。これは他の遠方銀河に比べて、2倍から3倍も高い温度です。また、天の川銀河の星間塵の温度と比べると約5倍もの極めて高い温度でした。
Y1では1年間に太陽180個分もの質量の星が生み出されており、私たちの天の川銀河(約1太陽質量/年)の180倍に相当します。このような激しい星形成は一時的な現象と考えられ、初期宇宙で銀河が急速に成長する仕組みを理解する上で重要な観測例です。まさに、Y1が「超高温の星工場」であることが明らかになりました。
さらに、この極めて高温の塵の存在は、他の若い銀河に見られる「多すぎる塵の問題」を説明する可能性を示唆します。実は、少量で高温の塵と、大量で低温の塵とは、波長1ミリメートルを超えるような電波では同じ程度の明るさで輝くため見分けがつきません。従来の観測はこのような長い波長の観測に限られていたため、それによって推定された塵の量は過大評価されてきた可能性があると分かりました。
研究の波及効果や社会的影響
今回の成果は、初期宇宙における星形成と銀河進化の理解を大きく前進させるものです。「なぜ若い銀河に塵が多いのか」という長年の謎を解明する手がかりを与えるだけでなく、宇宙初期における元素や星間塵の蓄積過程の理解にもつながります。また、今回実施したような波長の短い電波の観測で正確に塵の温度を測定し、塵の総量を見直すことが今後重要になります。
課題、今後の展望
今後さらに多くの遠方銀河を観測し、Y1のような超高温の塵がどれほど一般的に存在するのかを明らかにする予定です。また、アルマ望遠鏡の高解像度観測によって、銀河内部で星や塵がどのように分布しているのかを詳しく調べる計画です。これにより、初期宇宙で銀河がどのように成長し、多様な形へ進化していったのかが解明できると期待しています。
研究者のコメント
Y1の星間塵の温度が絶対温度90ケルビンという、これまでに見たことがない高い温度であることに驚きました。初期宇宙の銀河ではかなり特別なことが起こっているようです。これからもアルマ望遠鏡で宇宙の塵の観測を続け、銀河の誕生と成長の物語を解き明かしていきたいです。
用語解説
※1 星間塵
炭素やケイ酸塩の固体微粒子。典型的なサイズは0.1マイクロメートルと推定されています。地球のような惑星の材料となります。
※2 アルマ望遠鏡
日本、米国、欧州の三者協力により、南米チリで建設、運用されている世界最大の電波望遠鏡。
※3 銀河Y1の星間塵の輝きは2019年に報告されました。現時点で正確に距離が測定された銀河のうち、星間塵の光が検出された最遠方の銀河です。発見当時のプレスリリースはこちらです。https://alma-telescope.jp/news/press/macs0416-201903.html
キーワード
初期宇宙、最遠方銀河、銀河形成、星形成、星間塵、元素進化、アルマ望遠鏡、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡
論文情報
雑誌名:Monthly Notices of the Royal Astronomical Society
論文名:A warm ultraluminous infrared galaxy just 600 million years after the big bang
執筆者名(所属機関名):T. J. L. C. Bakx 1*、Laura Sommovigo2、Yoichi Tamura3、Renske Smit4、Andrea Ferrara5、Hiddo Algera6、Susanne Aalto1、Duncan Bossion7、Stefano Carniani5、Clarke Esmerian1、Masato Hagimoto3、Takuya Hashimoto8,9、Bunyo Hatsukade10,11,12、Edo Ibar13,14、Hanae Inami15、Akio K. Inoue16,17、Kirsten Knudsen1、Nicolas Laporte18、Ken Mawatari17,19、Juan Molina13,14、Gunnar Nyman20、Takashi Okamoto21、Andrea Pallottini5,22、W. M. C. Sameera1、Hideki Umehata3、Wouter Vlemmings1 and Naoki Yoshida12
*:責任著者
1:Chalmers University of Technology, Sweden
2:Flatiron Institute, USA
3:Nagoya University, Japan
4:Liverpool John Moores University, UK
5:Scuola Normale Superiore, Italy
6:Institute of Astronomy and Astrophysics, Academia Sinica, Taiwan
7:Institute of Physics of Rennes, France
8,9:University of Tsukuba, Japan
10:National Astronomical Observatory of Japan, Japan
11:The Graduate University for Advanced Studies, SOKENDAI ,Japan
12:University of Tokyo, Japan
13:Universidad de Valpara´ıso, Chile
14:Millenium Nucleus for Galaxies (MINGAL),Chile
15:Hiroshima University, Japan
16,17,19:Waseda University, Japan
18:Aix Marseille Universit´e, Japan
20:University of Gothen- burg, Sweden
21:Hokkaido University, Japan
22:Universit´a di Pisa, Italy
掲載日時:2025年11月12日
掲載URL:https://academic.oup.com/mnras/article/544/2/1502/8318242
DOI:https://doi.org/10.1093/mnras/staf1714






