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Vol.15 スポーツ科学(1/2)/ 【スポーツ観戦が高めるウェルビーイング】見るだけで高まる幸せのメカニズム / 佐藤晋太郎教授

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Thu 18 Jun 26

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Thu 18 Jun 26

今回のゲストはスポーツ科学学術院佐藤晋太郎教授。2回にわたって「スポーツ観戦が醸成するウェルビーイング―データと脳科学が示すスポーツの社会的力」をテーマでお届けします。

佐藤教授には、「運動している人が周りにいない」という日常の観察から生まれた問いが研究の核心にあり、ソファで観戦するだけでウェルビーイングが向上するというエビデンスを、脳波計測など神経科学的なアプローチで積み上げてきた研究の軌跡を語ります。

また、「攻めの福祉」としてスポーツ観戦を社会インフラに組み込むビジョンや、推し活にも通じる「応援の力」とは。

運動が苦手でも、日常的なスポーツ観戦によって脳の報酬系が強化され「幸せを感じやすい脳」になるという発見は、私たちのスポーツとの新しい関わり方を示してくれます。

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ゲスト:佐藤 晋太郎

早稲田大学スポーツ科学学術院教授。フロリダ大学にて博士号を取得。米モンクレア州立大学ビジネススクール助教授、オタワ大学Ph.D.指導教授等、アメリカの大学での研究・教育活動を経て、2019年に早稲田大学スポーツ科学学術院准教授に着任。2025年4月より現職。「Sport & Entertainment Management Lab.」を立ち上げ、主宰を務める。スポーツとエンターテインメントが持つ力を科学的に検証し、より良い社会の実現に役立てるマネジメント手法を研究。

ホスト:森本 行人

研究戦略センター准教授。専門は研究戦略・評価、アメリカ経済史、図書館情報学。2011年関西大学大学院経済学研究科博士後期課程修了、博士(経済学)。関西大学リサーチコーディネーター、経済産業省クールジャパン政策課 課長補佐、筑波大学URA研究戦略推進室 副室長等を経て、2025年4月から現職。令和8年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 研究支援賞受賞。

左から、森本行人准教授、佐藤晋太郎教授。<br />
早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリ)のスタジオで収録。<br />

左から、森本行人准教授、佐藤晋太郎教授。
早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリ)のスタジオで収録。

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エピソード要約

-スポーツ観戦がもたらすウェルビーイングの可能性
佐藤教授は、スポーツを「すること」ではなく「見ること」が人々のウェルビーイングに与える影響に着目しています。運動には時間や準備が必要ですが、スポーツ観戦はテレビや配信を通じて気軽に楽しむことができるため、多くの人が日常的に取り入れやすい活動です。研究では、スタジアム観戦だけでなく自宅での観戦も人生の充実感と関連することが示されており、スポーツ観戦が幸福感を高める身近な手段となる可能性が示されています。

-データと脳科学で解き明かす観戦の効果
佐藤教授の研究室では、アンケート調査に加え、MRIによる脳活動測定などの神経科学的手法を活用し、スポーツ観戦の効果を科学的に検証しています。研究の結果、スポーツ観戦によって脳の「報酬系」と呼ばれる領域の活動が高まることが確認されました。また、日常的にスポーツ観戦を楽しむ人ほど報酬系の活動が活発になる傾向も見られ、継続的な観戦がポジティブな感情を生み出しやすい脳の状態につながる可能性が示されています。

-スポーツが支える地域と社会のウェルビーイング
スポーツ観戦は個人の幸福感向上だけでなく、地域社会にも大きな価値をもたらします。スポーツやエンターテインメントは人々を引きつけ、交流人口の拡大や地域活性化につながる重要な資源です。佐藤教授は、スポーツ観戦を「ウェルビーイングを高める社会的投資」と位置付け、人と人をつなぎ、地域に活力を生み出す役割に注目しています。スポーツの社会的価値を科学的なエビデンスによって示し、より豊かで前向きな社会づくりに貢献することを目指しています。

エピソード書き起こし

森本行人准教授(以下、「森本」):
本日も、早稲田大学早稲田キャンパス内にある村上春樹ライブラリー(国際文学館)2階の収録スタジオから、スポーツ科学学術院シリーズをお届けします。
今回と次回の2回にわたり、早稲田大学スポーツ科学学術院スポーツ科学部でスポーツマネジメントおよびスポーツとウェルビーイングの関係をご専門とされる佐藤晋太郎先生をお迎えし、「スポーツ観戦が醸成するウェルビーイング―データと脳科学が示すスポーツの社会的力」をテーマにお話を伺います。スポーツ観戦やスポーツイベントが、人々の生活の質や幸福感にどのような影響を与えるのか。その科学的根拠と社会への示唆を探ってまいります。佐藤先生、本日はどうぞよろしくお願いいたします。

佐藤晋太郎教授(以下、「佐藤」):
よろしくお願いいたします。

森本:
まずは先生のプロフィールをご紹介します。佐藤晋太郎先生は、早稲田大学スポーツ科学学術院スポーツ科学部教授で、2019年からSport & Entertainment Management Lab.を主宰されています。
フロリダ大学で博士号を取得後、アメリカの大学で研究・教育活動に従事され、2019年に早稲田大学スポーツ科学学術院准教授として着任されました。2025年4月に教授に就任され、現在は教育・研究活動の両面で活躍されています。スポーツやエンターテインメントが持つ社会的な力を科学的に検証し、より良い社会の実現に活かすことをライフワークとされています。
あらためて、先生の研究分野についてご説明いただけますでしょうか。

佐藤:
私の研究は、一言で言えば「スポーツとウェルビーイング」です。ただし、運動やスポーツを実践することよりも、スポーツ観戦が人々のウェルビーイングにどのような影響を与えるのかという点に着目して研究を進めています。
研究手法としてはアンケート調査を用いることが多いのですが、それだけではありません。私たちの研究室では、生体反応の測定も取り入れながら、人がスポーツ観戦を通じて勇気づけられたり、希望を感じたりする際に、身体の内部でどのような変化が起きているのかを分析しています。アンケートによる主観的評価に加え、生理学的なデータも用いることで、スポーツ観戦の価値を科学的なエビデンスとして社会に発信したいと考えています。

森本:
ありがとうございます。まずは、先生のご研究の中心テーマであるスポーツ観戦とウェルビーイングの関係について伺います。
スポーツを「すること」の重要性は広く知られていますが、先生は「見ること」の価値に着目されています。この研究テーマに取り組まれたきっかけはどのようなものだったのでしょうか。

佐藤:
スポーツマネジメントの分野では、これまでスポーツ参加や運動によって健康やウェルビーイングを高める研究が主流でした。もちろん、それらは非常に重要な研究ですし、私自身も運動が人に良い影響を与えることは間違いないと考えています。
一方で、日常生活を見渡してみると、実際に継続的に運動している人は決して多くありません。運動には時間や準備が必要ですし、チームスポーツであれば仲間との調整も欠かせません。ランニング一つをとっても、着替えて外へ出るまでには一定の意志力が必要です。
そこで私が抱いた問いは、「運動が良いことは分かっている。しかし、その前に多くの人は運動をしないのではないか」というものでした。
その時に着目したのがスポーツ観戦です。ソファに座ってテレビをつけるだけで、迫力ある試合や感動的な場面に触れることができる。もしスポーツ観戦が、人々のウェルビーイングを高める手軽な手段として機能するのであれば、とても大きな可能性があるのではないかと考えたのです。それが現在の研究につながっています。

森本:
確かに、スポーツ観戦は運動に比べて始めるハードルが低いように感じます。特別な準備も必要ありませんし、自分のペースで楽しむことができます。
一方で、野球やサッカーなどの試合は比較的長時間に及びます。長く観戦するほどウェルビーイングへの効果は高まるのでしょうか。

佐藤:
非常に興味深い問いですが、実際にはそこまで単純ではありません。
研究としては、一定時間スポーツを観戦してもらい、その前後でウェルビーイングの変化を測定することは可能です。しかし、現実のスポーツ観戦者を見ていると、多くの人が試合の最初から最後まで集中して見続けているわけではありません。
私はスポーツ観戦を、ある意味ではBGMのような存在として捉えてもよいと思っています。食事をしながら観戦する人もいますし、家事や会話をしながら試合を流している人もいるでしょう。そうした気軽な関わり方でも、スポーツ観戦がウェルビーイングの向上につながる可能性は十分にあると考えています。

森本:
スポーツ観戦をBGMのようなものとして捉えるという考え方は、とても新鮮ですね。
観戦には、スタジアムで直接観戦する方法と、自宅などでテレビや配信を通じて観戦する方法がありますが、どちらにも同じような効果が期待できるのでしょうか。

佐藤:
私自身は、どちらも十分価値があると考えています。
私は北海道出身で、北海道日本ハムファイターズのファンです。北海道に帰省した際には、エスコンフィールドに足を運ぶことも多いのですが、実際には試合を最初から最後まで見続けているわけではありません。球場内を歩いたり、食事を楽しんだりしながら観戦しています。
近年のスタジアムは、試合を見るだけでなく、その場にいること自体が楽しい空間になっています。その意味でも、スポーツ観戦はもっと自由な形で楽しんでよいと思います。
また、テレビやインターネット配信による観戦についても、ウェルビーイングとの関連を示すデータがあります。スポーツ庁の調査では、現地観戦だけでなく、テレビ観戦も人生の充実感と正の相関を持つことが報告されています。
毎日のようにスタジアムへ足を運ぶことは難しくても、気が向いた時にスポーツを観戦するだけで、ウェルビーイングの向上につながる可能性があります。ぜひ多くの方に、気軽にスポーツ観戦を楽しんでいただきたいと思います。

森本:
スポーツ観戦を生活の中に自然に取り入れるという考え方は、とても実践しやすいですね。
ところで、スポーツには野球やサッカーのように日常的に観戦できるものもあれば、オリンピックのように限られた機会にしか見られない競技もあります。競技種目によって効果に違いはあるのでしょうか。

佐藤:
種目ごとの比較は、スポーツマネジメント研究では比較的よく行われる手法です。
私たちの研究室では、野球観戦とゴルフ観戦を比較しながら、被験者の脳活動をMRIで測定する研究を実施しました。結果として、野球観戦の方がウェルビーイングの向上効果が大きく現れる傾向が見られました。
その背景には、競技への親しみや理解度が関係している可能性があります。日本では野球の方が多くの人にとって馴染み深いスポーツだからです。
ただし重要なのは、何も見ない状態と比較すると、ゴルフ観戦でもポジティブな効果が確認されたことです。つまり、競技によって差はあるものの、スポーツ観戦そのものがウェルビーイングに良い影響を与える可能性が示されたと言えます。
特に、自分がよく知っている競技や興味のある競技を観戦すると、その効果はより高まるのではないかと考えています。

森本:
ありがとうございます。先生はアンケート調査に加え、脳科学的なアプローチも取り入れて研究を進めていらっしゃいます。
数値データだけでは捉えきれない側面を感じられた背景も含めて、神経科学的な手法を導入したことで、従来の研究にどのような知見が加わったのでしょうか。

佐藤:
アンケート調査は長年にわたって活用されてきた研究手法であり、今後も重要な役割を担い続けると考えています。ただ一方で、近年は回答の質に課題を感じる場面も増えてきました。
アンケートでは、回答者が意図的に異なる回答をすることもできますし、設問を十分に読まずに回答してしまうケースもあります。実際にデータを分析していると、そのような傾向が見受けられることがあります。
そこで私は、アンケート結果を補完できる新たなアプローチが必要ではないかと考えるようになりました。特に、人が意識的に操作しにくい生理学的な反応を測定することで、スポーツ観戦の影響をより客観的に捉えられるのではないかと考えたのです。
当初は脳活動に着目しました。後から学んだことですが、生理指標の中には心拍数や発汗量など、さらに客観的な指標も存在します。しかし当時の私にとっては、まず脳の反応を見てみたいという思いが強くありました。
実際に研究を進めてみると、アンケート調査で示されていた結果と脳活動の変化との間に一定の一貫性が確認されました。スポーツ観戦がポジティブな感情やウェルビーイングに結びつくという知見が、生理学的なデータからも裏付けられたことは大きな成果だったと考えています。

森本:
脳活動の測定によってさまざまなデータが得られたと思いますが、その中で先生ご自身が特に興味深いと感じられた発見や、予想外の結果はありましたか。

佐藤:
脳には、喜びや達成感といったポジティブな感情に関わる「報酬系」と呼ばれるネットワークがあります。スポーツ観戦によって興奮や感動を覚えると、この領域の活動が高まること自体は、ある意味で予想通りの結果でした。
私が興味深いと感じたのは、その先の分析結果です。私たちは被験者のスポーツ観戦頻度も合わせて調査していました。その結果、日常的にスポーツ観戦を行っている人ほど、報酬系の活動が高まる傾向が見られたのです。
脳はよく使う領域ほど発達すると考えられています。つまり、スポーツ観戦を通じて報酬系が繰り返し刺激されることで、その機能が強化される可能性があるということです。
もちろん慎重な解釈は必要ですが、スポーツ観戦を継続的に楽しむことが、ポジティブな感情を感じやすい脳の状態につながる可能性があるのではないかと考えています。この点は非常に興味深い発見でした。

森本:
報酬系のお話を伺っていると、応援しているチームが勝った場合と負けた場合、あるいは年間を通じて継続的に観戦する場合と、オリンピックのような特別な大会だけを観戦する場合では、効果にも違いがありそうに感じます。その点はいかがでしょうか。

佐藤:
その違いは確実に存在すると考えています。ただし、実験として厳密に比較することはなかなか難しい課題でもあります。
私自身は、一度の大きな感動よりも、日常的にスポーツ観戦と関わることの意義に注目しています。継続的な観戦を通じて、スポーツが生活の一部となることが重要なのではないかと考えています。

森本:
先ほどの報酬系のお話に関連して、試合の勝敗はどの程度影響するのでしょうか。

佐藤:
勝敗の影響は非常に大きいです。
スポーツマネジメント分野では、スポーツ観戦によってさまざまなポジティブな効果が得られることが報告されています。しかし、その多くは応援するチームが勝利した場合に顕著に現れるという側面があります。
研究者の間ではよく知られていることですが、敗戦時にはポジティブな効果が弱まることが多いのです。ただ私は、そこにこそ今後の研究の可能性があると考えています。負けた時にも何らかの価値や意味があるのではないか。あるいは、敗戦経験を通じて得られる心理的な効果が存在するのではないか。そうした点を明らかにすることは、スポーツ観戦研究における重要なテーマの一つだと思っています。

森本:
それは非常に興味深い視点ですね。
ここまでのお話を伺うと、先生の研究はスポーツ観戦と個人の幸福感との関係にとどまらず、社会全体への応用可能性も感じられます。スポーツ観戦を社会的なインフラとして捉えた場合、行政や産業、地域社会にどのような示唆を与えうるのでしょうか。

佐藤:
私は、スポーツ観戦とウェルビーイングの研究には大きな社会的可能性があると考えています。
もちろん、人々の健康や安全を守るための取り組みは極めて重要です。例えば近年の暑熱対策のように、人命に直結する課題への対応は社会にとって欠かせません。
一方で、それだけではなく、人々をより前向きにし、地域や社会を活性化する視点も必要だと思っています。
自治体の多くは、交流人口の拡大や地域活性化を目指しています。その際、「この地域には魅力的なスポーツやエンターテインメントがある」「ここで暮らすと楽しい経験ができる」と感じてもらうことは大きな意味を持ちます。
スポーツ観戦は、人を集め、人と人をつなぎ、地域に活気をもたらします。私はこうした役割を、ウェルビーイングを高めるための積極的な社会投資として捉えています。
スポーツの力を活用しながら、人々がより豊かに、より前向きに生活できる社会を実現していきたい。そのためのエビデンスを示していくことが、私たち研究者の役割だと考えています。

森本:
本日は、スポーツ観戦とウェルビーイングとの関係について、アンケート調査から脳科学的アプローチまで幅広くお話を伺いました。スポーツ観戦が人々の幸福感や社会の活力に与える影響について、多くの示唆をいただいたように思います。
前編はここまでとなります。後編では、こうした研究を牽引される佐藤先生ご自身のキャリアや、海外と日本の研究環境の違い、そして学生との教育活動についてさらに詳しく伺います。
『早稲田大学Podcasts:博士一歩前』。次回の放送もぜひお楽しみください。佐藤先生、本日はありがとうございました。

佐藤:
ありがとうございました。

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