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Vol.15 スポーツ科学(2/2)/ 【世界が真似できないから武器になる】企業が支える”日本独自のスポーツ文化” / 佐藤晋太郎教授

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Thu 25 Jun 26

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Thu 25 Jun 26

スポーツ科学学術院佐藤晋太郎教授を迎えての後編では、「世界が真似できないから武器になる―企業が支える”日本独自のスポーツ文化”」をテーマにお届けします。
佐藤教授は、企業が保有し支えてきた日本のスポーツ文化を、「もっとアピールして押し出した方が良い」と語ります。外国人研究者が日本の社会人野球に惚れ込むエピソードから、町や企業名でスポーツを発信することの可能性まで、”真似できないからこそ武器になる”視点が広がります。
さらに、佐藤教授のこれまでの研究者人生では、かつて「スポーツが大嫌いだった」という意外な原点、渡米して気づいた日米の研究環境の違い、研究1年目に量とスピードへこだわった理由、そして学生への本音まで。
当たり前すぎて見過ごしてきた日本の強みに、そっと光が当たる一話です。

【前編エピソードはこちら】

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ゲスト:佐藤 晋太郎

早稲田大学スポーツ科学学術院教授。フロリダ大学にて博士号を取得。米モンクレア州立大学ビジネススクール助教授、オタワ大学Ph.D.指導教授等、アメリカの大学での研究・教育活動を経て、2019年に早稲田大学スポーツ科学学術院准教授に着任。2025年4月より現職。「Sport & Entertainment Management Lab.」を立ち上げ、主宰を務める。スポーツとエンターテインメントが持つ力を科学的に検証し、より良い社会の実現に役立てるマネジメント手法を研究。

ホスト:森本 行人

研究戦略センター准教授。専門は研究戦略・評価、アメリカ経済史、図書館情報学。2011年関西大学大学院経済学研究科博士後期課程修了、博士(経済学)。関西大学リサーチコーディネーター、経済産業省クールジャパン政策課 課長補佐、筑波大学URA研究戦略推進室 副室長等を経て、2025年4月から現職。令和8年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 研究支援賞受賞。

左から、森本行人准教授、佐藤晋太郎教授。<br />
早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリ)のスタジオで収録。<br />

左から、森本行人准教授、佐藤晋太郎教授。
早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリ)のスタジオで収録。

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エピソード要約

-スポーツとの出会いが育んだ研究者としての原点
佐藤教授は、学生時代に競技者としてバスケットボールに打ち込む一方、競技の厳しさに苦しんだ経験も持っています。しかし、振り返るとスポーツを通じて得た仲間とのつながりや、アメリカ留学中に言葉の壁を越えて人間関係を築くきっかけとなった経験が、自身の人生を大きく支えていたことに気づきました。こうした実体験から、「スポーツが人にもたらす価値を明らかにし、社会へ還元したい」という思いが芽生え、現在の研究活動へとつながっています。

-日本とアメリカから見えるスポーツの可能性
アメリカで博士課程を修了し、研究・教育活動に携わった佐藤教授は、日本とアメリカのスポーツ文化や研究環境の違いについて語りました。アメリカでは大学スポーツが地域や大学のアイデンティティを支える存在として大きな役割を果たしています。一方、日本ではプロスポーツチームと大学が連携しやすい環境や、企業スポーツという独自の文化が根付いています。こうした日本ならではのスポーツ環境には大きな可能性があり、今後さらに発展していく余地があると指摘しています。

-好奇心と挑戦が切り拓く未来
教育者として佐藤教授は、学生に対して「量とスピード」を重視した挑戦の積み重ねを勧めています。特に若いうちに多くの経験を重ねることで、その後の成長に大きな複利効果が生まれると考えています。また、自分の好きなことを追求するだけでなく、他者や社会との接点を見いだし、自らの役割を考えられる人材になってほしいと期待を寄せています。スポーツやエンターテインメントは人生を少し豊かにしてくれる存在であり、そうした価値を社会に広げていくことが、今後の研究と教育の目標であると語りました。

エピソード書き起こし

森本行人准教授(以下、「森本」):
『早稲田大学Podcasts:博士一歩前』。今回も村上春樹ライブラリー・国際文学館2階のスタジオから、前回に引き続き、スポーツマネジメントおよびスポーツとウェルビーイングの関係をご専門とされる佐藤晋太郎先生をゲストにお迎えし、「スポーツ観戦が醸成するウェルビーイング―データと脳科学が示すスポーツの社会的力」をテーマにお話を伺います。
後編では、先生がスポーツ科学の研究に進まれた原点や、海外と日本の研究文化の違い、研究室での学生指導、そして学び手へのメッセージについて、さらに深くお話を伺っていきます。
佐藤先生、どうぞよろしくお願いいたします。

佐藤晋太郎教授(以下、「佐藤」):
よろしくお願いします。

森本:
佐藤先生がスポーツ科学の研究に深く関わろうと思われたきっかけをお聞かせいただけますでしょうか。

佐藤:
私はもともとスポーツが好きで、強豪チームでバスケットボールに打ち込み、大学進学も競技実績による推薦でした。典型的なスポーツアスリートとして育ってきたと思います。
ただ、そのようなレベルで競技に取り組んでいると苦しいこともあります。当時は「この世からバスケットボールがなくなってしまえばいい」と思うほど競技に苦しみ、バスケットボールを憎んだ時期もありました。
しかし大人になって改めて振り返ると、バスケットボールに関わってきたからこそ得られたものがたくさんあったことに気づいたんです。そこでようやく、人前で「スポーツが好きです」と言えるようになりました。
では、スポーツに恩返しをするにはどうすればよいかと考えた時、自分にできることは研究しかありませんでした。結果として「スポーツ」と「研究」の掛け合わせが残り、それが今の道につながっています。

森本:
バスケットボールに関わっていて良かったと思われたことには、例えばどのようなことがあったのでしょうか。

佐藤:
一つは人とのつながりです。大人になってから新しい友人を作ることは決して簡単ではありませんが、振り返ると今でも定期的に会う友人の多くが、バスケットボールを通じて出会った仲間なんですよね。
もう一つはアメリカ留学時の経験です。大人になってから留学すると、日本語で考えれば問題は解決できるのに、それを英語で表現できないもどかしさがあります。言葉が十分に話せないことで、自分が何もできない人間になったような感覚を味わいました。
そんな時にバスケットボールをしたんです。すると、言葉は十分に通じなくても、バスケットボールだけは周囲より上手だった。そこから少しずつ仲間ができて、声をかけてもらい、一緒に過ごすようになりました。
私にとってスポーツ、特にバスケットボールは、異国の地で人とのつながりを築く大きな助けになりました。

森本:
留学中の精神的な支えにもなったわけですね。

佐藤:
間違いなくそうですね。

森本:
これまでのキャリアを振り返られて、研究者として特に大切にしてきた視点や信条があればお聞かせください。

佐藤:
研究というのは非常に地道な作業です。だからこそ私は、できるだけ早く「複利」の効果を得たいと考えていました。
研究を始めた当初から、成果はすぐには出ないと分かっていました。だからこそ1年目のうちにできるだけ多くの経験を積み、量をこなすことに徹底的にこだわったんです。
そうすると2年目、3年目になった時、自分の1時間が持つ価値が変わってきます。1年目に積み重ねた経験が、その後の学びや研究の効率を大きく高めてくれるんです。もしタイムマシンで当時の自分に会えるなら、「間違っていることはたくさんあるけれど、その考え方だけは間違っていない」と伝えたいですね。

森本:
今でもその考え方は変わらないのですね。

佐藤:
はい。現在指導している大学院生にも、特に最初の1年は量とスピードにこだわるよう伝えています。複利の効果を得るためには、その時期の積み重ねがとても重要だと思っています。

森本:
それが後々、自分で考える力にもつながっていくのでしょうか。

佐藤:
それは間違いなくあると信じています。

森本:
ありがとうございます。佐藤先生は博士課程をアメリカで修められ、現在は早稲田大学で研究と教育に携わっていらっしゃいます。研究環境やスポーツの位置づけについて、アメリカでの経験と日本を比較するとどのような印象をお持ちでしょうか。

佐藤:
私はアメリカで4年間、フロリダ大学の博士課程に在籍し、その後も複数の大学で教員として勤務しました。
スポーツマネジメント研究というと、アメリカの方が恵まれた環境にあると思われがちですが、実際にはプロスポーツチームと連携しながら研究を行う機会は、日本の方が圧倒的に多いと感じています。
確かにチーム数だけを見ればアメリカの方が多いのですが、国土の広さが全く違います。日本全国に存在するプロスポーツチームが、アメリカでは一州に分散しているような感覚です。そのため、日本の大学にいる方が、リーグやクラブチームと連携しながら研究を進める機会に恵まれていると感じます。
一方で、私が大学院生だった頃は、アメリカには理想的な研究環境があると信じて渡米しました。しかし実際には、日本で想像していた環境とは少し違っていました。もちろん修行の場としては非常に有意義でしたが、日本に戻ってきてからの方が、実際のスポーツ現場に近い研究ができるという意味で、よりエキサイティングに感じています。
アメリカではオンライン調査を中心とした研究も多く行われていましたが、私はもっと実際のスタジアムやアリーナでスポーツを観戦している人たちを対象に、リアルなデータを収集する研究を進めたいと考えています。

森本:
大学スポーツとプロスポーツでは、その位置づけや役割も異なるように感じます。先生ご自身が研究や生活の中で接してこられた経験から、カレッジスポーツとプロスポーツの違いについて感じられたことはありますか。

佐藤:
アメリカ留学で得た最も大きな経験の一つは、やはりカレッジスポーツの存在でした。
私自身はプロスポーツとカレッジスポーツを直接比較する研究を行ってきたわけではありませんが、生活者としてその文化を体感する機会がありました。特にバスケットボールとアメリカンフットボールは、アメリカの大学スポーツの中でも非常に人気の高い競技であり、フロリダ大学はその両方で高い競技力を誇っていました。そのため、学生としても地域住民としても、スポーツを通じた大きな一体感を経験することができました。正直に言うと、その時に感じた熱狂や盛り上がりを超えるものには、その後まだ出会えていません。
スポーツが社会の中で果たしている役割や存在意義には、日本とアメリカで違いがあると感じています。

森本:
確かに、日本では大学に入学しても自分の大学を応援する機会がない学生も少なくないかもしれません。アメリカとの温度差についてはどのようにお考えでしょうか。

佐藤:
アメリカで大学スポーツを経験した人の多くは、日本に戻ると「大学スポーツをもっと盛り上げたい」と考えると思います。その気持ちは私もよく分かりますし、そうなれば素晴らしいことだと思います。ただ、アメリカの大学スポーツは非常に強いアイデンティティに支えられています。フロリダ大学であれば、学生や教職員だけでなく、地域の人々も含めて大学を応援する文化があります。
一方、日本では大学が非常に密集しています。例えば早稲田大学の周辺にも数多くの大学があります。その環境の中で、地域アイデンティティだけを基盤に大学スポーツを応援してもらうのは簡単ではありません。
アメリカの場合は、地域や都市のアイデンティティと大学が強く結び付いているため、大学スポーツが地域全体の誇りとして機能しやすいのだと思います。日本の場合は、地域ではなく大学コミュニティそのもののアイデンティティをいかに強く育てるかが重要になるでしょう。
さらに、スポーツが盛り上がるためには競技力の均衡も重要です。リーグの中で戦力差が大きすぎると競争が成立せず、観戦の魅力も低下してしまいます。
日本の大学スポーツがさらに発展していくためには、競技力の向上と競争環境の充実も重要な要素になるのではないかと考えています。

森本:
地域と大学との関係性の違いが背景にあるということですね。もう一つ伺います。アメリカでの経験を踏まえた上で、日本のスポーツ環境について、今後さらに面白くなりそうだと感じる部分はありますか。

佐藤:
私は、日本のプロスポーツチームは非常に良い仕事をしていると思っています。地域に密着しながら、さまざまな工夫を凝らしてスポーツの価値を高めています。
一方で、日本には企業スポーツという独自の文化があります。アメリカにはプロスポーツ、ヨーロッパにはクラブスポーツという文化がありますが、日本では企業がチームを支え、育ててきました。私はこの企業スポーツの価値を、もっと再評価してもよいのではないかと思っています。
実際に企業スポーツに取り組む企業の方々とお話しする機会もありますが、企業がスポーツを支え続けていること自体が、日本ならではの大きな魅力です。社会人野球などを初めて見た海外の研究者たちも、「これは非常に面白い文化だ」と驚きます。日本独自のスポーツ文化として、これからも大切にしていくべきものだと思います。

森本:
ありがとうございます。続いて教育について伺います。先生はアメリカでも教育に携わり、現在は早稲田大学で学生を指導されています。早稲田大学の学生にはどのような印象をお持ちでしょうか。

佐藤:
一言で言えば、本当に優秀だと思います。私が学生だった頃と比べても、さらに優秀になっていると感じますし、自立している学生も非常に多いですね。
一方で、あえて期待を込めて言うならば、もう少し大胆さや勢いを持ってもよいのではないかと思います。今の学生は成功への道筋をある程度見通す力を持っています。そのため堅実に成果を出すことは得意ですが、時には「うまくいくか分からないけれど挑戦してみる」という姿勢も大切だと思っています。少し無謀に見えても挑戦する人には、不思議と周囲も応援したくなるものです。

森本:
アメリカで接した学生には、そのような勢いを感じることがありましたか。

佐藤:
フロリダ大学では特に感じましたね。真面目に学びながらも、興味を持ったことには積極的に飛び込んでいく。そうした行動力のある学生が多かった印象です。
私は教育者として、学生のモチベーションそのものを高めることは簡単ではないと思っています。「モチベーションを上げる」という言葉はよく使われますが、他者がそれを直接生み出すことは難しいのではないでしょうか。むしろ、自分が面白いと思う世界に学生を引き込み、一緒に走ることの方が現実的だと思っています。
ですから、スポーツやエンターテインメントの研究をしたいという学生には、自分自身の中にある好奇心や意欲を大切にしてほしいですね。

森本:
先生の研究室にはどのような学生が集まるのでしょうか。

佐藤:
よく「活発な学生が多い研究室」という話を聞きますね(笑)。ただ、私は決して派手な性格ではありません。むしろ一人で考え込むことも多いタイプです。
スポーツやエンターテインメントの世界は、前向きなエネルギーを持って行動する人が活躍しやすい分野でもあります。だからこそ学生にも、明るさや行動力を持ちながら挑戦してほしいと伝えています。もちろん、どんなタイプの学生も歓迎しています。

森本:
卒業生にはどのような人物になってほしいと考えていらっしゃいますか。

佐藤:
最近は「自分の好きなことをやろう」という言葉がよく語られますが、それだけでは十分ではないと思っています。自分自身の思いや目標を持ちながらも、他者や社会との接点を見いだし、その中で自分の役割を考えられる人になってほしいですね。
社会人になり、自分の欲求だけを満たそうとすると、意外と早い段階で限界が見えてきます。その先に必要になるのは、自分以外の誰かのために力を使うことです。後輩を支援したり、仲間と協力したり、自分の輪を少しずつ広げていく。その積み重ねが、長く社会に貢献する原動力になるのではないでしょうか。

森本:
それがスポーツやエンターテインメントに関わる人材として育ってくれれば、なお嬉しいということですね。

佐藤:
そうですね。それが実現したら本当に嬉しいです。

森本:
最後に、リスナーの皆さんへメッセージをお願いいたします。

佐藤:
人生には楽しい日ばかりではなく、辛い日や気持ちが沈む日もあります。私自身もそうした経験があります。そんな時、スポーツは少しだけ背中を押してくれる存在になれると思っています。
私は、スポーツを人生の中心に据えてほしいと言いたいわけではありません。ただ、スポーツやエンターテインメントは、なくても生きていけるけれど、あれば人生を少し豊かにしてくれるものだと思っています。
もし疲れたと感じている方がいたら、一度だけでもスポーツを観てみてください。そこから何か新しい発見があるかもしれません。
また、こうしたテーマを研究してみたいと思った方は、ぜひ早稲田大学で一緒に学んでいただければ嬉しいです。

森本:
ありがとうございました。
早稲田大学ポッドキャスト『博士一歩前』、今回は佐藤晋太郎先生をお迎えし、「スポーツ観戦が醸成するウェルビーイング―データと脳科学が示すスポーツの社会的力」をテーマにお話を伺いました。
スポーツ観戦がもたらす効果の科学的なエビデンスから、社会インフラとしてのスポーツの可能性、そして先生ご自身の歩みや教育観に至るまで、スポーツ科学が持つ広がりと可能性を感じることができました。
本日お話を伺ったのは、早稲田大学スポーツ科学学術院スポーツ科学部の佐藤晋太郎先生でした。佐藤先生、ありがとうございました。

佐藤:
どうもありがとうございました。

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