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Vol.13 エジプト学(2/2)/【世界が評価する日本の考古学】「王道的」方法論を超えた挑戦/ 山崎世理愛講師

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Wed 24 Dec 25

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早稲田大学文学学術院山崎世理愛先生を迎えての「エジプト考古学」シリーズ後編。

「日本の考古学は、世界的に見ても極めて精緻でレベルが高い」。エジプト学において、先生が武器にするのは、日本人が培ってきたその「モノを見る力」です。 黄金のマスクのような華やかな財宝よりも、出土品に残されたわずかな「制作の痕跡」にこそ心を震わせる。

博物館に眠る膨大な既存資料と向き合い、古代人の指先の動きや息吹を再構築する手法は、日本で考古学を学んだからこそ切り拓ける新たな可能性でした。

小学5年生でピラミッドに魅了され、やがて研究者となり「古代エジプト儀礼学」の確立に挑むまでの軌跡に迫ります。

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ゲスト:山崎 世理愛

1992年、東京都青梅市生まれ。東京都立国際高等学校卒業。早稲田大学文学部考古学コース卒業後、早稲田大学大学院文学研究科修士・博士後期課程修了。2021年に博士(文学)学位取得。2018年9月〜2019年3月にベルギーのルーヴァン・カトリック大学訪問学生研究員。2017年〜2019年に日本学術振興会特別研究員(DC1)、2019年〜2021年に早稲田大学文学学術院助手(考古学)、2021年〜2022年に日本学術振興会特別研究員(PD)、2021年に茨城キリスト教大学兼任講師、2022年4月より早稲田大学文学学術院講師(テニュアトラック)。2019年に川又記念日本西アジア考古学会奨励賞、2022年に第44回日本オリエント学会奨励賞を受賞。

ホスト:城谷 和代

研究戦略センター准教授。専門は研究推進、地球科学・環境科学。 2006年 早稲田大学教育学部理学科地球科学専修卒業、2011年 東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了 博士(理学)、2011年 産業技術総合研究所地質調査総合センター研究員、2015年 神戸大学学術研究推進機構学術研究推進室(URA)特命講師、2023年4 月から現職。

左から、城谷和代准教授、山崎世理愛講師。<br />
早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリ)のスタジオで収録。<br />

左から、城谷和代准教授、山崎世理愛講師。
早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリ)のスタジオで収録。

書籍情報
  • 一冊でわかるエジプト史

    一冊でわかるエジプト史

    出版社 ‏ : ‎ 河出書房新社
    著 者:山崎 世理愛、五十嵐 大介
    著出版年月 ‏ : ‎ 2023年11月28日
    言語 ‏ : ‎ 日本語
    ISBN:978-4-309-81119-2

エピソード要約

ー研究者としての原点と“モノ”へのまなざし
山崎先生がエジプト学の道に進んだ原点は、小学5年生の自由研究でピラミッドを調べた冊子を担任に褒められた経験でした。その後、母との博物館巡りや、高校時代に恩師から受けたヒエログリフの個人授業を通じて関心を深めていきます。古代エジプトの魅力として先生が挙げるのは、財宝のような華やかさではなく、出土品に残る制作の痕跡や人々の動きが想像できる点であり、それが考古学へ進む原動力になったと語ります。

ー研究の進め方とエジプト学の課題意識
山崎先生は考古学を軸に研究しつつ、文字資料を含む遺物も扱うため、若手研究者との情報交換や勉強会を通じて解読の力を磨いています。また、エジプト学の現状については、新発掘の成果に注目が集まりやすい一方で、既に発掘された膨大な資料の活用が十分でない点、さらに文献・図像史学に偏りがちな伝統的手法からの脱却が必要である点を課題として指摘しています。

ーリサーチクエスチョンと今後の展望
山崎先生のリサーチクエスチョンは、「古代エジプトにおいて儀礼と社会状況がどのように相互作用し、時代を形作ったのか」。現在は中王国時代を中心に、時代をまたぐ通時的な視点での解明を目指しています。今後は「古代エジプト儀礼学」の確立を構想し、他地域・他時代の研究者とも対話しながら、儀礼という視点から歴史全体の再構築に挑みたいと展望を語ります。あわせて、五十嵐教授との共著『一冊でわかるエジプト史』(2023年、河出書房新社)で古代からイスラム時代までを通史としてまとめ、さらに自身の研究成果をまとめた専門書も執筆中です。

エピソード書き起こし

城谷准教授(以下、「城谷」):
今回も、早稲田大学早稲田キャンパス内にある村上春樹ライブラリー(国際文学館)2階の収録スタジオより、文学学術院シリーズをお届けします。
前回に引き続き、エジプト考古学をご専門とされる山崎世理愛先生をゲストにお迎えし、「葬送儀礼の変遷から読み解く 古代エジプトの統治体制と社会合意」をテーマにお話を伺います。
後編では、山崎先生ご自身が研究の道へ進まれたきっかけや、分野の枠を超えて探究することの面白さと葛藤について、さらに深くお話を伺ってまいります。山崎先生、どうぞよろしくお願いします。

山崎講師(以下、「山崎」):
よろしくお願いします。

城谷:
まずは、山崎先生ご自身がなぜエジプト学という学問に足を踏み入れられたのか、そのきっかけからお聞かせください。

山崎:
一番最初のきっかけは、小学校5年生のときの夏休みの自由研究でした。宿題が最後まで残ってしまい、何を調べようかと考えていたとき、たまたまテレビにピラミッドが映っていて、「とりあえずピラミッドでいいか」という気持ちで調べ始めたんです。本を使って調べて冊子を作り、宿題として提出したところ、当時の担任の先生がとても褒めてくださって。それが本当に嬉しくて、「もう少し調べてみようかな」と思ったのが、最初のきっかけでした。

城谷:
その出来事をきっかけに、今も研究者としてエジプトを研究されているというのは、なかなか珍しいことだと思います。その後も、エジプトに魅力を感じ続けた理由は何だったのでしょうか。

山崎:
今振り返ると、さまざまな出会いが重なっていたように思います。

自由研究を褒めてもらえたことが嬉しくて、その後、母と一緒に日本各地の博物館を巡ったり、エジプトの特別展を見に行ったりするなかで、興味がさらに深まっていきました。また、高校生のときには、世界史の先生がヒエログリフを読める方で、授業時間外に個人的に古代エジプト語を教えてくださる機会もありました。

城谷:
その先生は、もともと研究をされていた方だったのでしょうか。

山崎:
私が聞いた話では、エジプト考古学者を目指していたものの、途中で断念されたそうです。

城谷:
少し話を戻しますが、小学校時代の自由研究では、どのような内容の冊子を作られたのでしょうか。

山崎:
古代エジプトのピラミッドについて、本を使って調べた基本情報や図をまとめました。さらに、一番最後のページに、ヒエログリフを調べて感想を書いてみたんです。

城谷:
褒められる経験自体は、他にもあったと思いますが、この自由研究が今につながっている点に、特別な意味があったように感じます。その点について、先生ご自身はいかがですか。

山崎:
今思い返すと、確かにそうだったのかもしれません。特にヒエログリフで感想を書いた部分は、「これは褒められるかもしれない」と思いながら作っていました。実際には予想以上に褒めていただいて、それがとても嬉しかったことをよく覚えています。

城谷:
書けたこと自体の喜びだけで終わらず、そこからさらに興味が深まっていった、ということですね。

山崎:
そうですね。ヒエログリフを調べて、古代の文字を初めて目にし、「こんな文字で文章が書けるんだ」と驚いたことを覚えています。褒められたことも嬉しかったですが、それ以上に「もっと調べてみたい」と思う気持ちが強くなりました。

城谷:
大学に進学され、授業や文献調査、フィールド調査などを通して研究を深めていかれたと思いますが、その過程でも新たな感動はありましたか。

山崎:
ありました。古代エジプトというと、金や財宝のような華やかなものを思い浮かべる方も多いと思いますが、私は大学生の頃、むしろ地味な遺物に強く心を動かされました。たとえば、紐にビーズを通したアクセサリーが当時の状態で出土することがあります。そうした遺物を見ると、一つひとつビーズを通していた古代エジプト人の動きや行為が想像できるんです。製作の痕跡が残る遺物も多く、そうした点から当時の人々の行為を身近に感じられることに、大きな感動を覚えました。これが、考古学の道に進んだ理由の一つだと思います。

城谷:
研究を続けるなかで、挫折や困難に直面することもあったのではないでしょうか。

山崎:
エジプト学はさまざまな手法を用いる学問で、私は考古学を軸にしていますが、文字資料や図像資料も扱います。特に文字資料については、考古学を専門に学んできたため、一人で解読するのが難しい場面もあります。そうした場合には、若手研究者同士で情報交換をしたり、対面やオンラインで勉強会を開いたりしながら、少しずつ学んでいます。

城谷:
考古学は「モノ」を扱う学問ですが、文字資料や図像資料は専門外、という理解でよいでしょうか。

山崎:
厳密に分けるのは難しいですね。考古遺物には文字が書かれているものも多く、考古学と文献史学を完全に切り分けることはできません。私の研究では、考古遺物と、そこに記された文字資料の両方を扱う、という位置づけになります。

城谷:
その際には、文字資料を専門とする研究者と協力されるわけですね。

山崎:
はい。勉強会で教えていただいたり、一緒に呪文を読んだりしながら、自分の読解力を高めています。

城谷:
現在のエジプト学全体の課題について、先生のお考えをお聞かせください。

山崎:
考古学を主な手法とする立場から見ると、発掘調査による新発見ばかりに注目が集まりがちな点が課題だと感じています。すでに発掘された資料や、発掘調査報告書、博物館に所蔵されている遺物は膨大にありますが、それらが十分に活用されているとは言えません。また、伝統的なエジプト学では、文字資料や図像資料を用いて社会や文化を復元する手法が主流で、現在の国際学会でも多く採用されています。一方で、こうした方法から脱却すべきだという意見も出始めています。私は、考古学をより重視し、発掘調査だけでなく、考古学的なものの見方を取り入れることが重要だと考えています。日本の考古学は世界的にも精緻で評価が高く、その手法を生かしてエジプト学に取り組む意義は大きいと思います。

城谷:
日本では、考古学を学べる大学や大学院は多いのでしょうか。

山崎:
正確な数は分かりませんが、考古学を学べる環境は比較的多いと思います。ただ、古代エジプトに特化すると、数は限られます。早稲田大学では日本の考古学を学びながら、卒業論文でエジプトを含む各地域を扱う形を取っています。日本の考古学の精緻な手法を身につけたうえでエジプト資料を見ることに、日本人がエジプト学を行う意義があると考えています。

城谷:
最後に、先生のリサーチクエスチョンと今後の展望、そしてリスナーへのメッセージをお願いします。

山崎:
私のリサーチクエスチョンは、古代エジプトにおいて、儀礼と社会の状況がどのように相互作用し、その時代を形作っていたのか、という点です。現在は中王国時代を対象に研究していますが、今後は前後の時代とも比較しながら、儀礼と社会変化の関係を通時的に明らかにしたいと考えています。また、日本の若手研究者と研究会を行い、儀礼という視点から古代エジプト史全体を再構築することを目指しています。

城谷:
いずれ「古代エジプト儀礼学」という新しい分野が立ち上がりそうですね。

山崎:
そうですね。「古代エジプトにおける儀礼学」という名称がしっくりくるかもしれません。エジプトに限らず、他地域や他時代の研究者とも対話を重ねていければ、とても面白いと思っています。

城谷:
最後に、先生が執筆に関わられた書籍についてご紹介ください。

山崎:
『一冊でわかるエジプト史』(2023年、河出書房新社)は、早稲田大学の五十嵐先生と共著で執筆しました。古代からイスラム時代以降までのエジプト史を通時的に1冊にまとめています。また現在、中王国時代の儀礼と社会の関係についての書籍も執筆中です。皆さんにお届けできるよう、準備を進めています。

城谷:
『早稲田大学Podcasts:博士一歩前』。今回は、山崎世理愛先生とともに「葬送儀礼の変遷から読み解く 古代エジプトの統治体制と社会合意」をテーマにお話をお届けしました。

山崎先生、ありがとうございました。

山崎:
ありがとうございました。

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