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早稲田大学が先導する宇宙望遠鏡計画

GREX-PLUSが描く銀河と惑星のはじまり

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  • #研究活動

Mon 15 Dec 25

GREX-PLUSが描く銀河と惑星のはじまり

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Mon 15 Dec 25

2025年11月17日(月)、大隈講堂において、一般向け講演会「GREX-PLUSが描く銀河と惑星のはじまり」を開催しました。

宇宙研究の最前線で活躍する3名の研究者の講演では、宇宙望遠鏡で撮影された美しい天体画像なども交えながら、宇宙研究の歴史と最新の研究成果、GREX-PLUSへの期待が語られました。会場からの質問にも真摯な回答があり、宇宙研究を身近に感じながら、さらにその重要性も再認識する時間となりました。

早稲田大学が先導する宇宙望遠鏡計画
GREX-PLUSが描く銀河と惑星のはじまり

未解明の謎に迫る、日本発の宇宙望遠鏡

ビッグバンから始まって膨張を続けているとされる宇宙。いつ、どのようにして銀河や地球のような惑星ができ、生命が生まれたのか、といった私たちの存在に関わる根源的な問いに答えるため、世界中の研究者が協力して大型望遠鏡を建設し、ときにそれを宇宙に打ち上げ、銀河や惑星の観測と解析を進めてきました。

これまでハッブル宇宙望遠鏡(1990年~)やアルマ望遠鏡(2011年~)、近年では2021年に打ち上げられたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)などの観測によって、非常に多くのことが明らかにされてきました。しかしながら、いまだ見つかっていない天体や解明できていない課題は多く存在します。それらに立ち向かうため、本学理工学術院教授の井上昭雄(いのうえ あきお)先生が提案・先導して検討を進めている次世代宇宙望遠鏡(赤外線天文衛星)計画が、GREX-PLUS(Galaxy Reionization EXplorer and PLanetary Universe Spectrometer)です。

講演会のトップバッターを飾った井上先生は、GREX-PLUSについて次のように紹介しました。

「GREX-PLUSには大きくふたつの目標があります。ひとつは、銀河がどのように形成されたかを知るために、宇宙が誕生して間もない頃に形成された明るい銀河を見つけること。もうひとつは地球のような惑星がどのようにでき、生命が生まれるための要素となる水や有機物質をどのように獲得したかを知るカギとなる、惑星が形成される領域の水と氷の境目(通称スノーライン)を特定することです。いずれも、既存の望遠鏡だけでは観測が難しく、そのため、JWSTよりも広い範囲を探索でき、より高い分解能で物質を見分けられる性能を併せ持った、新たな宇宙望遠鏡が必要なのです。

本計画は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の中型ミッション候補として位置付けられており、2027年頃に選定されれば、およそ10年の開発期間を経て2037年頃に打ち上げ、最短でも5年間の運用を行う予定です。」

(GREX-PLUSの詳細についてはこちらの記事をご覧ください。)

「銀河はいつ・どのように生まれ、形作られたのか」という、天文学の重要課題に挑む

ふたつの目標のうち、「宇宙最古の明るい銀河を見つけること」について、東京大学宇宙線研究所助教の播金優一(はりかね ゆういち)先生に講演いただきました。

「私たちの太陽系が属する天の川銀河は、誕生から約130億年たっている比較的古い銀河です(宇宙の年齢は138億年と考えられています)。現在は渦巻状をしていますが、これがどのように誕生し、現在の姿に進化したのかは分かっていません。そのため特に、私たちから極めて遠くにある、宇宙で最初に生まれた初代銀河の観測が天文学の最重要課題のひとつになっています。

遠方銀河の観測には2つの困難があります:1)非常に暗い(目で見える限界の1億分の1程度)、2)赤方偏移という現象により銀河が発した光の波長が長く伸ばされ、赤外線になる。これらの困難に対応するため、ハッブル宇宙望遠鏡やすばる望遠鏡、そしてJWSTが建設・運用されてきました。

特にJWSTはハッブルよりも長い波長にある赤外線を観測することができ、これまで見つけられなかった135億年前の宇宙に、予想よりも多くの銀河を発見しました。また、遠方銀河以外にも、120億~130億年前の銀河からはその中心にあるとされる巨大ブラックホール(新種含む)の発見が続いています。しかしながらJWSTはその機能上、一粒の砂をつまんで空に掲げたぐらいの、非常に限られた領域しか観測していません。狭い範囲でこれだけの発見があるのであれば、より広い範囲が観測できれば、さらなる発見があることは想像に難くありません。

そのため、GREX-PLUSには、JWSTと同じ赤外線波長の観測をカバーしつつ、JWSTの200倍の広い視野をもったカメラを搭載します。これにより現在観測できているよりも遥かに広い範囲で、銀河や巨大ブラックホールの探査が可能となります。アメリカやヨーロッパでも新型望遠鏡の建設が予定されていますが、GREX-PLUSではそれらよりも昔の宇宙(=初期の宇宙に近い領域)を探査する性能を有していること、そして日本主導で計画していることが特長といえます。」

惑星と生命のはじまりを知るために、水の「スノーライン」を探す

GREX-PLUSが目指すもうひとつの目標である、これから惑星系になりそうな「原始惑星系円盤」を観測することについては、国立天文台科学研究部教授の野村英子(のむら ひでこ)先生が講演されました。

「私たちが住む地球は、現在知られている限りにおいて、表面が水で覆われた唯一の惑星です。1995年頃以降、太陽系外に5000個以上の惑星が発見され、地球とはまた別のユニークな性質を持った惑星も存在することが分かっています。では、これらのような惑星はどのように形成されたのでしょうか?私たちはすでに存在している惑星の形成過程を知ることはできませんが、太陽系から離れ、惑星がまさに生まれているような場所を探し、観測することによって、それを探ることができます。その場所が、原始惑星系円盤と呼ばれるものです。

私たちは、アルマ望遠鏡で観測された沢山の原始惑星系円盤の分析を行っています。アルマ望遠鏡はチリの標高約5000mにある高地砂漠(アタカマ砂漠)にあり、特に、細かい構造を高分解能で観測できる特長をもった電波望遠鏡です。

原始惑星系円盤を拡大してみると、表面が均一ではなく、溝のようなものが見えることがあり、惑星形成の理論・シミュレーションから予想されていた構造とも一致しています。一方で、溝をもつ円盤の年齢が様々であったために、本当に円盤は惑星が生まれる場所なのかという疑問も出てきました。そこで、赤外線での観測が可能なJWSTで同じ場所を見てみると、これから惑星になりそうな構造が見つかり、やはり円盤から惑星が生まれているようだ、という理解になっています。

太陽系において、地球は内側が岩石でできた岩石系惑星ですが、木星のようなガス惑星、海王星のような氷惑星も存在します。何故このように性質が異なる惑星が形成されるかを理解するための一つのカギとなるのが「スノーライン」です。惑星系の中心にある、太陽のような恒星が非常に高温であるため、恒星からの距離によって水が水蒸気(気体)で存在する領域と氷(固体)で存在する領域の境界が存在し、その影響でスノーラインの内側では岩石惑星、外側では大型ガス惑星や氷惑星が形成されると考えられています。

また、私たちのような生命が存在するために、液体で存在する水は不可欠であろうと考えられています。そのため、スノーラインのすぐ内側にある惑星が、生命が存在できる場所と考えることもできるでしょう。さらに例えば、太陽系においては形成過程でスノーラインの外にはじき出された天体(彗星や小惑星など)にアミノ酸や核酸が存在することが確認されています。これらが原始の地球に衝突するなどして、地球に生命に必要な水や有機材料をもたらした可能性もありますから、太陽系外の惑星系でも同様のことが起こっているかもしれません。

アルマは、これまでに一酸化炭素や水のスノーラインをもった原始惑星系円盤を観測してきましたが、GREX-PLUSでは、100を超える天体においてJWSTの10倍の分解能でスノーラインを詳細に観測し、惑星形成過程の理解を深めることを目指しています。」

早稲田大学では、GREX-PLUSをはじめとして、宇宙に関わる多様な研究を推進しています。今後の成果にご期待ください。

「GREX-PLUSが描く銀河と惑星のはじまり」

プログラム(2025年11月17日(月))

10:00-10:20

「GREX-PLUS が描く銀河と惑星のはじまり」

 井上 昭雄(早稲田大学理工学術院教授・GREX-PLUS 代表)

10:20-11:00

「最新研究が描く惑星のはじまり」

 野村 英子(国立天文台科学研究部教授・星惑星科学グループ長)

11:00-11:40

「最新研究が描く銀河のはじまり」

 播金 優一(東京大学宇宙線研究所助教・銀河科学グループ長)

関連リンク

井上昭雄研究室(先進理工学部物理学科 観測宇宙物理学研究室)
https://www.obsap.phys.waseda.ac.jp/

早稲田大学高等研究所
https://www.waseda.jp/inst/wias/

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