2025年10月28日から29日にかけて、田中愛治総長が本学協定校の米国・オハイオ州立大学(The Ohio State University)を訪問しました。本訪問は、北米における日本政治研究の第一人者であり、同大学における日本研究拠点の発展に大きく寄与した故Bradley M. Richardson教授の功績を顕彰して設置された講演シリーズ「Brad Richardson Lecture」に講演者として招待を受けたものです。2025年は、同シリーズ開始から10周年、オハイオ州立大学日本研究センター設立40周年という節目であるとともに、田中総長がRichardson教授の指導のもと同大学で政治学博士号(Ph.D.)を取得してから40年目にもあたります。

大学院生時代の田中総長と故Bradley M. Richarson教授
記念講演「Reflections on Professor Bradley M. Richardson and the Legacy of The Ohio State University」
10月29日夕刻には、「Reflections on Professor Bradley M. Richardson and the Legacy of The Ohio State University」と題する記念講演(The Institute for Japanese Studies、Department of East Asian Languages and Literatures、Department of Political Science、Mershon Center for International Security Studies主催)が開催されました。会場には、岸守一在デトロイト日本国総領事、David Cook在コロンバス日本国名誉総領事、クオリティー・エレクトロダイナミクス(QED)創業者兼CEOでオハイオ州立大学前理事長、そして本学名誉博士である藤田浩之氏および幹子夫人をはじめ、オハイオ州立大学教職員、学生、田中総長の恩師、故Richardson教授のご家族など、多くの関係者が列席しました。
全体司会は福森尚美(Naomi Fukumori)日本研究センター所長が務め、藤田氏による挨拶と紹介で開会しました。田中総長は、Richardson教授の学術的功績を称えるとともに、留学生であった自身を家族のように迎え入れ、研究者として厳格に指導しつつも常に温かく見守ってくれた教授の人柄について、数々のエピソードを交えて紹介しました。博士課程修了後、田中総長は日本に帰国し研究者としての道を歩み始め、オハイオ州立大学政治学部で受けたトレーニングを礎に、従来定性的研究が中心であった日本政治研究に定量的アプローチを導入し、国際政治学会(IPSA)など国際的な学術コミュニティにおいて活動の幅を広げました。講演では、このような研究者としての成長に同大学政治学部で受けた教育が決定的な影響を与えたことを振り返りました。また、博士課程在籍期(1970年代〜1980年代初頭)は同学政治学部が全米トップクラスの評価を確立した時期と重なり、その卓越した研究環境の中で培われた経験が、後にIPSA会長や早稲田大学のリーダーとしての歩みを導いたと述べました。
講演の後半では、早稲田大学が現在進める改革や国際戦略について紹介し、「学問の独立」「学問の活用」「模範国民の造就」という大隈重信の建学理念が今日においても大学の方向性を力強く支えていると説明しました。講演後は、Kaya Şahin国際担当副学長(Vice Provost for Global Strategies and International Affairs)の司会のもと、聴衆との活発な質疑応答が行われ、盛会裡に終了しました。



David Cook名誉総領事、藤田浩之氏、岸守一総領事と
オハイオ州立大学日本・東アジア研究関係者との交流
今回の訪問を通じ、両大学は長年の交流を再確認し、今後の連携強化に向けた議論を行いました。28日には、田中総長はPatricia Sieber東アジア言語文学科学科長、福森尚美日本研究センター所長、中山峰治(Mineharu Nakayama)東アジア言語文学科副学科長、湯浅悦代(Etsuyo Yuasa)日本語プログラム長らと懇談し、今後の協力の可能性について意見交換しました。
29日の昼食会では、オハイオ州立大学における日本研究40年の歩みやRichardson教授の功績がスライドショーで紹介されました。中山峰治教授(早稲田卒)、Richard Moore名誉教授(GLCAで旧国際部に留学)、Keita Moore准教授(コロラドカレッジ在学中に早稲田へ交換留学)など、本学とゆかりの深い研究者が両大学との関わりを語り、直近の交換留学経験者による体験談も共有されました。また会の締めくくりとして、福森所長より田中総長の博士課程修了年(1985年)を記した記念ユニフォームが贈呈されました。

昼食会参加者と

福森尚美日本研究センター所長と

博士課程修了年(1985年)が記された記念ユニフォーム
オハイオ州立大学役職者らと今後の早稲田大学との連携について懇談
さらに、オハイオ州立大学の役職者らと今後の本学とオハイオ州立大学との連携についても議論を深めることが出来ました。David Horn文理学術院長(Dean, College of Arts and Sciences)、Kaya Şahin国際担当副学長、Rita Koryan国際連携事務部長(Director of International External Engagement)らと人文社会分野でのさらなる連携強化について意見交換を行いました。また、Knowlton School of Architectureの本山康之(Yasuyuki Motoyama)准教授の研究室を訪問し、イノベーション・エコシステムや都市計画について議論し、本学研究者との今後の協力の可能性を探りました。
講演会後の夕食会では、Ravi V. Bellamkonda副学長兼プロボスト(Executive Vice President and Provost)、John M. Horack研究・アントレプレナーシップ・イノベーション担当副学長(Vice President for Research; Enterprise for Research, Innovation and Knowledge)、藤田浩之氏、Kaya Şahin国際担当副学長、Rita Koryan氏らと、大学経営、リーダーシップ、研究エコシステムの在り方など、多岐にわたるテーマで意見交換が行われました。

David Horn文理学術院長、Kaya Şahin副学長、Rita Koryan氏らと

本山康之(Yasuyuki Motoyama)准教授と
40年目の再訪の意義
今回の訪問は、博士課程修了から40年という節目に、第2の母校とも言えるオハイオ州立大学を再訪するという、田中総長自身にとっても極めて意義深い機会となりました。博士課程当時はまだ幼かったRichardson教授のご令嬢とお孫さまと再会し、講演の場で同教授の思い出を語ることができました。また、政治学部の恩師であるRichard Gunther名誉教授、Richard Hermann名誉教授、Bill Liddle名誉教授、Herb Weisberg名誉教授とも再会を果たしました。訪問を通じて、田中総長は、現在自らが研究者として、そして大学役職者として成し得たことのすべては、オハイオ州立大学で受けた教育があったからこそであると述べました。本訪問は、高等教育が個人の人生に与える深い影響と、国境を越えて培われる学術的・人的つながりの意義を改めて示すものとなりました。





