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【Podcastコラム】因果推論とアメリカの分断

Mon 27 Jan 25

Mon 27 Jan 25

早稲田大学では現在、ポッドキャスト番組「博士一歩前」 を配信中です。

今回は配信中のエピソードのうち、政治経済学術院山本鉄平教授に研究分野である「因果推論」の理論がどのように一般社会で活用されているか、アメリカ社会を例に番組内でお話いただきましたので、その部分を抜粋してご紹介いたします。

エピソードの詳細は以下Webページからご覧いただけます(画像をクリックしてください)。

Q. 「因果推論」という理論が一般社会にどのように関わっているのかについて、具体的な実証実験のエピソードはあるか?

山本 鉄平 教授:
今までいくつか実際の政治学にこういう手法を応用した研究に関わった経験がありますが、その中で一番良い例だと思うのが、アメリカ社会の政治的な分極化です。分断とそれにおけるメディアの役割を研究したことがあって、その話が良いと思います。

アメリカ社会の政治的な分極化は、要するにアメリカの政治的な意見が2つの方向に偏って、すごく保守的な人とすごく進歩的な人で意見が先鋭化して、それが政治に影響しているのが、ここ20年ぐらいで急速に進んできました。

政治学者としては、なぜそんなことが起きたのかという話になります。そこで着目されたのがメディアの役割です。その20年間ぐらいの間でメディアの環境も急速に変わっていて、もともとはテレビ、日本で言う地上波のテレビがメインのメディアで、世の中のアメリカの人は基本的に国中でナショナルネットワークのニュースにチャンネルを合わせて見ていました。

ところがここ20年ぐらいでケーブルテレビがまず出てきて、ケーブルテレビはたくさんチャンネルがあって、ご存知のように、たくさんあるチャンネルの中には誰にでも対応したようなコンテンツだけではなく、すごく専門的なチャンネルが増えてきました。

その中にはすごく偏った情報、党派的な偏向したとも言えるようなニュースを流すメディアも出てきました。ケーブルテレビはたくさんチャンネルがあった上に、人々が自由に選べるので、自分のもともとある好みに偏った情報ばかりを取捨選択するようになりました。

近年、それがさらに強まって、今度はインターネットメディアが出てきて、さらにSNS、YouTubeやFacebookなど、自分の見たメディアに基づいて、レコメンデーションされて、おすすめはこれですと似たようなものがまた出てくる。さらにFacebookやTwitter(X)だと、自分と同じような人が繋がっていって、その人たちの流してくる情報に「いいね」をすると、また同じような情報が出てくる。

それにより、情報の泡の中に閉じ込められて、今まであった偏りがさらに強化されることがあったのではないかという仮説がありました。ただそれを単純に2つの相関を見るだけで本当にメディアのせいで分極化が進んだのかというと、もともと偏った意見を持っている人が、偏ったニュースを見るという逆の方向もあります。

どちらのせいでどうなっているのか。卵か鶏かというような問題で、因果関係は分からないという話になります。そこでまず多くの政治学者が取った方法が「因果推論」の「無作為化実験」、「RCT」と言いますが、それによって因果関係の証明を試みました。

それは党派的と言われている、例えばFOXニュースは保守的なものですが、それに対応する進歩的なMSNBCなどのチャンネルのニュースを持ってきて、それを無作為に半分ずつ被験者に見せて、その結果によって政治的な意見や態度が変わったのかを調べました。

それによって、平均的に意見が変わることが証明されました。しかしまだ問題があり、これは「因果推論」の第一段階とも言えると思いますが、その段階で何が分かるかというと、「無作為化実験」ですべての人をランダムにFOXニュースかMSNBCに割り当てた結果、平均的に因果効果がどのくらいになったかが計算できます。

一方で実際にはさっきもあったように、偏向メディアを見る人はもともと偏った意見を持った人なのか、です。だから平均的にもし偏向メディアが意見を変える影響があったとしても、もともとそういう意見を持っている人の意見をさらにそちらへ寄せるような影響があるかどうかは必ずしも分かりません。

さっきのスイッチの話に戻りますが、人間がもし全体のスイッチであれば、あるスイッチについて証明されたことは、他の同じようなスイッチを持ってきても証明できるので、1つのスイッチを見ればよいですが、人間はそれぞれ違うので、平均的な効果があったといっても、必ずしも今言った現実社会における分極化の説明にはならない。直接の説明になっていない問題がありました。

そこで私と共同研究者が行った研究ですが、名付けて「ダブル無作為割り当て」みたいなことをしました。どういうことかというと、被験者をまず無作為に2つのグループに分けました。グループ1は既存の研究と同じようなRCTを行い、またその中でさらに無作為割り当てでFOXニュースとMSNBCという既存の研究に沿ったRCTをやった。もう1つのグループ2では、普段通り自由意思で好きなチャンネルを選んで視聴してもらいました。無作為割り当てをしなかった。そして最後に両グループ共通して政治的意見を測ってその組み合わせを調べました。

これの面白いところは、グループ1だけでは因果効果が平均的なことは分かりますが、実際に偏ったメディアを好んで見た人の間に本当に見られるかどうかは分からない。一方でグループ2だけだと、そもそも因果効果の推定ができない、相関と因果の切り分けができない問題があるものを、両グループを組み合わせることでしかも無作為に割り当てた結果を組み合わせることで、実際に偏ったメディアを好んで見るような人々の間で本当に偏ったメディアの効果があるのかという問題を解明することができました。

山本 鉄平 教授

2006年に東京大学教養学部を卒業。2011年にプリンストン大学政治学部で博士号を取得。2024年までマサチューセッツ工科大学(MIT)政治学部教授を務め、同年6月より早稲田大学政治経済学術院教授に就任。政治・社会データ分析における計量的および統計的手法の開発と応用に幅広い関心を持ち、特に因果推論、社会調査、実験計画のための統計的方法論に精通している。American Journal of Political Science や American Political Science Review など、世界的に権威のある主要ジャーナルに多数の論文が掲載されており、2024年8月時点で日本国内の政治学研究者の中で最も論文が引用されている研究者として、政治学分野に大きな貢献をしている。

研究者データベースはこちら。

島岡 未来子 教授(番組MC)

研究戦略センター教授。専門は研究戦略・評価、非営利組織経営、協働ガバナンス、起業家精神教育。2013年早稲田大学公共経営研究科博士課程修了、公共経営博士。文部科学省EDGEプログラム、EDGE-NEXTプログラムの採択を受け早稲田大学で実施する「WASEDA-EDGE 人材育成プログラム」の運営に携わり、2019年より事務局長。2021年9月から、早稲田大学研究戦略センター教授。

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