ネット・ゼロ・エネルギーハウスの普及促進へ

ネット・ゼロ・エネルギーハウス(ZEH)がレジリエンスにメリット
夏季停電時にZEH在宅避難が可能か検証

発表のポイント

  • ZEHはエネルギー消費が少なく自家発電可能なことから、停電への対策としても有効であると注目されているが、既往研究の多くは数値計算に基づくものであった。
  • 太陽光発電4.62kW、蓄電池5.6kWhを導入したZEH実験住宅では、夏季停電時においてエアコン・照明・換気・テレビ・冷蔵庫・携帯の充電の使用、ヒートポンプ給湯器の昼間運転による給湯が可能であり、住宅避難の実現可能性を明らかにした。
  • 本成果が、特にレジリエンスに関するZEHのメリットとして周知されることにより、ZEHの普及促進に貢献できる。

概要

早稲田大学大学院創造理工学研究科建築学専攻修士課程2年生の天田 侃汰(あまだ かんた)、同理工学術院総合研究所次席研究員の金 ジョンミン(きむ じょんみん)、同理工学術院教授の田辺 新一(たなべ しんいち)および旭化成ホームズ株式会社(所在:東京都千代田区、代表取締役社長:川畑 文俊)らの研究グループは、新たに建設した実験用ネット・ゼロ・エネルギーハウス(ZEH)において、熱中症リスクの少ない在宅避難の実現可能性を検証しました。
本研究成果は、Elsevier社発行の国際学術誌『Energy and Buildings』(論文名:Feasibility of staying at home in a net-zero energy house during summer power outages)の2022年10月15日(土)発行号に掲載されました。

(1)研究の背景と目的

カーボンニュートラル社会の実現に向けて、快適で省エネな暮らしが可能なZEH※1の普及が促進されています。また、太陽光発電を有効活用するために、蓄電池を搭載する例も多くなっています。一方で、ZEHはエネルギー消費が少なく自家発電可能なことから、停電への対策としても有効であると注目されています。

停電時の太陽光発電と蓄電設備の活用に関する既往研究の多くは数値計算に基づいたものであり、また、停電時の温熱環境に着目した例も多くはありませんでした。本研究では、停電を模擬した実験によって、ZEHにおける熱中症リスクの低い温熱環境を維持した在宅避難の実現可能性を検証しました。

(2)研究手法

まず、既往研究や災害時の報告書を参考に停電時の生活スケジュールを作成しました(図1)。その後、太陽光パネル4.62kW、蓄電池5.6 kWhを備えたZEH(表1)を用い、使用機器の異なる5つの条件(表2)において停電を模擬した実験を行いました。停電期間は72時間とし、その間の電力消費量や温熱環境を測定しました。

図1:停電時の生活スケジュール

表1:実験住宅概要

表2:実験条件

(3)主な結果

本実験住宅(太陽光発電4.62kW、蓄電池5.6kWhを導入したZEH)では、夏季停電時においてエアコン・照明・換気・テレビ・冷蔵庫・携帯の充電の使用、さらに、ヒートポンプ給湯器の昼間運転によって給湯を使用することが可能であることが示されました。また、自立回路上でのエアコンの使用により、熱中症リスクの低い温熱環境が維持されることも明らかにしました。

図2:Case 3(1Fエアコン+換気+照明+テレビ+冷蔵庫+携帯の充電+ヒートポンプ給湯器昼間沸き上げ)の結果

(4)研究の波及効果や社会的影響

本研究成果は、ZEHの夏季停電時における在宅避難の実現可能性を明らかとし、住宅のレジリエンス強化に寄与するものと考えています。また、ZEHのレジリエンスに関するメリットを示したことで、ZEHの普及促進にも貢献すると期待しています。

(5)今後の課題

本研究では、日射遮蔽や窓開けについては検討していません。建築的なデザインや、住まい方の工夫がレジリエンス性能に与える影響をより詳細に検討する必要があると考えています。また、実験期間中は晴天が多かったことから、悪天候時の検討は十分ではありません。今後は、さらなる条件を付した場合の新たな実験の実施や、今回の実験から得られたデータを用いて、より実際に近いシミュレーションモデルを作成するなどして、ZEHにおけるレジリエンスに関してより幅広く研究することが必要です。

(6)用語解説

※1 ネット・ゼロ・エネルギーハウス(ZEH)
外皮の「断熱」性能などの向上、高効率機器などによる「省エネ」、太陽光発電などの「創エネ」の3つによって、年間のエネルギー消費量の収支がゼロになる(使うエネルギーと創るエネルギーが同じ)ことを目指した住宅

※2 WBGT
Wet-Bulb Globe Temperatureの略称で、暑さ指数とも呼ばれます。熱ストレスを評価する指標の一つで、空気温度、相対湿度、放射温度を総合した指標です。日常生活においては、WBGT28℃以上で、すべての生活活動において熱中症を発症する危険性があるとされています。

※3 PMV
Predicted Mean Voteの略称で、デンマーク工科大学のファンガー教授によって提唱された、温熱快適性を評価する指標です。空気温度、相対湿度、風速、放射温度、代謝量、着衣量の6要素から、-3<PMV<+3の範囲で算出されます。平常時では-0.5<PMV<0.5が快適範囲として推奨されています。

(7)論文情報

雑誌名:Energy and Buildings
論文名:Feasibility of staying at home in a net-zero energy house during summer power outages
執筆者名(所属機関名):天田 侃汰(早稲田大学)、金 ジョンミン(早稲田大学)、稲葉 愛永(早稲田大学)、秋元 瑞穂(早稲田大学)、柏原 誠一(旭化成ホームズ)、田辺 新一(早稲田大学)
掲載日:2022年10月15日(土)
掲載URL:https://doi.org/10.1016/j.enbuild.2022.112352
DOI:10.1016/j.enbuild.2022.112352

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