「研究室を訪ねて」第6回は、商学学術院・WBSの長沢伸也教授の研究室を訪ねました。
──もともと理工出身で環境工学を専門にされていた先生が、ラグジュアリー ブランディングの研究へと進まれたのは何か理由があるのでしょうか。
「私は1970年代に公害環境問題について専門に研究していましたが、最終的に博士号まで取得するのに10年かかりました。ちなみに環境研究での博士号は少なく、その当時、大気汚染物質拡散モデルは私の早稲田モデルと福島原発事故で使用されたSPEEDIモデルが先端の研究でした。」

入り口からラグジュアリー
「しかし、努力して博士号をとった80年代はバブルで環境問題は忘れ去られていたんですね。世の中には高級ブランドが広まっていました。大気拡散は風まかせなのでモデルが実測値となかなか整合しないのですが、それと同じくらい訳が分からないファッションにも興味を持ちました。特に、着られない服を風変わりなデザイナーがパリ・コレに出してビジネスが成り立っているのは何故か。と疑問に思ったことがこのラグジュアリー研究のきっかけでした。ルイ・ヴィトンやディオールを傘下に持つLVMHモエ ヘネシー・ルイ
ヴィトンのベルナール・アルノーCEOがパリ・ポリテクニーク(理工系エリート養成のための高等教育機関)出身の理工系ということで親近感を持ちました。」

「ラグジュアリーなのに野球帽ですか?」という学生の一言でハット愛用者に
──“ラグジュアリー”とは、“プレミアム”と似たようなものでしょうか。
「“プレミアム”は製品間の比較優位ですが、“ラグジュアリー”は歴史、夢や希望、伝説に基づいており、比較出来ない最高無比という点に大きな違いがあります。」
──先生の今後の展望を教えてください。

愛用のIWCインジュニア
「以前、日本の時計ブランドに足りないものは“Passion”だとゼニス社のJ.-F. デュフールCEOもゲスト講師にお招きした時に話していました。実は、パリ発の高級ブランドが広まったのはほんの30数年のことです。自力の日本進出がなければ潰れていたかもしれません。ヨーロッパでは、経営とモノづくりを分けてクラフツマンシップを大事にしていますが、日本ではモノづくりの技術はあるのにマネジメントが今ひとつです。今後はそうした日本の老舗企業や地場・伝統産業をサポートし、高くても売れるジャパン・ブランドで世界で勝負するという考え方を広めていきたいと考えています。」

恒例の記念撮影
──最後に、先生の“Passion”とは何ですか。
「『リスクを恐れない』ということです。当初は環境工学で就職をと考えていましたが、清水の舞台から飛び降りる気持ちで専門を変えてきました。今日現在、ラグジュアリー、感性工学、デザイン、環境ビジネスなどで著書が86冊、学術論文が350編(うち4割が英語論文)あります。人生には人のやらない分野を切り開くという進取の精神が大切だと思っています。」
今月の早稲田川柳
ラグジュアリー
先生輝く
「インジュニア」
注)IWCの時計「インジュニア」はドイツ語で「エンジニア」とのことです。