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【Podcastコラム】情報と発酵
Fri 20 Feb 26
Fri 20 Feb 26
早稲田大学では現在、ポッドキャスト番組「博士一歩前」 を配信中です。
今回は配信中のエピソードのうち、文学学術院のドミニク・チェン教授に情報技術に足りていない「発酵」の時間についてお話を伺いましたので、その部分を抜粋してご紹介します。
エピソードは以下より視聴可能です。
Q. 先生が別メディアで連載されている中で、「情報技術には発酵の時間が足りていないのではないか」というお考えを拝見しました。ここでいう「情報技術には発酵の時間が足りない」とは、どういう意味なのでしょうか。また、先生のご研究とどのようにつながっているのでしょうか。
チェン教授:
「発酵と情報技術」と言われても、何のことだろうと思われるかもしれません。私は以前、博士課程を休学して起業した時期があり、当時は情報技術にどっぷり浸かった生活を送っていました。会社に行っては案件を開発し、まさにインターネットのスピード感のなかで働いていたんです。そんなときに、偶然発酵食と出会い、ぬか漬けを作るようになりました。ぬか床に野菜を入れて一晩置くと、おいしく変化していく。そのメカニズムがどうなっているのかに、純粋な好奇心を持ちました。さらに発酵の世界には、作りたてのぬか床だけでなく、世代を超えて継承され、100年を超えるぬか床が存在するといった話もあります。酒蔵でも、創業100年はまだ若いと言われたりするほどです。長い時間をかけてゆっくり変化し、時間が経つほど複雑に生成変化していく――そういう世界があることに、私は驚きました。
一方で、当時自分が使っていた情報技術の世界は、日進月歩で新しい技術が現れては消えていく、非常に速い時間の中にありました。発酵の時間とは対照的です。そのギャップを体験したことで、コンピューターやAIに急かされるような感覚、仕事や生活のスピードが加速していく感覚を、自分自身が抱いていたことにも気づきました。そこで、発酵の時間の持ち方やスピード感には、別の可能性があるのではないか、と感じたんです。今からすると17年ほど前のことになります。当時はまだ博士論文も書き終えておらず、教員でもありませんでしたが、その問題意識だけは自分の中で、まさに“発酵し続けて”いました。早稲田に着任してから、これを研究分野として立ち上げようと思い、「発酵メディア学」と名付けて掲げるようになりました。体系化された学問があるわけではないので、自分で旗を立てて考え始めた、ということです。
ドミニク・チェン 教授
早稲田大学文学学術院教授。1981年生まれ、フランス国籍。2013年東京大学 学際情報学 博士号を取得。NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]研究員、NPO法人クリエイティブ・コモンズ・ジャパン(現コモンスフィア)理事、株式会社ディヴィデュアル共同創業者等を経て、2017年4月から早稲田大学文化構想学部准教授、2022年より現職。 デジタル・ウェルビーイングの視点から、テクノロジーと人間・自然存在の関係性を研究。
井上 素子 准教授(番組MC)
研究戦略センター准教授。専門は研究戦略・推進、美術史学、文化財保存学。2014年筑波大学人間総合科学研究科芸術専攻博士課程修了、博士(芸術学)。2013年 国立文化財機構 東京国立博物館保存修復課アソシエイトフェロー、2018年 東京工業大学研究・産学連携本部主任URA等を経て、2025年4月から現職。
左から、井上素子准教授、ドミニク・チェン教授。
早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリ)のスタジオで収録。