2026年6月23日、早稲田大学大隈会館にて、次代の中核研究者育成プログラム2025年度の研究成果報告および新規採択研究者の発表を行いました。
(報告会のプログラムはコチラからご覧ください。)
はじめに、田中愛治総長より開会挨拶を行いました。早稲田大学では2024年度に設立した「Global Research Center(GRC)推進本部」のもと、キャリアステージに応じた研究支援を戦略的に展開しており、次代の早稲田を担う若手・中堅研究者には大型研究プロジェクトを獲得できるよう支援を行っている*1ことを説明しました。また、次代の中核研究者による世界最先端の最新研究や将来のビジョン発表へ、大きな期待を寄せていると述べました。

開会挨拶:田中愛治総長
続いて、研究戦略センター副所長の松永康教授より本プログラムの概要とこれまでの実績について説明を行いました。松永教授からは、2015年から10年以上にわたり続く本プログラムが、チーム型研究を促進し、本学の研究規模や国際発信力を拡大することを目指していることが示されました。また、通常の研究費ではカバーしきれない研究環境の整備を各研究者のニーズに合わせてカスタマイズ支援しており、これまでに約30名を支援した結果、「ERATO」や「ムーンショット型研究開発事業」といった国の大型プロジェクト獲得者を複数輩出するなど、確かな成果を上げていると報告がありました。

趣旨説明:松永康研究戦略センター副所長・教授
発表者は以下のとおりです。
山本 鉄平教授(政治経済学術院)2026年度支援開始
2026年度より支援開始の山本教授は、社会科学の方法論を根本から変革する「山本超高次元社会科学プロジェクト」の構想を発表しました。これは、生成AI・オルタナティブデータ・高次元因果推論を活用し、「因果革命2.0」の実現を目指すプロジェクトです。現在、AIの進化によりテキストや画像などの「超高次元データ」が扱えるようになった一方で、従来の手法では複雑な文脈や個人の異質性を捉えきれない理論的限界がありました。また、AIによる偽情報やバイアスが市民の事実認識を歪める社会的リスクも高まっています。
本プロジェクトでは、こうした課題を克服し、社会現象をより解像度高く、個別最適化された形で分析可能にすることを目指します。

山本鉄平教授(政治経済学術院)
小林 哲郎教授(政治経済学術院)2025年度支援開始
小林教授は、「小林アジア政治コミュニケーションプロジェクト」の一環として、「民主主義への脅威に関するアジア国際比較」と題する進捗報告を行いました。報告のなかで小林教授は、ソーシャルメディア等のテクノロジーの普及が、ポピュリズムの台頭や感情的極性化、陰謀論の蔓延にどう影響を与え、結果として民主的アカウンタビリティを低下させているかについて、最新の研究成果からその現状を指摘しました。さらに今後の展望として、本プロジェクトを政治コミュニケーションおよび政治心理学分野における「アジア連携のプラットフォーム」へと発展させる強い意欲を示しました。また、従来のイデオロギーでは測れない現代の政治意識を捉えるために独自に開発した「反エスタブリッシュメント志向尺度」についても言及し、田中総長との間でも活発な意見交換が行われました。

小林哲郎教授(政治経済学術院)
石井 あゆみ教授(理工学術院)2025年度支援開始
石井教授は、「石井極限光情報マテリアルプロジェクト」において、「光の情報を極限まで引き出す有機無機ハイブリッド材料の創製」に関する最新の進捗を報告しました。石井教授は本プロジェクトで創出する材料のモデルとして、16種類の光受容体を持ち、紫外・近赤外光から円偏光まで識別できる「シャコの眼」を例示しました。この究極の光認識機能を材料工学的に再現することで、不可視光を可視化する次世代センサーや量子デバイス、さらには空間ディスプレイや超高効率太陽電池など、多岐にわたる応用を目指しています。
具体的な成果として、これまで取り組んできた「アップコンバージョン(近赤外光を可視光に変換する技術)」において、発光強度を向上させる見通しが立ったことや、円偏光を吸収して直接電気信号に変換する新材料の開発について発表がありました。今後の計画として、新しい物質の開拓にとどまらず、それを制御しセンサーとして社会実装する技術までを見据え、多様な共同研究者と連携して幅広い技術開発を進める方針が示されました。

石井あゆみ教授(理工学術院)
大久保將史教授(理工学術院)2023年度支援開始
オンライン参加
大久保教授は、「大久保カーボンニュートラル電池プロジェクト」の成果報告(2023~2025年度)として、カーボンニュートラル社会の鍵となる次世代蓄電デバイスの開発状況を報告しました。発火リスクを根本から解決する「全固体電池」の実用化への進捗として、透過型電子顕微鏡を用いて、充放電中の電池内部で起きる化学的変化をリアルタイムで観察することに成功しました。これにより、複雑な電池内の反応メカニズムの解明が飛躍的に進み、より安全で高寿命な次世代電池の設計が可能になります。
こうした革新的なアプローチは高く評価されており、「GteX」や「ASPIRE」といった国の大型研究プロジェクトで研究代表を務め、強固な国際共同研究ネットワークの構築を牽引しています。今後の展望として、これらの支援を基盤に産学官の連携を深め、「早稲田発の次世代電池」を世界へ向けて創出したいと力強く語りました。

大久保將史教授(理工学術院)
浜田 道昭教授(理工学術院)2022年度支援開始
オンライン参加
浜田教授は、「浜田RNA情報学プロジェクト」の成果報告(2022~2024年度)として、「RNA情報学を基軸とした生命科学・医薬学研究」の報告を行いました。本報告では、次世代の創薬基盤となるAIを活用した技術開発を中心に、主に以下の2点が示されました。第一の成果として、創薬候補となるRNA分子「アプタマー」の配列自動生成や結合スコアの算出などを可能にする、各種AIツール(RaptGen等)の開発に成功したことが挙げられました。また第二の成果として、染色体末端の「テロメアDNA」を維持する、これまで未知であった機能性RNAの発見が報告されました。これらの研究成果は、『Science』、『Nature』の姉妹誌をはじめとする国際的な学術誌に掲載されています。
最後に浜田教授は今後の展望として、バイオ系・医学系の研究者を結集し、学術院横断的な「AI for Bioscience拠点」の構築を目指すビジョンを提示しました。

浜田道昭教授(理工学術院)
岩瀬 英治教授(理工学術院)2023年度支援開始
オンライン参加
岩瀬教授は、「岩瀬切り折り紙プロジェクト」の成果報告(2023~2025年度)として、「切り紙構造が誘起する折り紙構造の研究」について成果報告を行いました。本研究は、折り紙・切り紙の技術を応用し、フレキシブルデバイスの量産性と性能を飛躍的に高めた点が特徴です。具体的には、両端を引っ張るだけで多数のヒンジが一括で折り上がる構造を開発し、製造プロセスの大幅な簡易化を実現しました。さらに熱電発電への応用においては、柔軟性を素材ではなく「構造」で実現する手法を開発しました。これによって発電性能に優れた硬質素材を採用できるようになり、従来の40〜100倍という高い発電性能と、自在な屈曲性の両立を達成しました。
岩瀬教授は、これらの成果を通じ、支援開始以降、プロジェクト関連4件・関連外4件の計8件の特許を出願したことを報告しました。

岩瀬英治教授(理工学術院)

質問する田中愛治総長
休憩中は、活発な意見交換が行われました。

(左から順に)石井あゆみ教授、小林哲郎教授、山本鉄平教授 と 本間敬之常任理事、若尾真治理事、松永康教授
最後に、理工学術院の若尾真治理事から閉会の挨拶が述べられ、会は盛況に終わりました。

閉会挨拶:若尾真治理事
- 次代の中核研究者育成プログラム
「Waseda Vision 150」の核心戦略7『独創的研究の推進と国際発信力の強化』において標榜した≪若手研究者プロモーションの推進PJ≫の一環として、次代の早稲田の研究力の担い手となる中核研究者を育成するもので、若手・中堅研究者を中心としたチーム型研究の促進を図ります。一定の研究水準を満たした若手・中堅研究者を選定し、より大型のプロジェクトを獲得できるよう支援を集中させることで、研究者プロモーションを介した新たな研究分野の開拓、国際共同研究を通じた国際研究プレゼンス向上を狙う本学の独自の研究戦略のひとつです。






