森重文先生による講演会の概要
(講演者情報)12月1日(金)に、2023年度アーリーバードプログラム活動の一環として、京都大学高等研究院院長および特別教授で早稲田理工学術院総合研究所招聘研究教授にも就任されている森重文先生を早稲田大学にお招きし、「30代までの研究生活」についてご講演を頂きました。森先生は、代数幾何学を専門に研究されており、研究の成果が国際数学者会議フィールズ賞、アメリカ数学会コール賞などの数々の受賞されている、数学界でとても有名な研究者です。

メンバーの質問に答えてくだる森先生
(講演内容)本講演では、具体的な数学の話ではなく、森先生自身が京都大学に入学してからフィールズ賞を受賞されるまでの研究生活を中心に講演をして頂きました。具体的には、学生時代やポスドク時代に各研究を思い浮かんだきっかけ・研究や勉強の仕方、海外や日本の各大学で研究した際のエピソードについてお話しして頂きました。講演では特に森先生の数学に対する情熱の強さや好奇心によって共同研究を持ちかけたエピソード・今までの証明方法を疑ってみるなど、聴衆者を驚かせるような場面が多数あり、とても貴重な講演会でした。
「30代までの研究生活と森先生が考える研究生活で重要な点について」
(講演内容について) 講演中は下記の2点を中心に講演して頂きました。
(1) 30代までの研究生活
森先生が代数幾何に興味を持ったきっかけとして、1回生の際に生徒間で自主ゼミを開催し、当時クラス担当をしていた先生に指導をお願いした経験が基礎となり、2回生以降で理学部の授業を受けた際に無限やアンドレ・ヴェイル先生の代数幾何の著書の勉強に没頭したこととお話しされていました。1969年に東大紛争があった影響で当時は自主的に数学を学ぶことが中心だったと話されていましたが、それがきっかけで代数幾何に興味を持ち始めたという話を強調されていました。その後は大学院で、あまり周りでは取り組まれていないハーツホーン予想などの研究に取り組む中で代数の応用に気づく・自身の研究から生まれた着想を極小モデル理論や双有理分類論などに応用・ハーツホーン予想の異質な証明を再解釈するなど、多くの数理的証明を提案されたそうで、学生時代の好奇心に基づく探究心が実際に研究成果に結びついた過程を知ることができました。
(2) 森先生が考える研究で重要な点
数ある経験の中から「運・海外経験・人との付き合い方・モチベーション」の4点を提示されていました。先生自身は性格的に個人で研究することが多かったそうですが、研究環境を変える・色々な方と議論することで点と点が繋がるように自身の研究に生きたことをおっしゃってしていました。また、長い目で見て「禍福は糾える縄の如し」であったそうで、成果をあまり急ぎすぎず研究を続けて行った結果、先生自身は長くやっていたら結果的に当時悪かったこともよく捉えることができたと私たちに伝えていただきました。
(質疑応答) 上記2点の講演を受け、聴講者から上がった質問をまとめます。
アーリーバードメンバーからはモチベーションに関する質問や研究の進め方に関する質問が多くされました。その中で森先生の私たちには到底できないような強いモチベーションを持っている点・とりあえず寝ることの重要性・「ものが出来上がってみると美しく見える研究」をやるためにどんな行動をとっているか、という点に関連したご回答をいただきました。
懇親会では、若手数学研究者からは、普段の研究生活に関する話題が雑談ベースで取り上げられ、それに関して森先生に意見をいただくような形で意見交換がなされていました。
総括:講演会を振り返って

森先生とアーリーバードメンバー
森先生のご講演は、森先生の人柄や具体的な研究生活を知るきっかけとして、アーリーバードメンバーや参加して頂いた若手数学研究者にとって、とても貴重な機会でした。森先生の研究に関する話題は、有名であるが故にインタビュー記事や数学に関する具体的な解説記事など多くの媒体から得ることができますが、実際に直接先生にハイレベルな質問を伺うことはとても少ないことであり、特に懇親会では、質疑応答の際に緊張して質問できなかったメンバーの個人的な話についても親身に耳を傾けてくださり、メンバー全員が十分に聞きたいことを聞くことが出来ました。また、数学の助手・助教・講師の方々も専門的な分野の研究の進め方や共同研究の進め方など森先生と議論する時間があり、他参加者の方々も楽しまれていました。実際に私個人として、数学の先生のお話を伺う機会はあまりなかったため、純粋数学の研究のあれこれを知ることは今後自身が数学系の方と共同研究を行う際の重要な経験となりました。今回講演会を依頼するにあたって快諾してくださった森先生に心より感謝申し上げます。
文責:基幹理工学研究科 情報理工・情報通信専攻 博士課程3年 真殿航輝