第10回電子状態理論シンポジウムを早稲田大学西早稲田キャンパスにて開催した。
本年は「光機能に潜む化学原理」という副題のもと4件の講演 (うち3件は招待講演) が行われた。学内からの参加者は27名、学外からの参加者は13名と盛況であった。
主催である中井も講演者のひとりとして「理論化学による光機能に潜む化学原理の解明」と題し、理論化学・量子化学の発展の歴史とそれらが化学原理の解明に貢献してきたことを説明し、今後の発展が特に励起状態の化学に対して期待されることについて発表した。
阿部氏 (京都大学) には「高効率太陽光水分解実現に向けた可視光応答型半導体光触媒の設計・開発」と題し、太陽光を用いて水から水素を作る人工光合成と触媒に用いられる化合物の組み合わせや原理ついて詳細にご発表いただいた。
石井氏 (早稲田大学) には「光とスピンをとらえる有機無機ハイブリッド一次元らせんマテリアル」と題し、無機材料と有機材料を組み合わせることで紫外・赤外・偏光などの弱い光を見える光・情報へと変換する化合物の合成についてご発表いただいた。
恩田氏 (九州大学) は「時間分解赤外分光と量子化学計算による光機能性材料の動的構造解析」と題し、化合物の励起状態の赤外吸収スペクトルを直接観測し、さらに量子化学計算による解析も行うことで、励起状態の構造と光物理的性質との関係を発見する研究についてご発表いただいた。
本シンポジウムは、光化学や励起状態をテーマに最先端の研究を実施している研究者の講演により、参加者が光化学に対する理解を深め、さらにその化学原理に迫る有意義なものであった。本シンポジウムで得られた知見は、プロジェクト研究「計算化学の社会実装」を推進する上で大いに役立つものである。