Graduate School of Law早稲田大学 大学院法学研究科

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【社会人研究課題】社会保障、社会福祉・成年後見の法と行政 ー年齢、職業の垣根を越えて学びの楽しみを分かち合うー

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Tue 27 Feb 24

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Tue 27 Feb 24

世界に類をみない少子高齢社会・人口減少社会の到来などを背景に、社会保障制度の見直しが喫緊の政策課題となっています。
早稲田大学大学院法学研究科の修士課程に設置された社会人研究課題「社会保障、社会福祉・成年後見の法と行政」ではこうした大変革期にある社会保障・社会福祉・成年後見法制を分析対象とし、法的な観点から日本社会の今日的な諸課題にアプローチしていきます。
本課程で学ぶ受講生、卒業生、教員に、実際の授業やその意味・価値を聞きました。

菊池馨実(写真左)<br />
早稲田大学法学学術院教授<br />
法学研究科修士課程『社会保障、社会福祉・成年後見の法と行政』では、「社会保障法研究I、II」等の科目および修士論文指導を担当。<br />
<br />
今関誠司 (修了生)(写真中央)<br />
現職:公務員<br />
2021年4月早稲田大学法学研究科修士課程『社会保障、社会福祉・成年後見の法と行政』に入学、2023年3月に修了し、学位「修士(法学)」を取得。<br />
<br />
加藤貴世 (2024年2月現在在学生)(写真右)<br />
現職:行政書士<br />
2022年4月早稲田大学法学研究科修士課程『社会保障、社会福祉・成年後見の法と行政』に入学、2024年2月現在、修士課程2年に在籍、3月修了予定。<br />

菊池馨実(写真左)
早稲田大学法学学術院教授
法学研究科修士課程『社会保障、社会福祉・成年後見の法と行政』では、「社会保障法研究I、II」等の科目および修士論文指導を担当。

今関誠司 (修了生)(写真中央)
現職:公務員
2021年4月早稲田大学法学研究科修士課程『社会保障、社会福祉・成年後見の法と行政』に入学、2023年3月に修了し、学位「修士(法学)」を取得。

加藤貴世 (2024年2月現在在学生)(写真右)
現職:行政書士
2022年4月早稲田大学法学研究科修士課程『社会保障、社会福祉・成年後見の法と行政』に入学、2024年2月現在、修士課程2年に在籍、3月修了予定。

社会人向け修士課程の意義-社会人経験のある人たちだからこそ-

菊池:
社会保障というテーマはどちらかというと社会人で興味関心を持つ方が多いように思います。
社会で働き、現場で問題に直面している層ほど、超少子高齢社会、人口減少社会を迎えた日本の社会保障に対し不安、不信感といった関心を高く持っていらっしゃるでしょう
本研究科では1995年から社会人学生を対象としたプログラムを提供しており、本研究課題は、社会保障法・社会福祉法研究の第一人者でいらっしゃる宮島洋先生、成年後見と法に関する研究の権威でいらっしゃる田山輝明先生の知見を発揮いただくべく、私を加えた3人で2012年から社会人学生向けプログラムの一つとして開講しました。
現在は本研究科の教員に加え、社会保障・社会福祉政策の立案などに携わった経験を持つ実務家教員らによる授業を幅広く提供しています。社会保障法だけでなく、成年後見法も学べるのは本課題の特徴の1つで、他の大学では見かけることがないはずです。成年後見に関するテーマは田山輝明先生、岩志和一郎先生により支えられたものですが、現在も本研究科教員の橋本有生先生、山城一真先生により研究を深め、課題名のとおり「社会保障・社会福祉・成年後見の法と行政」のメッカとなっていると自負しています。

菊池教授:現場で活躍する社会人にリカレント教育を提供したい

菊池教授:現場で活躍する社会人にリカレント教育を提供したい

菊池:
本研究科では、研究者になる人材を育てるため研究者養成に力を入れていますが、その修士課程に入学するには外国語試験(一般入試)に合格しなければなりません。これは社会人にとってはハードルが高い。せっかく法的なセンスがあり、社会保障への関心も高い社会人が語学試験を理由に研究の機会を失うのはもったいない。そこで、本研究科では入学にあたり語学試験を課さない社会人対象の入学試験を用意しています(社会人入試制度)。より高いレベルで研究を続けることを希望する場合には、博士後期課程に進学する際に語学試験を受けて、改めてチャレンジすることができます。
早稲田大学法学研究科は高いレベルの研究環境を提供していると自負していますが、目指しているのは研究者の養成だけでなく、リカレント教育、さらに最近の言葉でいえばリスキリングの提供も本研究科が存在する目的の一つなのです

この研究課題に入学したきっかけ-深く学んでみたいという思い-

今関:
大学院に進学を検討したそもそものきかっけは転職でした。
今の仕事に転職が決まった際、福祉関係の業務に携わることとなり、社会保障を法的な側面から学びたいと考えるようになりました。
私が受験したときはコロナ禍真っ只中でしたが、その頃から子育てが少し落ち着いたり、転職によって勤務場所や時間が変わったりして、幸いにも大学院に通えるようになった環境も手伝い、大学院への進学を本格的に考え始めました。
この研究課題を知ったのは、菊池先生の著書『社会保障再考 〈地域〉で考える』(岩波新書)を読み、菊池先生のもとで学びたいと調べたときでした。社会法学分野に強みがある早稲田大学の法学研究科に社会人向けの入試があることを知り、すぐに出願を決意しました。

加藤:
私も、菊池先生の著書『社会保障再考 〈地域〉で考える』(岩波新書)を読んだことがきっかけでこの社会人研究課題に出願しました。
私は学部を卒業したころからずっと、大学院に進みたいという思いがあり、それが5年、10年とたっても変わりませんでした。大学院進学について学部時代のゼミの先生に相談したところ、「生半可な気持ちでは大学院は続かないが、やる気と時間があるならチャレンジしてみたら」と厳しくも背中を押していただける言葉をもらい、出願を決意した次第です。
社会保障という研究分野を選んだのは、仕事ではなくプライベートなことがきっかけでした。社会人になり家庭を持ち、出産や医療などで社会保障制度のお世話になることが増え、関心を持ちだした頃に先生の著書に出会いました。もともと早稲田大学の大学院に進みたいと考えておりましたので、この先生のもとで学べる機会があるならば、とチャレンジしてみることにしました。

今関さん:社会保障を法的な側面から学びたい

今関さん:社会保障を法的な側面から学びたい

入学後の実際の様子-遊びは後回し!-

今関:
入学した当初は慣れない新しい環境に戸惑うことも少なくありませんでした。
大学院での授業のペースをつかんだのは、授業で初めての発表を終えてからです。
大学院ですから、授業は講義ではなく演習形式で行われます。学期冒頭に授業で、その学期に取り上げる論文の担当決めがあります。報告担当となった大学院生は、論文の要約と自分の意見を報告資料にまとめて発表します。授業は、先生を含めた10数名の出席者から出る質問に答えたり、全員で議論したりしながら進みます。初めての発表の際は、出席者の質問に答えるためには、論文をどのように読み込めばいいのか勝手がわからず、授業で配る論文の要約の作成にも手間取り、準備にはかなり時間がかかりました。それでも何とか初めての発表を終え、菊池先生にお褒めいただいたときに、やっとひと山超えて、修士課程で学ぶペースをつかめたように思います。

加藤:
私も入学してしばらくは、学業と仕事、家庭のバランスの取り方について模索していました。何とか時間配分、ペースをつかめるようになったのは秋学期(2学期目)あたりで、そこからは徐々にうまく回せるようになりました。修士課程2年目の現在は充実した毎日になっていると実感しています。

今関:
時間配分で悩んだのが食事の時間の確保です(笑)。
仕事終わりにもう一度エンジンをかけて授業に臨むために食事をしたいのですが、通学の時間も必要で食事をとる時間がなかったんです。結局、授業の前にコンビニのおにぎりと栄養ドリンクを摂るというスタイルに落ち着きました(笑)。
仕事が忙しく大変な時期もありましたが、平日は、移動中に論文や判例等の文献を読みつつ、仕事を中心に過ごし、論文執筆は週末に集中して取り組むという具合に、研究と仕事のメリハリを意識して取り組むことで、結果的に十分対応できました。授業後は大学の図書館で論文のコピーをとり、その論文を帰りの電車の中で読むのが習慣になりました。楽しい時間でしたね。

加藤:
私の場合は、大学院、仕事、家庭、プライベートに優先順位をつけるのではなく、たとえば、時間を30分見つけたら論文を読む、というように、空いた時間を研究時間に充てることにしています。忙しい生活に聞こえるかもしれませんが、大変充実しており、辛いと感じたことはありません。大学院進学を決めた際、「修士課程の2年間、遊びは後回し!」と決めました。

授業では時には厳しい場面も

今関:
学生は皆、自分が発表する際にはかなり念入りに準備をして臨みますが、他の学生の発表にも意義のある質問や発言をしようと事前準備をしてきます。
とある先輩が発表した際、菊池先生から厳しい指摘が飛んだこともありました(笑)。

加藤:
議論そのものは、自由な雰囲気の中で行われますが、先生や他の学生からどのような質問が出るかわからないので、私もそうですが、みんな緊張感をもってしっかり準備してきます。

今関:
ただ、ディベートのように相手を打ち負かす議論ではなく、お互いを深め合うアカデミックな議論です。だいたい授業時間の半分程度が発表、半分程度が議論の時間でしたが、知的でワクワクする時間で、あっという間に過ぎていました。

菊池:
そうですね。厳しいとか辛いだけでは研究は長続きしません。学びを深めることは楽しいことと感じることが大切で、まさにそれを実感できるのが大学院だと考えています。

加藤さん:遊びは後回し!と決めました

加藤さん:遊びは後回し!と決めました

年齢も職業も関係なく支えあえる仲間に出会えた

加藤:
毎日の暮らしの中で空いた時間を研究に充てているわけですが、レポート課題の提出前などはやはり睡眠時間を削ることがあります。学部生時代の期末試験などを思い出して懐かしい気分にもなりますが(笑)、そんなときに支えになるのが同期の仲間です。帰り際の駅に向かう際などにお互いに進捗を確認したり、慰めあったり、励ましあって今も支えてもらっています

今関:
私のときはコロナ禍の影響でオンライン授業も多かったのですが、やはり対面で同期の仲間と会えると刺激をもらえ、大学院で学んでいるという実感もわきました。授業前後に雑談するなどしてリフレッシュもできました。同期は30代から50代と年齢の幅が広く、職業もバラバラでしたが、皆が有意義な大学院を過ごすという意識にあふれていて、本当に仲間に恵まれたと思います。卒業した今も、SNSを通じて連絡を取り合っています。

菊池:
受講生には国家公務員、地方公務員、弁護士、司法書士、行政書士、民間企業の人事や労務の担当者など、社会保障や社会福祉、成年後見に関連したさまざまな経歴や職種の人がいて、さらには研究者志望の大学院生も受講しているので、お互いに刺激を受け、切磋琢磨して学んでいます。年齢や業種を超え同じ問題を研究する仲間は、他では得がたい貴重なものです。年齢も職業も学問には関係なく、学問の前では、大学院生も教員も誰もが平等なんです

学問の本質に触れる2年間 -修士課程2年間のスケジュール-

■1年目は主に科目履修、2年目は主に修士論文執筆

今関:
修士学位ですから、修士論文をまとめることが2年間の大きな目標になります。大学院に入る直前の3月に行われた履修相談会で、先輩から「1年次でできるだけ単位を取得して、2年次は修士論文の執筆に時間をとった方がいい」とアドバイスされたことから、1年次で必要な30単位のうち26単位を取得し、2年次に菊池先生の演習だけを履修することで、修士論文に集中して取り組むことができました。

加藤:
私も入学前の3月に行われた課目登録のガイダンスの際に、菊池先生から授業の取り方などについて同様の指導をいただき、1年目で大半の必要単位を取得し、2年目の現在は修士論文に集中しています。

■修士論文作成の実際

今関:
修士論文は『障害者就労支援の連携に関する考察』というタイトルでまとめました。修士論文を書く上で素材となる厚生労働省の審議会等の議論状況などの一次文献を、1年次から2年次前半にかけて徹底的に読み込むという地道な作業を続け、同時に論文の構成などを検討していました。その際、授業の中で、少しずつでも書けるものは書くことが大事、という指導を受けていましたので、すぐに書ける項目は部分的に執筆していました。そして、2年次の夏休みにおおまかに論文を書きあげて、秋に修正を加えてまとめたというのが、おおまかなスケジュールです。菊池先生が学期ごとに報告と指導の時間を設定してくださったので、色々と相談に乗っていただきました。

加藤:
大きなテーマは変わっていないのですが、1年次で考えていた内容を2年次になってガラリと変えてしまいました。そのために、先行研究の論文や資料を改めてかき集めて読むことになりました。なかなか計画通りに論文の作成は進みませんが、限られた時間で精一杯やろうと決め、現在(2023年12月インタビュー時)はラストスパート中です。菊池先生は2、3カ月ごとに進捗状況や内容などを指導いただいています。

菊池:
丁寧な指導を心がけていますが、学生によって感じ方、受け取り方は違うかもしれません(笑)。しかし、論文の作成は手取り足取り指導するものではなく、自分で考え判断することが大切です。その経験によって自信もつくし、その後の仕事などにも生きてくるに違いありません。

法的思考力が身につく

加藤:
社会保障の必要性や役割といったものを理解していても、これまではどこか他人事として見ていましたが、大学院で学ぶ中で「自分ごと」として考えるようになり、社会を見る目が変わりました。また、法学的な思考が身につき、仕事での説明などがより論理的にできるようになったと思います。

今関:
私は修士課程で法学研究では内容はもちろん、形式も重視されるということを学びました。たとえば、提出するレポートや、授業で使う論文の要約などでは、報告内容はもちろん、注書きの書き方を含めて、誤字や脱字、変換ミスといったものが先生から厳しく指摘されます。法律の研究とはどういうものなのかということを実感しながら教えていただくことができました。また、修士論文の作成などで論点の整理や、資料の適切な要約や引用を学んだことによって、より論理的で、かつ、わかりやすい文書をスピーディーに作成できるようになり、仕事にも役立っています。また、ものごとを論理的、構造的にとらえられるようになり、様々な事柄に対し、問題意識と自分の意見を持てるようになったことも2年間の成果です。

加藤:
菊池先生が「法学は徒弟制度だ」と話されたことがあります。まさにその通りで、先生との間で濃密で充実した研究生活を大学院では送ることができます。また、私は中央図書館の地下ある大学院生用の学習用個室が、静かで作業に集中できて気に入っています。個室に閉じこもって文献などを読んでいると、深い森の中や海の底にいるような不思議な感覚にとらわれるほど、集中できるときがあります。

今関:
先にも言いましたが、早稲田大学の図書館には、社会保障や社会福祉などを含む法学全般について、本当に多くの書籍や論文などが収蔵されていて、授業の発表の準備や修士論文の作成などに大きな力になってくれます。早稲田大学は、中央図書館のほかに、社会科学系の図書を集めた高田早苗記念研究図書館やそれぞれの学部・研究科が図書室を持っており、在学生はその全ての図書館が利用できますので、それぞれを巡って文献を探す楽しさを堪能できます。私は学内のほとんど全ての図書館を利用したかと思います。
大学院でのアカデミックな研究生活は、単なるリスキリングを超えて、一生楽しめる「知」を与えてくれるはずです。

菊池:
研究に夢中になっていると、たしかに深い森に分け入っていくような感覚に襲われることがあります。それも大学や大学院で味わえる楽しさや喜びのひとつといえるかもしれません。
早稲田大学の大学院で学ぶことは、学問の本質に触れることです。教員や研究者と一緒に学ぶことは楽なものではありませんが、そこを超えたところに喜びや楽しさがあり、自身の成長もあります。早稲田大学の大学院では期待したものを得られるはずです。志のある人に、ぜひ来てほしいと思います。

2024年2月 早稲田大学大学院法学研究科

(御礼)
菊池先生、今関様、加藤様、インタビューへのご対応ありがとうございました!

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