School of Humanities and Social Sciences早稲田大学 文学部

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「カネでよむ中国史の裏側」文学部 柿沼陽平准教授 (新任教員紹介)

自己紹介

私はもともと中国の歴史、とりわけ『三国志』が大好きでした。中学校の同級生の影響で、横山光輝の漫画『三国志』を読んだのがきっかけでした。中学・高校のときは水泳やスキーに励んでいたため、あまりマジメな学生ではありませんでしたが、それでも多少関心のあった中国史を学ぶべく、1999年に早稲田大学に入学しました。当時アジア史コースにおられた工藤元男先生は、出土文字資料を活用した秦漢時代史研究の第一人者で、大学一年のときに研究室を訪れると、「ならば大学院の授業に出なさい」といわれ、さっそく大学院の授業にもぐることになりました。当時は地獄でしたが、今となってはこの経験が良かったと思っています。このときも、スキーをしたり、飲み会に参加したり、アルバイトをしたりと大忙しで、やはり学問に専心していたわけではないのですが、大学三年生のときに一念発起し、イギリスのUniversity of Birminghamに留学しました。大学卒業後の進路に悩んでいたころでしたので、「将来に役立つかも」程度の考えで、英語を勉強しに行きました。しかし現地で社会学とカルチュラルスタディーズの魅力にとりつかれ、そのコースに入り、徹底的に学問のイロハをたたき込まれました。バーミンガムはカルチュラルスタディーズ発祥の地で、当地では「それを学ばずしてどうする」という雰囲気があったのです。ところがその過程で、あらためて多角的にアジア史をみる面白さに気づきました。そこで帰国後に大学院進学をし、紆余曲折をへて、2020年4月から工藤先生の後任として出身校に着任しました。こうして私は、趣味をそのまま仕事にすることになりました。年齢を重ねるたびに、さらに検討すべきこと、考えが変わったところなど多々ありますが、中国の歴史が奥深く面白いものだという認識には変化がありません。歴史学の奥深さや面白さをこれからも皆さんに伝えていければよいと思っています。

私の専門分野、ここが面白い!

「世の中はカネだ」。現在そこかしこで耳にするこの台詞は、じつは洋の東西を問わず、古代人も口にしたセリフです。もとより春秋時代の孔子は「貧と賤とは、是れ人の悪む所なり」、「富と貴とは、是れ人の欲する所なり」とのべたことで知られ、漢王朝の時代には「守銭奴」の語も登場しました。『三国志』の時代(後3世紀頃)には『銭神論』という文学作品まで著わされ、そこに「世の中はカネだ」に類似するセリフがみえます。それでは、なぜ中国の人びとは昔からカネに心を奪われ、その起源はどこにあるのでしょうか。私の研究テーマは、中国古代のおカネの実像を明らかにすることです。

 

写真1:居延地方で出土した漢代の五銖銭

 

写真2:中国古代の簡牘史料

 

またおカネは、中国古代史を動かす大きな要因ともなりました。歴史の舞台裏を知るには、おカネの流れをつかむ必要があるのです。現代資本主義社会に生きる私たちにとって、それは当たり前の認識かもしれません。しかし中国古代社会でもおカネは同様に重要だったのか。重要だったとすると、おカネは具体的にいかに歴史を動かし、どのような時にどのような場で、一体どのような役割を果たしたのかが改めて問われねばなりません。具体的にそういうことを考えてゆくと、意外にわからないことだらけです。しかも近年、木簡・竹簡・帛書・石刻などの出土文字資料が次々に発見・公開されています。その解読を通じて、おカネの動きや、中国古代社会の実態がますます明らかになりつつあります。

このように、古代史研究はまだまだ謎だらけです。私のゼミでは日々その解明に取り組んでいます。それによって、中国経済がなぜ現在のような形をし、いかなる歴史の産物であるのかも明らかになり、現代中国に対する理解も深まると期待しています。

プロフィール

1980年、東京都生まれ。 早稲田大学卒業。 University of Birminghamに留学。早稲田大学大学院文学研究科に進学し、2009年に博士(文学)学位取得。2011年に中国社会科学院歴史研究所訪問学者、2013年に帝京大学文学部講師、2016年に同大学文学部准教授。日本学術振興会特別研究員DC1、PD、中国社会科学院歴史研究所訪問学者、早稲田大学文学学術院助教、日本秦漢史学会理事、中国出土資料学会理事、中国中古史青年学者聯誼会理事、日本秦漢史学会監事、三国志学会評議員等も歴任し、2020年より本学准教授。2006年3月に小野梓記念学術賞、2016年3月に櫻井徳太郎賞大賞、2017年3月に冲永荘一学術文化奨励賞を受賞。専門書に『中国古代貨幣経済史研究』(汲古書院、2011年)、『中国古代貨幣の持続と転換』(汲古書院、2018年)、一般書に『中国古代の貨幣 お金をめぐる人びとと暮らし』(吉川弘文館、2015年)、『劉備と諸葛亮 カネ勘定の『三国志』』(文藝春秋、2018年)、監修本に『キッズペディア世界の国ぐに』(小学館、2017年)等。

 

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