文学部長 高松 寿夫
早稲田大学文学部は、その教育理念を「多様な学問・文化・言語・価値観の交流を育み、地球社会に主体的に貢献できる人材を育成する」としています。
「多様な学問・文化・言語・価値観」を学んでもらえるように、18のコースが設置され、それぞれを専攻する多数の教員陣が、入門的な内容の科目から、高度な専門性を有する科目、卒業論文指導に至るまで、各段階の科目を担当し、体系だったカリキュラムの提供に努めています。人文科学の専門領域として、学べない領域はないといってよいほどに、多様な科目が提供されています。語学教育についても、英語はもちろん、中・仏・独・露の各国語、さらにスペイン・イタリア・朝鮮・アラビア語といった言語に至るまで、それぞれ多様な段階の科目が提供されています。古典語(ギリシャ・ラテン・サンスクリット)やチベット語も学ぶことができます。
新入生の皆さんには、多様な文化・言語の世界を実感してもらえるように、いきなり特定のコースに所属するのではなく、複数の言語をしっかり時間をかけて学び、様々な領域の授業も履修し、さらには専門的に研究をして行くための基礎的リテラシーを習得してもらうカリキュラムが設定されています。その課程を経たうえで、2年次に進級する際に、どのコースに進むかを考えてもらうことになります。
高校生のときから、文学部に行ったらこういうことを専門にしようという、具体的な目当てをすでに持って入学して来る方も少なくないことでしょう。早稲田大学文学部は、そのように学問的志向をあらかじめ強く持って入学して来るあなたを、大いに歓迎します。そして、そのようなあなたにこそ、高校時代には本格的に接することがなかったであろう多様な言語や学問領域に触れてもらい、ああ、こういう世界もあったのだ、という気付きを経験してもらいたいと願っています。
最後に私個人のことを少しお話しします。私は日本の古典文学を専攻しています。大学受験時すでに、日本の古典的な領域を専攻したいと考えていました。しかし、特にどの領域を専門とするかについては、絞り込めていませんでした。入学が決まってしばらくたって、チラシを通して、ある教授の個人研究室で開催される万葉集輪読の研究会の存在を知りました。少し興味を持って、何回かその研究会に参加するうちに、すっかり研究会の面白さに魅了されてしまいました。そしてそのまま、万葉集が卒業論文のテーマとなり、こんにちの自分の専攻分野となった次第です。万葉集との出会いは、まったくの偶然でした。多くの在学生の皆さんにも、その後の人生を決定するような偶然の出会いを、この文学部で経験してもらいたいと思います。我々教職員も、それを期して日々努めています。