From the Dean

学部長挨拶

文学部長 岡本 智周

教育機関としての大学は、初等・中等教育に続く高等教育の場です。そこで学ぶ者は「学生」であり、初等教育段階での「児童」、中等教育段階の「生徒」とは区別されます。この名称の違いには、大学での学びのあり方の違いも重ねて考えることができます。大学は、既にある知識を教わるだけの場所ではありません。これまで人類が築いてきた知を受け取りながら、自ら問いを立て、その問いを探究することによって、新たな認識へと歩みを進める場所です。

 

そのような学びを支えるために、早稲田大学文学部は、文学や思想、歴史、言語、芸術を研究し、人間と文化を考える領域から、人間の心や教育、社会を探究する領域まで、幅広い学問領域を擁する18のコースを備えています。ここに蓄積されている知は、前身の東京専門学校に文学科が設置された1890年以来、今日まで受け継がれ、培われてきた早稲田の人文知の結晶でもあります。

 

この教育研究環境のもとで、文学部での学修は段階的に進みます。まず1年次に、多様な学問領域に触れながら、大学で学び研究するための基礎を身につけます。2年次からは18コースのいずれかに進み、それぞれの専門領域で学びを深めます。そして学修の集大成として、すべての学生が卒業論文に取り組みます。知識の習得から始まる学びは、やがて自らの問いを見出し、それを研究として形にする段階へと進んでいきます。

 

こうした学びの意味は、現在の社会状況のなかで、いっそう大きくなっています。近年、人文・社会科学の社会的な価値が問われ、教育研究組織の縮小や再編が論じられることがあります。その背景の一つには、目的達成に有効な手段を重視する道具的合理性や、知識の価値を短期的な有用性によって測る功利的な知識観があるのでしょう。しかしながら、そうした考え方だけでは捉えられないものを探り出すことも学問の役割です。それゆえに、人間と社会を理解し、歴史を捉えるための知識や、言葉や作品に表された人間の経験を読み解く力、そして私たちが生きる世界を多面的かつ批判的に考える力が重要となります。

 

4年間で培った知は、自ら問い続け、学び続けるための知性の骨格となります。それは卒業とともに完結するものでもなく、その後の人生においても成長し、他者との対話や社会への関わりを支えていくはずです。人間とは何か。人間は世界をどのように言葉や作品に表してきたのか。私たちはどのような歴史の上に立っているのか。社会はなぜ現在のような形をしているのか。他者とどのように共に生きるのか。私たちが向き合い続けるべき問いは無数にあります。

 

皆さんが早稲田大学文学部で自らの問いを見出し、その探究を通して、生涯にわたって学び続ける知性を育てていくことを願っています。