2020年5月7日
文学部長 草野慶子
学生のみなさん、いよいよ、そしてようやく、文学部の授業が始まります。
依然として私たちは、キャンパスで、教室で、互いに相まみえることができません。
それでも授業が始まります。教員はこのひと月以上、オンライン授業の準備に全力で取り組んできました。ほかには選択肢がないこの状況で、しかしどんな状況であっても、早稲田大学文学部の授業の質を落とすわけにはいかないからです。
皆さんのなかには、オンライン授業というのは、すなわちオンデマンド動画による講義、あるいは同時配信双方向型の授業であって、LMS(Waseda MoodleあるいはCourse N@vi)で教員が毎回資料のファイルを提示し、学生が課題提出を行うタイプの授業は旧式の、ひょっとしたら「手抜き」のオンライン授業だと考える方々が、いらっしゃるかもしれません。
しかし私はそうは思いません。文学部は「文」の学部です。言葉をもって、言葉の連なりである文でもって、手紙(文「ふみ」)をかわすように学生と教員が互いの思考を理解しようと努め、与えあい、気づきを得て、さらに互いの思考を深めていく。これが教育でなくてなんでしょうか。言葉、文、言語によって可能となる思考、その愉楽を幸福を、もしかするとこうした授業は、対面の授業以上に、体験させてくれるかたちであるかもしれません。
いつもより長い春休みのあいだ、みなさんは、学問に飢えて、焦がれていらしたことと思います。私は授業が始まっても、みなさんがそうした学問への「飢え」を味わいつづけてくださるとよいと思います。それは対面での授業ができないゆえの飢えではなく、学問を成り立たせる、学問を駆動する欲望としての「知への飢え」です。