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Vol.8「八幡鮨」
-「かっぱ巻き」発祥の店、一握入魂-

八幡鮨

江戸時代の高田馬場跡地、現在の”西早稲田”の交差点に金文字で輝く「八幡鮨(やはたずし)」。創業明治元年(1868年)。早稲田で最古参の店だ。八幡鮨の五代目、安井栄一さんにお話しを伺った。


「八幡鮨」は、創業明治元年ですね?
「はい。初代の伊三郎が明治元年、穴八幡宮様から屋号をいただいて、穴八幡宮の参道脇で、団子屋「八幡屋(はちまんや)」として創業しました。穴八幡宮の参拝客や、坂を往来する人々で繁盛していたようです。大正4年、坂を上った西早稲田の交差点付近に移転して、その後、二代目が鮨屋に商売を替えました。私は、世代としては五代目にあたります。」

毎年5月に行われてきた「体育各部新人パレード」も、早稲田通りの八幡鮨の前を通る

団子屋から、鮨屋へ-三代目ゆきの願い-

はじめは、お団子屋さんだったのですね。なぜ、鮨屋に変わったのですか?
「当時は、団子屋から始めて、和菓子屋となり、大正期に入るとミルクセーキも売るようになったようです。あるとき、二代目の娘の”ゆき”が、『商売するなら、鮨屋がいい!』と二代目に頼んだようで、それがきっかけとなって二代目が鮨屋に商売替えしたとのことです。」

大隈さんとのエピソード

ゆきさんの願いが叶って、現在に繋がっている・・・。
「はい。ゆきは、私の祖母になります。その祖母がよく話してくれたのが、大隈さんとのエピソードです。ゆきが6~7歳のころのお話です。当時、大隈重信候主催の園遊会に、八幡屋はお庭まで五色団子をお届けしていたそうです。ゆきも何度もついていったそうで、その後、お屋敷にひとりで遊びに行っていたようです。お庭で遊んでいると、大隈候がわざわざお庭に出てきてお話ししてくれたり遊んでくれたそうです。」

大隈さんに遊んでもらった・・・。それは、貴重な経験ですね。
「そうですね。『大隈さんは子供好きでお優しい方で、銅像の顔とは印象が違うのよ』とのことでした。大正14年、ゆきは私の祖父にあたる清と結婚して(挙式会場は大隈会館)、三代目として八幡鮨を継ぎ、戦前から昭和30年代まで、夫婦で鮨を握りました。女性の鮨職人は今では珍しくありませんけれども、当時はかなり珍しかったと聞いています。」
*以下の画像は店内を360度見ることができます。五代目の隣には六代目が。[THETA 360,biz]
[1階]

「かっぱ巻き」は、八幡鮨が発祥!

そして、四代目ですね。
「はい。私の父、四代目の弘は、戦後すぐからここを継いで、現在も現役で、板場に立つことがあります。今日は、四代目にかっぱ巻きを巻いてもらいますね。」

「元祖かっぱ巻き」誕生のストーリー

戦後、食料難の日本はGHQの統制もあり、ネタも自由に手に入らず、鮨を食べることは難しかった。当時10代だった四代目弘さんは、定番の鉄火巻き、かんぴょう巻きの代わりに、生のきゅうりを巻いてみた。きゅうり巻きが誕生した瞬間だった。その後、次々と寿司店が新ネタとして取り入れ、あれよあれよと広まり、後に「かっぱ巻き」と称して全国区になっていった・・・。

さっぱりした冷たいきゅうり。安定のシャリ。仄かに香るごま、山葵。ぱりっとした海苔。四代目が愛情を込めて巻く。四代目がいたら、元祖カッパ巻を握ってもらうのはマストだ。

かっぱ巻き考案者、四代目弘さんに元祖かっぱ巻きを作っていただいた

これが「元祖かっぱ巻き」だ

四代目弘さんは「郷土史研究家」でもある。2017年に出版された『早稲田わが町(書籍工房早山)』は、八幡鮨を中心とした早稲田、高田馬場の風土史となっている。江戸時代の高田馬場の話から現代まで、映画「ALWAYS 3丁目の夕日」のように、早稲田の地域の人々の息遣い、大学関係者の声が聞こえてくる本だ。

五代目の創作料理

五代目のブログを拝見しましたが、いろいろな方と・・・。
「ありがとうございます。鮨屋でありがたいと思うのは、立派な方々とカウンター越しにお話させていただけることです。鮨屋という小さな空間にありながら、多くの素晴らしい方と出会えるのは本当に幸せなことです。多くのことを学ばせてもらえます。」

10年以上も書き続けているブログでは、五代目の栄一さんは、和食だけでなく、フランス、イタリア、ベトナム、中国と様々な料理を楽しみながら研究しているグルメであることがわかる。また、スポーツ、音楽、演劇、美術を楽しみ、読書家でもある。大学教授、学生、作家、政治家、噺家、音楽家、俳優、映画監督、プロ野球選手らアスリート、また外国人ともカウンター越しに話すことが多い。高いレベルの教養が学べる鮨屋のカウンターは、さながらグローバルエデュケーションセンターだ。

創作鮨「ウニの手毬り寿司」

定番の江戸前鮨はもちろんのこと、五代目がつくる創作鮨にも注目してほしい。その筆頭が「ウニの手毬り寿司」。固い海苔ではなく、あっさりした鯛でウニを巻くと、繊細なウニの風味が引き立つから不思議。鯛には煮切り醤油、ウニには自家製の「雲丹香煎」をかけていて、そのまま召し上がれる。お好みやおまかせ握りに入っている逸品だ。

注目のウニの手毬寿司は「瑞雲(ずいうん)」と命名。

八幡鮨のこだわり

早大生アルバイトが書いてくれたポスター。八幡鮨にはいつも優秀な早大生アルバイトがいた

八幡鮨専用の新米

八幡鮨のメニューやネタについて、教えてください。
「味やメニューは、時代やお客様のお好みにあわせて少しずつ変わっています。変わりなく、受け継がれているのは、アットホームな雰囲気、親しみやすさだと思います。シャリは、茨城県の八幡鮨のための田んぼがありまして、綺麗な井戸水で育てた無農薬米です。四代目の女将の実家(茨城県古河市)で心を込めて大切につくっています。」

名店の鮪問屋とのおつきあい

板がいろいろありますね?
「鮪問屋で有名な名店、稲良商店さんとは70年ものお付き合いがありまして、その季節で一番の生マグロを仕入れています。”高級生鮪仕様店”の手彫りの看板をいただいて、カウンターの中に飾っています。ぜひ自慢の生マグロを召し上がってください。カウンターの上の看板は、長いお付き合いをしている寿司店の皆様からいただいたものです。」

江戸前の有名店からいただいた自慢の看板。玉寿司は現在の築地玉寿司さん

ここで、早大生が食べやすいお昼のランチメニューを紹介する。

ランチ握り

本格的な鮨屋のカウンターで、リーズナブルに食べられる。普通1,300円。大盛は1,600円。写真は大盛。

特製ばらちらし

ちらしのシャリは、野菜、シイタケなどを炊き込んだもの。鮨ネタも絶妙に味付けされており、醤油は不要だ。そのまま召し上がれ。普通1,300円。大盛は1,600円。写真は普通。

八幡鮨のお客様

*以下の画像は店内を360度見ることができます。[THETA 360,biz]
[2階]


たくさんの方が来店されていると思いますが、印象的なお客様はいらっしゃいますか?
「そうですね。八幡鮨の長い歴史では、数えきれないほど多くのお客様に恵まれまして、一言では言えないです。」とのことだ。目の前に戸塚球場(1947年から安部球場と名称変更)があったことから、野球部、応援部との関係は深い。安部磯雄部長、初代監督の飛田穂洲をはじめ、歴代の監督や選手たち。代々、野球部の関係者が出入りした。また、柔道部、剣道部、卓球部など体育館を拠点とする多くの運動部関係者も訪れる。卒業しても、自分の店として八幡鮨に顔を出す。先輩が後輩を連れてきては激励し、魂や伝統を繋いでいく。最近では、読売巨人軍の重信慎之介選手(2016年教育卒)は、何人もの後輩を連れてきて「君も後輩をここに連れてくるんだよ」と言ってくれたそうだ。このように後輩につながっていく。

応援歌「紺碧の空」の作曲者 古関裕而さんが来店

早稲田大学応援歌「紺碧の空」。何世代もの早大生が肩を組み歌い繋ぐ名曲は、2020年のNHK朝の連続ドラマ「エール」でも取り上げられた。昭和46年、「紺碧の空」生誕40周年記念の会に、作曲者の古関裕而さんや当時の応援部、野球部の関係者が八幡鮨に集まった。作詞された住冶男さんが29才で亡くなってしまったことだけが残念だったという。

「紺碧の空」作曲の古関裕而さんの色紙

鮨は、世界に通じる日本文化

私が学生のときは、鮨屋に入る勇気はありませんでした。早大生は、鮨を食べに来ますか?
「確かに、昔は、学生さんは少なかったですね。最近は、ランチタイムに一人で来てくれたり、友達同士で来てくれたりしています。うちは、ランチも同じネタで握っていますので、おすすめですよ。あと、早稲田大学は留学生が多いですよね。日本文化に関心のある優秀な留学生は、日本の鮨にも非常に興味があるようです。たくさんの個性的な留学生が来店してくださいます。彼らは印象も強いですし、話ができると楽しいです。母国に帰ってからも連絡をくれたり、来日時に店に寄ってくれたり、長くお付き合いできるのは楽しくうれしいことです。」

留学生のために、貸切り「すし講座」を開講!

「かつて、早稲田大学のICC主催で、早稲田大学の留学生を対象に”すし講座”を開講したこともあります。四代目とともに、高田馬場の歴史や鮨の成り立ち、マナーや食べ方などを説明しました。最後に、握りを実演して、試食してもらいました。大変盛り上がりましたね。」

ベルギーのプリンセスもお気に入り

「2006年に、ベルギー王室のアリックス・リーニュ王女様が早稲田大学に半年間、留学されていました。王女は、毎週のようにお友達を連れて八幡鮨にお越しいただきました。あるとき、日本テレビ「皇室日記」で王女の特集があり、日本で一番好きな店として八幡鮨を取り上げていただきました。忘れられない思い出です。この他にも、数えきれないほど多くの留学生が来てくれました。サウジアラビアの王子とも仲良くなりました。早稲田大学に来られる留学生はみなさん優秀で世界中で活躍されていますが、日本や日本文化を愛してくれていると感じます。先日は、日本がマスク不足になっているときに、台湾の元留学生がマスクを送ってくれました。その優しい気持ちが本当に嬉しかったですね。」

早大生へのメッセージ

五代目栄一さんが八幡鮨の伝統を守り、未来につなぐ

最後に、早大生へのメッセージをお願いします。
「八幡鮨は、創業時から、早稲田大学の近くに根を張ってやってきました。たくさんの学生さん、先生方と出会い、語らい、召し上がっていただいています。お一人様、お二人様、友達同士でも、女性お一人でも入りやすい店です。昼休みに、気軽にご来店ください。若い方たちが鮨を食べてくれるのは、本当に嬉しいことです。早大生のみなさんが社会に出て卒業生として母校を訪ねたときに、学生の時に通った行きつけの鮨屋にちょっと立ち寄る・・・、というのも感慨深いと思います。早稲田のキャンパスでお友達や先輩と語らい、青春の1ページなるものを1日でも早く楽しめることを願っています。」

西早稲田の交差点にある八幡鮨。今日も、五代目は、早大生がカウンターに座るのを待っている。ひとつひとつの握りに真心を込めて。一握入魂。

【店名】八幡鮨
【住所】新宿区西早稲田3-1-1
【TEL】03-3203-1634
【URL】http://yahatazushi.com/
【営業時間】火~日曜日 11:50~13:30(ラストオーダー)、17:00~19:30(ラストオーダー)、祝日は夜のみ。
【定休日】月曜
*営業時間、定休日は、変更の可能性があります。お電話でお問い合わせください。

宣言「ワセメシ、ワセマチは、早稲田文化である」

早稲田大学のキャンパス周辺は、早大生や教職員、校友、街の方々が交流する交差点であり、たくさんの出会いがあります。みなさんには、馴染みの食堂やお気に入りのカフェがあることでしょう。早稲田文化ラボ編集部は、早大生の青春の舞台である早稲田大学の町(ワセマチ)も、飲食店(ワセメシ)も大切な「早稲田文化」のひとつだと考えています。

新型コロナウイルス禍で、早大生がいないワセマチ。多くの飲食店が大きなダメージを受けています。早稲田文化であるワセメシ、ワセマチを応援したい。このコーナーでは、キャンパス周辺地域の飲食店を中心に紹介していきます。まだ通学できていない1年生に参考にしてもらえたら…。上級生が来校時になじみの店に立ち寄ってくれたら…。校友のみなさんもきっとワセメシ、ワセマチを応援してくれる…。そのような願いを込めて、ワセメシ、ワセマチ情報をお届けします。

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