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第二回(2009年度) 早稲田大学坪内逍遙大賞選考委員会

award_img02【委員長】
高井有一 (小説家)

【副委員長】
石原千秋 (早稲田大学教育・総合科学学術院教授)
大川繁樹 (株式会社文藝春秋 第一出版局第一文藝部部長・前文學界編集長)

【選考委員】
小田島恒志 (早稲田大学文学学術院教授)
巽孝之 (慶応義塾大学文学部教授)
沼野充義 (東京大学文学部教授)
松田哲夫 (株式会社筑摩書房 顧問)

実施スケジュール

受賞者

【大賞】:多和田 葉子 (たわだ・ようこ)

1960年東京都生まれ。早稲田大学第一文学部(ロシア文学専攻)卒業後、ドイツに移住。1990年ハンブルク大学で修士学位取得。1987年に日本語とドイツ語の2ヶ国語詩集『Nur da wo du bist da ist nichts(あなたのいるところだけ何もない)』を出版したのをかわきりにドイツ語での執筆活動を続け、1996年、バイエルン州芸術アカデミーよりシャミッソー文学賞を受賞するなど、高い評価を得ている。国内では、1991年『三人関係』所収の「かかとを失くして」で群像新人文学賞を受賞。1993 年『犬婿入り』で芥川賞、2000年『ヒナギクのお茶の場合』で泉鏡花文学賞、2002年『球形時間』でBunkamuraドゥマゴ文学賞、『容疑者の夜行列車』で2002年伊藤整文学賞、2003年谷崎潤一郎賞を受賞している。ジャズピアノとのコラボレーションによる自作の詩の朗読も日独両国で好評を博す。 最新作は『ボルドーの義兄』(2009)

【多和田葉子氏授賞理由】

多和田葉子氏は、日本語とドイツ語の両言語で詩や小説を書き、それぞれの国で高い評価を受けるという、日本文学史上稀に見る異色のバイリンガル作家である。同氏はまた、ヨーロッパをはじめとする世界各地での朗読やパフォーマンスを通じて、国際的に活躍している。言語と国の境界を超えた同氏の実験的な作品は、日本文学の既成の枠組を拡張し、新しい時代の世界文学の方向を切り拓くものであり、坪内逍遙大賞に相応しい画期的な業績であると判断し、大賞と決定した。

【奨励賞】:木内 昇  (きうち・のぼり)

1967年生まれ。東京都出身。大学卒業後、出版社勤務を経て独立。2004年に小説『新選組 幕末の青嵐』出版をきっかけに小説を書くようになる。『地虫鳴く』(2005)、『茗荷谷の猫』(2008)、『浮世女房洒落日記』(2008)がある。ほかエッセイ集に『ブンガクの言葉』、『東京の仕事場』など。

【木内 昇氏授賞理由】

木内昇氏の『茗荷谷の猫』は、幕末から昭和まで、百年の時空を超えて、市井の名も無き人々の夢や 挫折が切なく交錯していく、味わい深い連作小説集である。それぞれの時代にタイムスリップしたよう な語り口と、各章の間にはりめぐらされた巧みな伏線が見事である。さらに、内田百閒、江戸川乱歩、 中原中也など、各時代の文学者へのオマージュも、この物語世界に奥行を与えている。時代小説だけで なく、新しいタイプのファンタジー的作品を書き続けていけるであろう筆力を評価して、奨励賞と決定 した。

授賞者記者発表

10月5日午後4時に大隈会館において、授賞者発表記者会見が開かれました。高井有一委員長、副委員長の大川繁樹氏、石原千秋氏、松田哲夫選考委員、小田島恒志選考委員が出席し、多数の報道関係者が集まりました。

第二回早稲田大学坪内逍遙大賞祝賀会(2009年11月13日)

【祝賀会 受賞者挨拶】

【大賞】:多和田 葉子 (たわだ・ようこ)さん

ここでは何か裏話を話すそうなのですけれど、私は裏表の無い人間なので、全部表の話になります。私は3年前にハンブルクからベルリンに引越しまして、ベルリンと言えばプロイセン、今はもうプロイセンではありませんけれども、昔プロイセンだったわけで、そのプロイセン文化といえばやはり秩序を重んじ責任感を大切にして、笑ったりおいしいものを食べている文化ではなくて、非常に厳しい軍国主義的な文化でもあったわけです。でも、そういうイメージも消えて、今のベルリンは若いアーチストたち、ダンサーとか、それから小説家もたくさん集まって住んでいます。この前ノーベル文学賞をもらったヘルタ・ミュラーもそうですが、いろいろな国から作家が集まって住んでいる非常に楽しい町になりました。ドイツはイギリスやフランスと比べても遅れて慌てて近代化したわけで、そういうことでお手本にしやすいということで、日本の近代化のお手本になったところだと思います。私が日本を離れて非常に感じることは、江戸時代から明治維新に向かってのギャップというか、そこを飛び越えるとき、人々はどうやって飛び越えたんだろうか、それが非常に気になってくるわけです。その間の谷間というか狭間、江戸文化と明治の文化は非常に深いものなのではないか。そういう時に小説の言葉を新しく創り出していくということが、どれだけ難しいことだったのかということを、何度も思いました。

そういうことを考えているときに今度坪内逍遙大賞をいただけるということで、100年前に早稲田の大学出版部から出たシェイクスピアの『ハムレット』の逍遙訳をちょっと読んでいたんですけども、その訳を読んで、少し驚きました。その出だしの部分がこんな感じです。「何者じゃ、あいや、そのものこそ。待て、名宣らしめ。今上万歳。バーナードどのか。なかなか。」これを読んでいると、演劇の言葉というのは、翻訳ですけれども、小説の言葉がバッタリと途切れてしまって新しい言葉を生み出さなければならなかったのと比べて、もしかしたらもうちょっと持続性があるんじゃないか、近代が来てからも江戸時代の演劇の言葉をある程度活かして、またそれが何かその流れが続いているんじゃないか、という演劇の言葉と小説の言葉のあいだの違いを感じたわけです。ということは、小説の言葉もまた演劇の言葉から学ぶところが多いということと、外国の演劇を訳す試みを通して、今の日本の小説の言葉を生み出すことが出来るかも知れないというのが、今の私の考えていることです。そういうことを考えながら、去年チェーホフの『桜の園』の翻訳ではなく翻案を作ったのですけれども、それがまた来年シアターカイで11月に上演されることになりました。私と演劇とのつながりは割に深いというか長いもので、私の両親も実はこの早稲田大学の文学部を出ているので、二代目早稲田なのですが、私が三歳のときに、これは私の父と母の話ですから本当かどうかわかりませんけれども、サルトルの『凶器と天才』の芝居を観に行こうということになって、私を連れて行ってくれました。連れて行ったといっても、子供を預かってくれる場所が劇場にあって、そこに預けるつもりで連れて行ったけれども、私はそこに行くのはいやだと言って、芝居をじーっと、何を考えているか分からないけれども、観ていたということです。翌日、ひどい熱を出して幼稚園を休んでしまったのですが、それが私のはじめての演劇体験でした。

今日来ている私の妹も、学生時代に演劇に関心を持っていたようで、今は小学校の教員ですが、子供たちのオペラとか演劇の演出を非常に楽しんでいるようです。この演劇というのは、何か憑き物といったら変ですが、病気のようなもので一度この病気にかかると、その楽しさがなかなか忘れられない。私自身はあまり人前で話したり、舞台に立つのは嫌いな人間なのですけれども、それにも関わらず、一度芝居の魅力に取り憑かれたら、そこから逃れられない。また、翻訳も同じだと思うのですが、一度翻訳の魅力に取り憑かれたら、そこから逃れられない。ということなので、翻訳と演劇が一緒になった坪内逍遙的な世界っていうのは、これからもますます楽しいものになっていくのじゃないかと思っています。どうも、ありがとうございました。

【奨励賞】:木内昇(きうち・のぼり)さん

先ほど緊張して、少々、胃が痛いので手短にお話をさせていただきます。私は、小さな頃から本は好きで読んでいたんですが、授賞式では書き手としての話をしたので、今回は読者としての話をしたいと思います。そんなに家に本がたくさんあるような家庭ではなく、本が身近にあったかというと、そうではなく、むしろ図書館に行ったり、本屋さんに行ったりして読むのがすごく好きで、夢がある世界だなと思って、そこで好き勝手に好きな本を読んでいました。今になるとそれがすごく幸いしたと思う部分もあります。やはり本というのは、むしろ本を読んでいると偉いという感じが無かったので、そこら辺もすごい良かったんじゃないかな、と思って、本があんまり偉くなったり、こう読め、ああ読め、これが良い本だ、あれが良い本だ、というふうに言われることによって霞んでしまうものがあるのではないかと思ってます。今だ、本屋さんに行くとワクワクしますし、それこそ例えば遊園地とかいろいろなアミューズメントパークに行くよりも、はるかにワクワクして、こう本を見ている段階が楽しいというか、そこからじゃあ何を読もうかと選んでいる段階が私にとっては夢のような時間です。それは失いたくないですし、どの本屋さんに行っても同じラインナップではなく、いろいろな本屋さんに行けば、それぞれに違うラインナップがあるという感じの、自由に読んで偉くない環境を作っていければよいと思っています。

小学校の頃に、どの本を読もうかという推薦図書、20冊か40冊か忘れてしまいましたが、年間に読まなければいけないノルマが私たちに課せられていました。もうそれが、こんなに楽しい時間を奪われたという感じで、先生たちに対して非常に腹立たしい思いを抱いておりました。自分で選ぶときが一番楽しいのに、何でこのようなお利口さんな本ばっかり薦められるんだろうという気分でおりました。今、本当に本がたくさんあって、写真集も含めて、今日も写真家の方々がいらっしゃっておりますが、すごく良いものがいっぱい出ております。それを、格式付けせずにどういうふうに本屋さんに誘い込んで、どういうふうに本屋さんでワクワクさせるか、本を選ぶ楽しみっていうのはこういうことなんだっていうことを、考えていく。私は書き手の末席を穢しているわけですけれども、ちょっとそういう意識を持ちつつ、書いていきたいなと思っております。今日は本当にありがとうございました。


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