8月5日(水)に、早稲田大学・SGU実証政治経済学拠点の主催で、ノッティンガム大学よりFernando Casal Bértoa氏をお招きし、国際ワークショップ「政党システムと政党資金制度の国際比較」が開催されました。Casal Bértoa氏はEuropean University Institute (Florence)で故Peter Mair教授の指導のもとPh.Dを獲得した新進気鋭の政党システム研究者です。ワークショップは2部構成で行われました。
第1部
第1部では、政党資金制度と汚職の発生の関係についての研究報告が行われました。政党資金制度に関しては、オランダ・ライデン大学が包括的なデータベースを構築しており、Casal Bértoa氏は同プロジェクトに深く関わってきています。この研究では、ライデン大学におけるデータベースをもとに、政党資金制度と汚職の発生確率の関係を実証的に検証した貴重な知見が報告されました。汚職の発生確率には、2011年に実施されたTransparency Internationalの世論調査データが用いられました。 分析の結果は、従来の研究において効果が期待されていた「政党に国庫補助金を支給した方が、汚職が減る」、「政党が独自に運用できる資金に規制をかけた方が、汚職が減る」、「個人や企業などの政党への寄付金に対して規制をかけた方が、汚職が減る」という想定される因果関係をいずれも否定するものでした。また、政党への国庫補助金が支給されている国では、小政党が生き残る確率が高くなることも分析の結果から示されました。 発表を受けて、討論者の立教大学・孫斉庸(ソン・ジェヨン)准教授は、政治資金規正法や選挙制度が改正された場合にその変化をどのように分析に反映するのか、ケースの選択基準によって分析結果が変わる可能性について確認する必要性を指摘しました。そして民主主義の経験年数によってケースを分けることにより、より明白な形で因果関係のストーリーを描くことができるのではないかとの示唆がありました。
第2部
第2部では、選挙におけるヴォラティリティ(volatility)に関する発表がありました。選挙の間での票や議席の移動を示すヴォラティリティは政党システムの変化を示す指標として、多くの研究者により参照されてきました。しかし、政党の離合集散がある場合に、実際よりも大きく変化を表してしまうという問題も指摘されています。この問題に対処するために、Casal Bértoa氏は共同研究者と共に新たなヴォラティリティの指標を提案しました。具体的には、政党が分裂などした場合、それぞれの後継政党に所属する党員、所有するメディアの数や手段などといった、政党の「資産」を勘案し、後継政党の勢力をより正確に測定することにより、変化の度合を正しくとらえることができると主張しました。
この発表を受けて、討論者の日野愛郎・早稲田大学教授は、政党の離合集散が多い国や時期におけるヴォラティリティ指標が過大評価される傾向を、55年体制下におけるヴォラティリティ指標のグラフを示しながら確認しました。日野氏は、ヴォラティリティ指標を補正するというCasal Bértoa氏のアプローチに賛意を表しつつ、国会議員の継続性(Member Volatility)に着目することで指標を補正する案を提案しました。そして、ヴォラティリティ指標を補正する方法には複数の選択肢があることを示し、それぞれのメリット、デメリットを議論していくことの必要性が論じられました。
両セッションともに、ワークショップの参加者を交えた活発な議論が行われ、ワークショップの開催時間は4時間にも及びました。最後はCasal Bértoa氏に記念の品として早稲田大学のマスコットである大隈ベアが贈呈され、ワークショップが閉じられました。