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キャンパス整備のための5つの補助線
2. キャンパスマスタープランの基軸 / Waseda Campus Master Plan 2023
Mon 01 Apr 24
2. キャンパスマスタープランの基軸 / Waseda Campus Master Plan 2023
Mon 01 Apr 24
本整備計画では「ウェルネス」「オープンイノベーション」「ゼロエミッション」の3つを基軸として掲げたが、キャンパス整備に際してはほかにも考慮すべきことがある。ここでは「整備のための補助線」として、5つの観点を整理する。


補助線1:歴史の継承
早稲田キャンパスは、御即位御大典記念事業(1915~1925 年)を期に計画されたグリッド状の空間構成を継承しており、正門から大隈老侯像へ至る軸線や演劇博物館へ至る道を骨格としている。当初キャンパス計画を担当した佐藤功一が提唱した都市美論は、直行軸路-アイストップの形成、景観の統合というかたちでキャンパスに引き継がれている。
第一の方針は、およそ 100 年にわたって継承されてきたキャンパス計画の理念と空間構成原理を大学のアイデンティティとして継承し、既存建築の再生や改修を丁寧に行いながらキャンパスを更新していくことである。そして、キャンパスを利用する人びとにとって、よりどころとなってきた空間性を保存し、継承することを目指す。重要なことは、大掛かりな象徴性をまったく新たに作りだすということではなく、キャンパスを利用してきた人びとが心の拠り所となってきた空間性を読み解き、次の計画へ活かすことである。キャンパスにおける歴史の継承は、次の4つの観点から行われる。
i)歴史的なキャンパス計画・理念の継承と更新
ii)大学のアイデンティティとなるキャンパス計画づくり
iii)象徴的建築物の保存・継承
iv)景観の調和とブランド・カラーによるサイン計画
補助線2:地域との融合
早稲田キャンパスは、その周辺地域と根強い関係性を築きながら、地域とともに成長してきた。キャンパス内部に留まらず、まちなかにあふれる学生たちの活動風景は地域固有の文化となって おり、早稲田大学のアイデンティティを語るのに欠かせない要素である。
第二の方針は、地域と大学との関係性を深め、地域が学生たちの居場所であるように、大学キャンパスも地域に開かれた空間とすることで、大学とまちが一体となった成長を目指すことである。地域に根差した大学キャンパスの固有性を育てていくことは、次の2つの観点から行われる。
i) 地域とともに成長するタウン・ガウン注)を意識したまちづくり
ii)まちと大学の境界のリデザイン
注)周辺地域住民を指すまちの人びと(タウン)と学生や教職員などの大学の人びと(ガウン)の二者が交わり共存する地域のこと。
補助線3:進取の精神
1913年に総長・大隈重信が示した「早稲田大学教旨」では、次の三点が述べられている。第一は「学問の独立」であり、在野精神と反骨精神に基づく、権力や時勢に左右されない自主独立の精神を育むことである。第二は「学問の活用」であり、現実に生かしうる学問に、安易な実用主義ではなく進取の精神に基づいて取り組むことを指している。第三は「模範国民の造就」であり、これは現代においては「地球市民の造就」と言い換えることができよう。
以上を踏まえて第三の方針は、「進取の精神」に基づく研究・教育の実現に向けて、自由討究・独創の研鑽のためのキャンパスの環境を追及することである。それは次の2つの観点から行われる。
i) 高度で独創的な教育・研究のための環境の実現
ii) 物理的なキャンパスとバーチャルなキャンパスの横断
補助線4:持続可能性の追及
大学キャンパス整備には、エネルギー消費量の削減、維持管理面での経済性や効率性の追及、 将来の状況変化に応じた柔軟性の獲得などが求められる。さらに地震や都市型集中豪雨などの災害に加えて感染症の流行など、様々な災害に対してキャンパスが安全かつ安定的な教育・研究活動を提供しうるかも問われている。
第四の方針は、地球環境に対するエネルギーや資源利用の持続性、災害に対する研究・教育活動の持続性、社会状況や用途の変化に対する空間の価値の持続性など、様々な観点からの持続可能性の追求である。このように広範な意味でのキャンパスの持続可能性の追求は、次の5つの観点から行われる。
i) 省エネ・創エネによるエコキャンパスの実現
ii) 廃棄物の削減
iii)災害に対するレジリエンスの獲得
iv)社会状況や用途の変化に対応する柔軟な施設計画
v) キャンパスを利用する人びとのウェル・ビーイングの向上
補助線5:越境する学び
教育・研究活動の舞台は、大学キャンパスの施設内部で行われるだけでなく、様々な共用空間やまちなかの空間、さらには情報空間にまで広がっている。「バーチャルなキャンパスとの融合」による複合的な研究・教育環境の実現に向けては、カリキュラムの戦略は当然重要であるが、大学キャンパスの空間が果たす役割も大きい。
第五の方針は、大学キャンパス内において共同的に利用できる空間、すなわちコモン・スペースの整備を拡充し、領域を横断する交流と創発を促すことである。コモンとは、「特定の誰かにではなく、すべての人びとに関係する共通のもの」を指す概念であり、本計画ではコモン・スペースを「キャンパスを利用する誰もが学習や研究、あるいは団欒や休憩といった様 々な目的のために共同で利用できる空間」という意味で用いる。同時に、情報技術を介した学びと物理的空間での学びの相互補完的関係を計画する。領域を横断し新たな知を育む環境をつくる取り組みは、次の3つの観点から行われる。
i) 自由闊達な教育・研究を支えるラーニング・コモンズの整備
ii) 大学とまちの双方に開かれたキャンパス・バッファの形成
iii) 情報技術による分散的な学びの実現
キャンパスのデザインにあたっては、これらの5つの補助線に十分に応えることで、良好な教育・研究環境を創ることが求められている。