米国、シンガポールが同率1位、日本は8位に後退
主要55カ国を対象とした電子政府進捗度を調査・研究した結果、ランキングは表1のようになりました:トップ10は、1位 米国/シンガポール、3位 韓国、4位 フィンランド、5位 デンマーク、6位 スウェーデン、7位 オーストラリア、8位 日本、9位 英国、10位 台湾/カナダ、の順です。
今回の特徴をキーワードで表わすと「ソーシャル・メディア」、「オープン・ガバメント」、「市民参加」、「防災BCP」、「サイバー・セキュリティ」、「BigData」、「モバイル政府」、「クラウド・コンピューティング」です。
本調査は早稲田大学電子政府・自治体研究所のスタッフと大学院国際情報通信研究科およびアジア太平洋研究科の研究チームが中心となり各国へ赴き、あるいは研究所を訪問された多くの関係者への聞き取り調査を行い集大成しました。また、国際会議の開催や参加、国際CIO学会(世界会長校)の運営、各国の提携大学や行政機関との協力をはじめ、国連、ITU、APEC、OECD、世界銀行、世界経済フォーラム等との国際会合も催しました。特にOECDとは3回、国連とは2回にわたって会合を持ちました。
早稲田大学電子政府・自治体研究所は、APEC(アジア・太平洋経済協力会議)電子政府研究センターを兼務しており、電子政府が情報社会をリードする経済成長のツールとして、APEC域内の持続的経済発展に直接的に寄与する効果を測定してきました。
本研究調査は政府の電子行政の進捗度だけではなく、戦略、インフラ、行財政改革、CIO人材育成、さらに政府と民間(e-コミュニティ)の関係なども総合的に調査分析しています。この進捗度調査が、世界中の政府、国際機関、ビジネス社会、及びアカデミックな世界に対し、電子政府の現状、課題、問題点、解決、そして将来の発展に貢献すると確信しています。電子政府研究を通して世界的なイノベーション潮流を分析・評価し続け、安心、安全な国民生活を強く支援するだけでなく、行財政改革の要として行政コストの削減、スリム化や国際競争力の強化に貢献しています。
表1:2012年度の早稲田大学電子政府世界ランキング

従来の成果との性能比較
クラウド導入や市民参加など9項目の特徴に集約
電子政府が進捗している国・地域の調査対象を昨年の50から55に拡大しました。電子政府の進捗度は先進国が一般的には先行していますが、ICT分野は今回もトップを人口小国、都市国家のシンガポールと経済大国の米国が競った のが出色です。
調査分析指標も7分野30項目においてより正確な評価に徹しました。今回は総合的な結果として下記のような特徴をまとめることができます。
1.CIO(最高情報責任者)の役割拡大
CIOの導入に熱心で、国際競争力強化へ電子政府推進を国家戦略に位置づける国・地域が急増し、ICT戦略の責任者兼ムダ削減の旗手であるCIOの役割が高まる傾向が見られます。
2.クラウド型イノベーションの導入
低コストのクラウド・コンピューティング採用などデーターセンターの新ビジネス・モデル活用型のイノベーションが始まっています。クラウドに代表されるアウトソーシング潮流は、「所有」から「利用」へのシフトを含め今後の電子行政システムの効率化の要になるという指摘によって浸透しています。主要国のICT並びに電子政府の5か年計画などに優先順位が置かれているケースが増えています。
3.市民中心の電子行政参加(e-パーティシペーション)
市民の政治・行政への関心が高まり、先進国において政府対国民の双方向関係が樹立されつつあります。また、ICT利活用の向上で市民側の利便性の期待と社会参加が高まる傾向にあります。
4.サイバー・セキュリティが重要課題に
インターネットの普及の影の部分として情報セキュリティ問題が深刻になっています。電子政府ポータルの改ざんや標的型サイバー攻撃も頻繁化し、個人情報の保護と共にサイバー安全保障対策は優先課題に浮上しています。
5.ビッグ・データ
社会の情報の膨大化に伴い、行政部門の情報流通の整理、効率的運用が重要課題になっています。クラウドなどに集められた多種多様な膨大なデータの利活用など今後ビッグ・データの扱いに関心が集まります。
6.防災、危機管理(BCP)
主要ICT先進国では、電子政府部門のICT投資、オンライン・サービス分野に加え、国民の安心や安全の基礎となる防災と危機管理(BCP)分野でのICTの役割に電子政府がどう対応するかが課題です
7.高齢社会対策
電子政府の利用促進はいくつかのハードルがありますが、オンライン・サービス操作が苦手な高齢者が多く存在し、サービスの質的向上の面で、深刻化する高齢化対策などが重要施策に浮上しています。
8.新興国の台頭
今回の結果を観察する限り、BRICsのランクは決して高くはありません。新興国の経済的な繁栄がまだ行政の電子化分野まで恩恵を及ぼしていないと分析しています。今後、新興国にとって経済の効率化および透明性の視点で、電子政府の充実は喫緊の課題といえます。
9.モバイル政府の実現性
多くの国民に普及した携帯電話や無線LAN活用の“モバイル政府”を模索する新潮流が主要国でみられます。途上国でも携帯電話の急速な普及に伴い、国民 のニーズが高まっているのは事実です。しかしモバイル政府と言っても、当面電子政府の補完的役割に過ぎません。今後は、スマートフォンの応用事例を見据えて将来の電子政府像として重要な位置付けになることは間違いありません。
8回の調査に見る歴史的推移
現在の欧州財政危機時代は、欧州離れが始まり新興国を中心に新国家成長モデル構築の機運が高まっています。その点、ICT分野の国際競争力は持続的成長の源泉になっています。
今回で8回目になりますが、2011年の分析結果をもとに電子政府の進捗状況について総合的に評価しました。ICT環境の変化は目覚ましく、電子政府の進捗状況もわずか数年で大きく変化しています。それは、スマートフォンの出現によるアクセス手段とアプリケーションの多様化や、クラウド・コンピューティングなどの新技術領域などで証明できます。
評価対象国は、今年55か国に拡大させています。また、7分野30項目で、より正確な評価に徹しました。具体的には、電子政府プラットホームをどの程度活用しているかについて分析するだけでなく、電子政府の「需要」側を考慮するための電子市民参加(e-Participation)を測る指標を第6回から追加したことにより、7分野の主要指標に増やし、コミュニティとの共生も評価対象にしました。
8年間の電子政府世界ランキングの変化は報告書の表2の通りです。最初の4年間は米国が1位、後半3年間はシンガポールが1位をキープしています。2012年は両国が同率1位でした。また、カナダ、スウェーデン、韓国、フィンランドが上位の常連といえます。北欧勢の着実な進展も注目に値します。
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