銀河誕生の瞬間の解明に迫る

回転円盤銀河誕生の最初期段階を発見
銀河誕生の瞬間の解明に迫る

発表のポイント

  • 最も遠い銀河の一つである、132.8億光年かなたの「MACS1149-JD1」を、アルマ望遠鏡で観測し、回転運動の有無を調べた。
  • 分析の結果、回転運動の兆候を捉えたが、その回転速度は秒速50キロメートルほどであり、「MACS1149-JD1」よりも後の時代の銀河や銀河系の回転運動に比べて遅いものであった。そのため、本成果は銀河の回転運動が発達していくその始まりを捉えたと考えられる。
  • 本成果を呼び水として、同時代の他の銀河の観測や、別の波長帯を用いたさらに高空間分解能な観測が進むことで、宇宙誕生直後の若い恒星の分布などが明らかになり、銀河形成の全貌解明につながることが期待される。

概要

早稲田大学大学院先進理工学研究科修士課程2年(当時)の徳岡 剛史(とくおか つよし)と、同理工学術院井上 昭雄(いのうえ あきお)教授、筑波大学の橋本 拓也(はしもと たくや)助教、国立天文台および早稲田大学の菅原 悠馬(すがはら ゆうま)研究員、四国学院大学の清水 一紘(しみず いっこう)准教授らの研究グループは、132.8億光年かなたの銀河MACS1149-JD1が回転している兆候を発見しました。これまでに見つかった中で最遠方の回転円盤銀河となります。その回転運動はまだ弱々しく、回転円盤銀河誕生の最初期段階を捉えたと考えられます。

本研究成果は、アメリカ天文学会発行の『The Astrophysical Journal Letters』にて、2022年7月1日(金)にオンラインで掲載されました。

MACS1149-JD1の想像図MACS1149-JD1の誕生の様子のイメージ (Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO))

(1)これまでの研究で分かっていたこと

私たちが住む天の川銀河(銀河系)は円盤状の構造であり、その円盤は回転運動をしています。回転速度は秒速220キロメートルもあり、この猛烈な速さによる遠心力と重力がつりあって形を保っています。このような回転円盤銀河が、宇宙の歴史上いつごろできたのかということについては長年研究されてきました。最近の研究では、120億年以上前の宇宙でも、巨大な回転円盤銀河や渦巻銀河が見つかっています。一方、130億年ほど前の宇宙の銀河では、ある程度の回転運動が見られるものや、逆に回転運動がほとんど見られないものが見つかっています。銀河の回転運動の起源に迫りつつある状況でした。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

最初期の銀河が回転運動をしているのかどうか調べることは、銀河の形成過程の理解にとって重要な知見になります。回転運動は、例えば、お風呂の水を抜くときに、排水溝に向かう水が渦を作る様子に似ています。もし回転運動をしていれば、銀河へのガスの流入が整然として継続的にあり、その流れの中で星が生み出されて銀河が形作られたと考えられます。逆に、回転運動が無ければ、小銀河の衝突を繰り返すような激しい出来事を経て銀河が形作られたと考えられます。今回、人類の知る最も遠い銀河の一つである、132.8億光年かなたのMACS1149-JD1という銀河をアルマ望遠鏡で観測し、回転運動の有無を調べました。その結果、回転運動の兆候を捉えました。ただし、その回転速度は秒速50キロメートルほどであり、のちの時代の銀河や銀河系の回転運動に比べて弱々しいものでした。今回の観測は、銀河の回転運動が発達していくその始まりを捉えたと考えられます。

また、MACS1149-JD1の質量についても知見が得られました。今回の観測で、MACS1149-JD1は直径が約3000光年と測定され、回転速度と合わせると、その質量は太陽の約10億倍と推定されました。これは、以前の研究でMACS1149-JD1のスペクトルの概形と光度から推定された質量と一致しています。当時、この質量の大半は、観測時点からさらに2~3億年さかのぼった時期に生まれた恒星たちで担われていると結論されています。今回の観測で求めた回転運動にもとづく質量がそれと整合的であったので、その解釈を改めて確認できました。つまり、MACS1149-JD1は、ビッグバン後2.5億年ころに形成された銀河であり、観測時点(5億年ころ)には、その回転円盤を形作り始めた段階にあると言えます。

図:銀河の回転を測定する方法の解説。「光のドップラー効果」による波長のずれを測定する

図:測定された結果と回転円盤モデルの比較

図:MACS1149-JD1の回転運動と後の時代の銀河の回転運動の比較

(3)そのために新しく開発した手法

アルマ望遠鏡による高空間分解能観測を行いました。アルマ望遠鏡は、直径12メートルと7メートルの電波受信アンテナを最大で66台組み合わせた望遠鏡で、アンテナの配置が可変になっています。MACS1149-JD1の以前の観測時(2016~2017年)は、最大で直径700メートルほどの比較的狭い領域にアンテナを集中配置して行いました。それで高感度を達成し、精密な距離測定に成功、当時の最遠方銀河記録を樹立しました。しかし、空間解像度はあまり良くありませんでした。そこで今回の観測は、アンテナ配置を最大で直径2.5キロメートルにまで広げ、結果として空間分解能を2.5倍高めた観測を行いました。この場合、細かい構造を見られる反面、長い観測時間が必要となります。以前の観測は約2時間でしたが、今回は10時間近くかけました。

観測自体は2018年の10月から12月に実施され、2019年初めには手元にデータがありましたが、その複雑さのため、解析に2年以上を要しました。観測結果から回転速度などさまざまな物理量を導出するために、回転円盤数値モデルを工夫しながら独自に作成することで、今回の成果につながりました。この数値モデルプログラムは、世界の研究者に公開する予定です。

(4)研究の波及効果や社会的影響

現在観測可能な最古の宇宙での銀河形成に関して、銀河系のような回転円盤銀河の誕生の瞬間に迫る成果が得られました。今回の成果を呼び水として、同時代の他の銀河のアルマ望遠鏡観測にも拍車がかかると考えられます。また、世界をリードする基礎科学研究成果を発信することで、国民に夢と希望を与えるとともに、特に若者や子供たちの科学への関心を高め、次世代の科学技術者の育成に微力ながらも貢献することが期待できます。

(5)今後の課題

昨年12月に打ち上げが成功したジェームズウェッブ宇宙望遠鏡を使えば、今回とは別の波長帯のさらに高空間分解能な観測が可能です。MACS1149-JD1もジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の初年度のターゲットとなっており、年齢3億年の恒星でできた回転円盤や、誕生直後の若い恒星の分布などが明らかになると考えられます。引き続き、銀河形成の全貌解明に挑んでいきます。

(6)研究者からのコメント

井上 昭雄:アルマ望遠鏡のデータ解析と、回転円盤銀河モデルの構築は、今年3月に卒業した徳岡剛史さんが、学部4年生と修士課程、合わせて3年間をかけてやり遂げました。修士課程の2年間はコロナ禍と重なり、ほぼ完全にテレワークでの研究活動となりました。徳岡さんは、「ステイホーム」の時期に、むしろ集中して自宅でデータ解析とモデルプログラムの作成に取り組むことができたと語っています。コロナ禍の逆境が、ある意味、世界的な成果の創出につながったとも言えます。そうはいっても、徳岡さんの高い集中力と物理学の知識があっての成果です。

徳岡 剛史:私はとてつもなく遠くにある銀河が、どのような姿で、どんな運動をしているのだろうと想像しながら研究していました。皆さんにも是非、そんな想像を膨らませて、わくわくしていただければと思います。

(7)論文情報

雑誌名:The Astrophysical Journal Letters
論文名:Possible Systematic Rotation in the Mature Stellar Population of a z = 9.1 Galaxy
執筆者名:Tsuyoshi Tokuoka*1, Akio K. Inoue*1, Takuya Hashimoto*2, Richard S. Ellis*3,
Nicolas Laporte*4, Yuma Sugahara*1,5, Hiroshi Matsuo*5, Yoichi Tamura*6,
Yoshinobu Fudamoto*1,5, Kana Moriwaki*7, Guido Roberts-Borsani*8, Ikkoh Shimizu*9, Satoshi Yamanaka*10,11, Naoki Yoshida*7, Erik Zackrisson*12, Wei Zheng *13
所属:*1 Waseda University、*2 University of Tsukuba、*3 University College London、
*4 University of Cambridge、*5 National Astronomical Observatory of Japan(NAOJ)、
*6 Nagoya University、*7 University of Tokyo、*8 University of California, Los Angeles、
*9 Shikoku Gakuin University、*10 National Institute of Technology、*11 Toba College、
*12 Uppsala University、*13 Johns Hopkins University
掲載日:2022年7月1日(金)
掲載予定URL:https://iopscience.iop.org/article/10.3847/2041-8213/ac7447
DOI:10.3847/2041-8213/ac7447

(8)研究助成

研究費名:国立天文台ALMA共同科学研究事業
研究課題名:ALMA HzFINEST: 高赤方偏移遠赤外線星雲輝線研究
研究代表者名(所属機関名):井上 昭雄(早稲田大学)

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