2022年度入学式祝辞 石渡 美奈 様

祝辞 石渡 美奈 様

ホッピービバレッジ株式会社 代表取締役社長
私は素直に40歳を過ぎて、世の中には知らないことだらけだということを知りました。「無知の知」は、人財教育に青天井で力を注ぐ弊社の「学びの基本姿勢」として、経営方針に取り入れております。早稲田大学大学院との出逢いは、まさに人生を幸せに変える出逢いでした。
皆様も同じように「人生を幸せに変えるプラチナ切符」を手にされているということになります。この幸福切符をどのように活用されるかは、皆さん次第です。

早稲田大学大学院に見事入学された皆様、こんにちは。皆様におかれては、まだまだ不安定な環境の中、大変な競争を突破され晴れて早稲田大学大学院へ見事ご入学されましたこと、真におめでとうございます。心よりお祝いを申し上げます。

私は2009年4月、商学研究科、いわゆるビジネススクールの門戸をくぐらせていただきました。ちょうど新11号館が竣工した春のことで、まだまだ新しい匂いしかしない、ピカピカの建物が嬉しくもあり、汚してはいけないと緊張を感じながら、日本の最高学府である早稲田大学で思いもかけずに始まったビジネススクールライフに胸を躍らせました。

私は出願ギリギリのタイミングで受験を決めました。実は憧れはあったものの、それまでビジネススクールへの進学など全く考えていなかったからです。出願を決めたのは、WBSでご指導をいただいた寺本義也先生が主宰されていた「早稲田長寿企業研究会」で講演をさせていただいた時のことです。その時の「経営には、企業規模、業種業態、国、地域、時代を超えて普遍の原理原則がある。その原理原則を愚直なまでにやり続けられるかが、企業の長寿を決める」とのお教えが、翌年に家業の3代め就任を控えていた私の心に深く強く響き、この方の下で学びをいただきたいと思ったこと。同時に、講師に私を選んでくださった寺本ゼミの大先輩である方が、「講師にお呼びするにあたり、あなたのことを色々と調べた。活躍していることも分かっている。そのあなたの沢山の経験を一度、アカデミックの世界で紐解いてみないか? いくら時代が変わったとはいえ、女性がビジネス社会で生きていくにはまだまだ苦労が尽きない。早稲田ビジネススクールの修了生という鎧は、来年社長になるあなたを守り、役に立つはずだ。鎧はいくつあっても良い。WBSに来ないか?」と、背中を強く押してくださったことで、受験を決めました。「経営の原理原則」。この言葉が私をWBSに導いてくれたとも言えます。

以来、今に至るまで「ホッピービバレッジ3代目の経営における原理原則」をトライアンドエラーで常に追求し続ける日々です。修了直前の東日本大震災、一昨年からのコロナ、そして戦争とまさに複雑で不透明な、一瞬先すらわからないと言える現代に、大きな恐怖や不安を抱えずに安心して経営の舵を取り続けることができるのも、私なりの「原理原則」を把握し、これを愚直なまでにやり続けることで未来に導かれるとの教えをいただいているからだと、あの時いただいた教えに感謝しかありません。

さて、かのように受験を決めましたので、他校は一切見ずWBS一直線での受験でした。そして、学部時代は到底偏差値が高すぎて手の届かなかった早稲田生になれると決まった時、まるで自分ごとではないような不思議な感じすらしたほどに感動したことを、今でも覚えています。合格発表の夜、両親がお祝いにと外食に連れ出してくれ、麻布のイタリアンレストランに参りました。すると私たちの後ろのテーブルに先にいらしていた男性が、少し興奮気味に嬉しそうに話されていて、彼から試験や面接といった単語が聞こえてきます。驚いたことに、私が受けた試験や面接とかなり内容が似ている様子です。「え?」と思い、お顔をそっと覗きましたら、同期として入学された桑田真澄さんでした。残念ながらキャンパスでお会いすることはありませんでしたが、早稲田を修了したのち、とあるイベントの場でご挨拶させていただく場に恵まれ、あの日のイタリアンレストランでのお話をいたしましたら、彼もよく覚えていらして合格がとても嬉しかったと話してくださいました。

入学して驚いたのは、同級生たちのレベルの高さでした。寺本先生から「製造業の3代めを継ぐにあたり学ぶべきはMBAよりも技術経営」とのご指導をいただきMOTコースを選択したところ、同級生の多くが技術系の方々でした。彼らの言葉は確かに日本語に聞こえるけれど、意味が全くわかりません。そして、学部生時代にしっかりと研究の基礎を身につけている友人も多い中、研究の「け」の字も触れてこなかった私にはまるで異次元に迷い込んだかのようで、本音を申しますとM1の夏休みには早々に「できることならドロップアウトしたい」と思い始めておりました。

しかし社員たちにも公言して入学させてもらった手前、私が逃げ出したら「嫌になったら逃げて良い」という悪しき前例を作ることにもなってしまうわけで、それだけはやってはいけないと、逃亡という手段だけは固く封印をして、2年を過ごすことになります。

それまで5日で考えていた仕事を4日で収まるようにスケジューリングを変え、木曜日までがっつり仕事をして、金、土は朝から晩まで11号館で過ごす日々。金曜日の一限は学校に到着できたらヨシ、朦朧としながらとにかく授業を受けることが精一杯だったと記憶しています。

あの当時、私を除く全ての同級生は皆優秀で、授業にも楽について行っており、研究もしっかり進めているように見えて、悩みなど無いのだろうと勝手に思い込んでおりました。ただ私一人が恐怖に怯え自信を無くしている、自分はなんてダメ人間だと思っておりました。ところが修了間際、同級生たちとの懇親会で、皆、大なり小なり同じような気持ちを抱きながらの2年間だったということを知りました。「なんだ! そうだったの? それならあの時、相談すればよかった!」と盛り上がったものです。

後輩の皆さんへのおすすめの一つは、大学院ライフに悩んだら、決して一人で抱え込まずに、同期や先輩などに素直に打ち明けること、相談することです。あっという間の2年間、用意されているのは学ぶべき珠玉の教えばかりです。悩んでいる時間も体力や気力も勿体無いと感じます。高い学費をお支払いになるわけですから、一つでも多く、積極的に学べるようにご自身の環境を整えることをお勧めします。

初めての経験で怖いと思っていたものの、ついにその時がきました。研究の始まりです。寺本ゼミでの私の論文タイトルは「H社の第3創業を確実にTake-offさせるための共育型人財育成の加速化モデルの構築 ―リーダーマネジメントチームの戦略実行力の育成と活用―」です。3代めのバトンを父から預かり、ホッピービバレッジの第3創業を立ち上げるにあたり、組織をどのように育てれば良いのか、社員たちにどのような力を身につけて貰えば良いのかを研究させていただきました。これが大きな宝となりました。修了して11年が経った今も、私の経営に必携の航海図です。逃げずに向き合って本当に良かったと、導いてくださった寺本先生やゼミの先輩方、支えてくれた同期たち、応援してくれた社員達に心から感謝の気持ちを捧げる次第です。

2011年1月、最後のゼミ後の懇親会で、寺本先生から「石渡さんは、早稲田にいらして何を学ばれましたか?」とお尋ねを受けました。私は素直に「40歳を過ぎて、世の中には知らないことだらけだということを知りました」とお答えしました。すると先生がニコッと微笑まれて「それは良いことを学ばれましたね。自分は何も知らないということを知ることが、学びの本質なのですよ」と教えてくださいました。そこで私は初めてソクラテスの「無知の知」を知ることとなり、これが人生に大いなる影響を与えた教えとなりました。「無知の知」は、人財教育に青天井で力を注ぐ弊社の「学びの基本姿勢」として、経営方針に取り入れております。

さらに早稲田修了後、これまでの自分になかった「論理的思考」の世界を少々味わった私は、さらに学びを深めたくなり、2014年に慶應義塾大学大学院、システムデザイン・マネジメント研究科に入学し、現在でも幸福学研究員の末席として研究の道に携わっております。15年前には全く想像していなかった人生となりました。

全ての始まりは、早稲田大学大学院との出逢いです。この出逢いがなければ現在の幸せな私は存在していません。私の人生において、本当に大きな出逢いでした。まさに人生を幸せに変える出逢いでした。

今日、ご入学された皆様も同じように「人生を幸せに変えるプラチナ切符」を手にされているということになります。この幸福切符をどのように活用されるかは、皆さん次第です。いよいよ始まる早大大学院ライフ、選ばれしご自身に自信を持ち、大学院ライフをどうかお命いっぱいに謳歌されてください。お一人お一人の、御武運、ご幸運を心からお祈りしております。

石渡 美奈 氏 挨拶文PDF

(プロフィール)
2011年本学大学院商学研究科専門職学位課程ビジネス専攻修了日清製粉、広告代理店へ勤務ののち、1997年にホッピービバレッジ株式会社に入社。広告宣伝担当、副社長を経て2010年より代表取締役社長に就任。
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