祝辞 柳井 正 様
校賓
株式会社ファーストリテイリング 代表取締役会長 兼 社長
この自由で、オープンで、様々な人がいて、みんな自分の意見を持って、各々が好きなことをやっている。すべて自分で考えて、自分で行動して、結果に自分で責任を持つ。そういう早稲田の雰囲気が、私は大好きでした。
皆さん、ご入学おめでとうございます。
若いというのは、素晴らしいことですね。
私は早稲田の卒業生の一人として、
皆さんがこの学校を選び、ここで学ばれることを本当に嬉しく思いますし、
心から歓迎とお祝いの気持ちをお伝えしたいと思います。
私は山口県の宇部という街で生まれ、商店街の洋服屋の二階で育ちました。
高校卒業後は、東京に出てきて早稲田大学に入り、
1971年に政治経済学部経済学科を卒業しました。
学生時代は、大学紛争で学校が封鎖されてしまい、
長期間、講義を受けられない時期もあって、
大学には申し訳ありませんが、あまり学業に熱心であったとはいえません。
ですが、この自由で、オープンで、様々な人がいて、
みんな自分の意見を持って、各々が好きなことをやっている。
すべて自分で考えて、自分で行動して、結果に自分で責任を持つ。
そういう早稲田の雰囲気が、私は大好きでした。
私が故郷に戻って父の店を継ぎ、洋服を売り始めて50年になります。
広い視野で、常に世界を見る。
何か一つの見方にとらわれない。新しい発想をする。
何か人と違う、誰もやったことがないようなことをやる。
こういう生き方は、早稲田で育ったことが大きく影響していると感じます。
ご承知のように早稲田には「在野精神」、
つまり象牙の塔に閉じこもらず、学んだことを活かして、
民衆のために働くという伝統があります。
権力におもねるのではなく、学問の自由と独立、
個人、そして個性の尊重が建学以来の伝統です。
「在野精神」とは何でしょうか。
いろいろな解釈が可能だと思いますが、私は一言でいえば、
「人々のために働く」ということだと思います。
自らの出世や、お金、あるいは権力のためではなく、
常に世の中の人々のために働く。
世の中の役に立つ仕事をする。
そうやって、たくさんの人に喜んでもらうことを、自らの喜びとする。
これが早稲田の精神であると思います。
この精神に学んだことは、私の人生に大きな影響を及ぼしました。
現在、私たちファーストリテイリングは、
ニューヨークからバングラデシュのダッカまで、
世界各国に3500を超える店舗を展開しています。
世界中で1年間に13億着以上の服をお客様にお届けしています。
既に店舗数も、従業員の数も、売上高も、海外のほうが
日本国内よりずっと多くなりました。
世の中に洋服を売る会社はたくさんあります。
その中で、日本の地方都市の一軒の洋服屋から始まった会社が、
なぜ、ここまで成長することができたのか。
皆さん、なぜだと思いますか。
答えはシンプルです。
それは「人々の役に立つ仕事」をしてきたからです。
世の中で暮らしている人が、どんな生活を求めていて、
どんな服があったら、もっと快適に暮らせるか。
どんなビジネスをしたら、もっと多くのお客様に良い商品を提供できるか。
そのことを真剣に考え、何年も何年も、
様々なことを実行しては、失敗し、また挑戦する。
そういうことを私たちは地道に実行してきました。
私たちがこれまで世界中でやってきたことは、
「服の民主主義」の実現であると思っています。
「服の民主主義」とは何でしょうか。
それは、以前は一部の人しか手にできなかった高機能で快適な服を、
世界のどこでも、誰でも手に入れられるようにすることです。
例えば、1990年代末に大ヒットして、
「フリースブーム」という一種の社会現象にまでなったユニクロのフリースや、
世界中で10数億枚以上を販売し、今でも売れ続けているヒートテック、
寒い時期の日常着として世界中に定着したウルトラライトダウン。
こうした非常に高い快適性、機能性を持つ服は、
昔は特殊な作業に従事する人や、
冒険や登山をする人など、ごく一部の人しか着られないものでした。
値段も非常に高く、普通の人には手の届きにくい商品でした。
ユニクロはそれを、
誰もが買いやすい価格、信頼できる品質で、世界中に大量に提供しました。
一部の人のための服を、日常の普段着として世界中に解き放った。
これが「服の民主主義」です。
その根底にあるのは、
常に「人々のために働く」、「社会をより良くするために仕事をする」という考え方です。
収益が上がったり、会社が大きくなるのは、その結果に過ぎません。
皆さんも毎日、ニュースで見聞きされているように、
世界には様々な問題が日々、発生しています。
しかし、全体的に見れば、世界は良い方向に向かっています。
開発途上国全体の貧困人口は、
1990年の47%から2015年には14%に減少しました。
もちろん世界にはまだ多くの貧困状態で暮らす人たちがいます。
しかし、その数は着実に減り続けています。
一方で、生活水準の向上にともなって、世界中の国々で都市化が進み、
人々のライフスタイルは、ますます共通性が高まっています。
その動きを後押ししているのは、グローバル規模で進むデジタル化です。
世界で最も貧困問題が深刻とされるアフリカのサハラ砂漠以南の地域でも、
スマートフォンの比率が50%に達しています。
ライフスタイルの激変は、既に一部の先進国だけの話ではなくなっています。
これまで一部の先進国だけが享受していた豊かで安定した生活が、
デジタル化、グローバル化にともなって世界中に広がっています。
より快適な環境で、品質の良い商品を使い、平和で安定した暮らしをする。
人類の誕生以来、人々の願いはずっと同じだったと思います。
しかし、それが世界的な規模で実現できる時代は、なかなか来ませんでした。
それが今、歴史上初めて、現実のものになりつつあります。
そういう時代に皆さんは生まれ、活躍が期待されている。
その意味を深く考えていただきたいと思います。
私は人が生きていくうえで、
最も大切なことは「使命感を持つ」ことだと思います。
そのためにはまず、「自分は何者なのか」、そのことを深く考えることが必要です。
自分にとって、何が最も大切なことなのか、
絶対に譲ることができないものは何か。
そこを突き詰めて、自らの強みを発見し、生かす。
自分にしかできない、自分の人生を思いっきり生きてほしい。
その明確な意識があるのとないのでは、同じ人生を送っても、
成果は100倍、1000倍、あるいは1万倍も違うのではないかと私は思います。
今日、この記念すべき入学式の日に、お目にかかれた皆さんにお願いです。
自ら高い目標を掲げ、そこに向かって挑戦してください。
失敗は恥ではありません。その経験に学んで、改めて挑戦する。
その繰り返しで、人は初めて成長します。
そして、冒頭でお伝えした早稲田の「在野精神」をしっかりと学び、
世界的な視野を持って、人々のために働く。
そういう人間になると、決意してください。
改めて、ご入学おめでとうございます。
皆さんの学生生活が実り多いものであると確信しています。
ありがとうございました。