“飲み過ぎ”時の肝臓を救う電解水素水

「電解水素水」がアルコールによる肝細胞傷害を軽減するメカニズムを解明

本学人間科学学術院の原太一教授人間総合研究センターの矢野敏史研究員は、株式会社日本トリム(本社:大阪府大阪市)との共同研究において、電解水素水*1や高濃度水素水がアルコールおよびアセトアルデヒドの代謝酵素に作用することで、有害物質アルデヒドの細胞内量を減らし、アルコール性肝細胞傷害からの保護効果を発揮するというメカニズムを報告しました。

 

研究概要

飲酒によって摂取されたアルコール(主成分はエタノール)は、肝臓で主に二つの酵素によって代謝され解毒されます。まず、エタノールはアルコール脱水素酵素(ADH)*2によりアセトアルデヒドに代謝されます。アセトアルデヒドはアルデヒド脱水素酵素(ALDH)*3により酢酸に代謝され、最終的に水と二酸化炭素に分解されます。この過程で発生する中間代謝物アセトアルデヒドは有毒物質であり、タンパク質やDNAなどの細胞内成分と反応したり、活性酸素種を生成したりすることで肝臓の細胞にダメージを引き起こすことが知られています。
これまでのマウスやラットを用いた研究では、水素水の摂取によりアルコールの肝臓傷害が軽減されることが報告されていました。また、アルコールは細胞内の活性酸素種の産生を介して細胞傷害を引き起こすことは分かっていましたが、活性酸素種の消去活性を有する電解水素水がアルコールによる肝臓傷害を抑制するメカニズムについては解明されていませんでした。
本研究では電解水素水や高濃度水素水が、アルコールの代謝に関わる酵素に作用することで毒性代謝物であるアセトアルデヒドの産生や活性酸素種の産生を抑制し、アルコール性肝細胞傷害を抑制することを明らかにしました。
なお、水素ガスは腸から吸収されることは分かっていますが、口から摂取した電解水素水が肝臓において、本成果で見出されたアルデヒド分解酵素の活性をいかに高めるかについては、今後の検証で明らかにしていくことを計画しています。

 

これまでの研究で分かっていたこと

飲酒によって摂取されたアルコール(主成分はエタノール)は肝臓で主に二つの酵素によって代謝され解毒されます。まず、エタノールはアルコール脱水素酵素(ADH)によってアセトアルデヒドに代謝されます図1)。アセトアルデヒドはアルデヒド脱水素酵素(ALDH)によって酢酸に代謝されます図1)。この中間代謝物であるアセトアルデヒドは有毒物質であり、活性酸素種を生成することで肝臓中のタンパク質などを壊し、肝臓へのダメージを引き起こすことが知られています図1)。これまでのマウスやラットでの研究では、水素水の摂取によってエタノールの肝臓への傷害を軽減することは報告されていました。また試験管や他の細胞の実験で電解水素水が活性酸素種の消去活性をもつことも分かっていました。しかし電解水素水の肝臓保護におけるメカニズムについては課題として残っていました。

 

今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

本研究では、電解水素水は、エタノールが肝細胞で代謝されることでつくられる有毒なアセトアルデヒドの「量」を減らすことで図2)、活性酸素種の生成を抑制し図3)、エタノールから肝細胞を保護すること図4)を報告しました。
そのメカニズムとして、電解水素水が「ALDHの活性を高めることでアセトアルデヒドの分解を早くする」、一方で「ADHの活性を低下させることでエタノールからアセトアルデヒドの生成を抑制する」という2つの代謝酵素への作用によることを明らかにしました図5)。また、試験管の実験では、電解水素水がエタノールとアセトアルデヒドの濃度に直接的には影響を与えないことも明らかにしました。これらの結果は、電解水素水が代謝酵素という細胞内の調節機能に作用していることを示すものです。さらに、電解水素水中に溶存している水素が、本成果であるエタノール毒性への肝細胞の保護効果に主要な役割を担っていることを報告しています。

図5) 電解水素水がアルコール関連代謝酵素に与える影響

 

今回の研究で新しく開発した手法

本研究では高濃度水素分子を含む水素水(1000ppb以上)が顕著に細胞内のADHやALDHの活性を制御することを見出しました。水素分子はすぐに脱気することから、高濃度水素水を安定に維持することは難しいことが難点です。そのため、本研究で観察された結果を再現するためには、高濃度水素水を用事に調整することが重要であると考えられます。一般的に市販されている電気分解による水素水生成装置は、1000ppb以上の水素分子を含んだものを作製できていません。本研究で用いた電解水素水整水器は、水素分子を高濃度に含む水素水を手軽に作製することができることができますが、そのことがアルコール性肝細胞傷害の保護作用を示す重要な特徴となっています。

 

研究の波及効果や社会的影響

アルコールによる健康障害は大きな社会問題の一つであり、電解水素水や高濃度水素水がそれらの問題の改善に貢献できる可能性が示されたと思います。特に、本研究で見出されたアルデヒドの分解酵素(ALDH)の活性を電解水素水や高濃度水素水が高める点に注目しています。肝臓でエタノールを分解したときに生じるアセトアルデヒドは、飲み過ぎ時に起きる頭痛や吐き気、二日酔いの原因物質でもあります。このアセトアルデヒドは反応性の高いため、細胞内成分の傷害や活性酸素種の産生を介して肝細胞を傷つけ、アルコール性肝傷害の原因となることも分かっています。電解水素水や高濃度水素水は、アルコールによる肝臓のダメージを予防する効果が期待できます。さらに、ALDHはアルデヒドだけでなく、環境中の有害物質や酸化ストレスによる過酸化脂質の分解にも関わっています。電解水素水や高濃度水素水の飲用が様々な解毒作用やストレスの軽減にも寄与する可能性が考えられ、今後の研究によって明らかにしていきたいと考えています。

 

今後の課題

本研究は、肝臓モデル細胞での電解水素水のエタノールへの保護作用のメカニズムの一端を明らかにしました。飲料水である電解水素水は口から摂取をするので、肝臓まで到達するには胃や腸などの消化器官があり、血液で運搬される必要があります。腸から水素ガスが吸収されることは分かっていますが、口から摂取した電解水素水が肝臓において、本成果で見出されたアルデヒド分解酵素の活性を高めるかを今後の検証で明らかにしたいと思います。

 

用語解説

*1 電解水素水
  • 浄水を電気分解することにより、陰極側に生成される水で、アルカリ性で分子状水素(molecular hydrogen)を豊富に含んでいる。本研究で用いた電解水素水は最大で1000ppb以上の高濃度の電解水素水を含むことを特徴とする。
*2 ADH (アルコール脱水素酵素)
  • アルコールを酸化してアルデヒドにする反応を触媒する酵素。エタノールはアセトアルデヒドに変換される。
*3 ALDH (アルデヒド脱水素酵素)
  • アルデヒドを酸化してカルボン酸にする反応を触媒する酵素。アセトアルデヒドは酢酸へ無害化される。

掲載論文

  • 【論文名】Electrolyzed Hydrogen Water Protects against Ethanol-Induced Cytotoxicity by Regulating Aldehyde Metabolism-Associated Enzymes in the Hepatic Cell Line HepG2
  • 【雑誌名】Antioxidants
  • 【執筆者名(所属機関名)】:矢野 敏史…(1), 王 縉雲…(1), 樺山 繁…(2), 原 太一…(1)
    (1) 早稲田大学人間科学学術院, (2) 株式会社日本トリム
  • 【掲載日】2021年5月19日
  • 【掲載URL】https://www.mdpi.com/2076-3921/10/5/801/htm
  • 【DOI】10.3390/antiox10050801

研究助成

本研究は科研費、武田科学振興財団、他の研究プロジェクト(早稲田大学特定課題、人間総合研究センター)の一貫として実施されました。

 

共同研究企業情報

  • 株式会社日本トリム NIHON TRIM CO.,LTD.
    本社:大阪市北区梅田二丁目2番22号 ハービスENTオフィスタワー22F
  • 代表取締役社長:森澤 紳勝
  • 主な事業内容:
    ・家庭用電解水素水整水器、カートリッジの製品開発及び販売
    ・医療(血液透析)用整水器の製品開発及び販売
    ・農業用整水器の製品開発及び販売
    ・ボトルドウォーターの製造販売
    ・電解水素水の研究開発
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WASEDA University

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