Notice大切なお知らせ

リハビリの新たなカタチを提案

人の脳に特殊な刺激を与えることで左手を集中的に使用させることに成功 脳卒中等による片麻痺患者のリハビリテーションへの寄与に期待

発表のポイント

  • 生活のなかで物をつかむときに、左右どちらの手を使うかという選択は、無意識に行なっている
  • 後頭頂葉という脳部位に、頭表から微弱電流を与え、脳活動を変化させることで、右手より左手を使う頻度を高めることに成功
  • 今後は、刺激によって無意識的に麻痺した手を使うことを促す等、新しいリハビリテーションのあり方への寄与に期待

早稲田大学(本部:東京都新宿区、総長:田中愛治)人間科学学術院の博士後期課程在籍 平山健人(ひらやま けんと)大須理英子(おおす りえこ)教授の研究グループ(以下、同研究グループ)は、後頭頂葉という脳部位に、頭表から微弱電流を与え、脳活動を変化させることで、右利きの実験参加者において、右手より左手を使う頻度を高めることに成功しました。同研究グループは脳の特定部位「後頭頂葉」に特殊な刺激を与えることで、左右それぞれの後頭頂葉の活動に人工的に強弱をつけ、その影響が日常生活での左右の手の選択=右手と左手を半々の確率で使うライン、に変化があるかを調べました。結果的には後頭頂葉を刺激すると、刺激終了後のしばらくの間、特定の手を使うエリアが広くなることが明らかとなりました。さらに、左右の後頭頂葉は、左と右が同じように関係しているのではなく、非対称に関係していることが示唆されました。今回の知見を活かせば、本人に気づかれずに、片方の手の使用を実験者が意図的に促すことが可能となり、例えば脳卒中患者等のリハビリテーションに新しいコンセプトを提案できるかもしれません。今後は、より局所を刺激できる新しい手法をつかい、左右頭頂葉を個別に刺激することで、左右頭頂葉それぞれの影響を明らかにしたいと考えています。

【論文情報】

雑誌名:Scientific Reports

論文名:Transcranial direct current stimulation of the posterior parietal cortex biases human hand choice

掲載URL:www.nature.com/articles/s41598-020-80611-8 DOI:10.1038/s41598-020-80611-8

【研究助成】

研究費名:科研費(17H02128、19H01091、20H05482)

研究課題名: 「中枢神経疾患後の機能障害の進行と回復過程への学習メカニズムの関与」、「新規非侵襲的脳刺激が拓くネオ・リハビリテーションとそのシステム脳科学的解明」、「脳刺激やモチベーション操作による障害側身体空間を志向する神経回路の活性化」

研究代表者名(所属機関名):大須理英子(早稲田大学)

(1)これまでの研究で分かっていたこと

私たちは生活のなかで、目の前のカップをつかむなど、物をつかむことはしばしばあります。では、その際に左右どちらの手を使うか意識しているでしょうか。右にある物は右手を、左にある物は左手を使う場合が多いかと思います。では、真ん中にある物は、その時々で、無作為に右手か左手を使うことが過去の実験から分かっています。また、ちょうど半々の確率で右手と左手を使うライン(選択均衡線 解説※1)を引いた場合、右利きの場合は右手をより頻繁に使うエリアが広くなるため、このラインは、少し左によったところとなります(図1)。このラインの左側が主に左手担当エリア、右側が主に右手担当エリアと言うこともできます。脳卒中によって体の片側が麻痺した場合には、麻痺した手を使わなくなるため、このラインが真ん中から大きく麻痺側にずれてしまいます。真ん中のエリアでそのときどきに、右手を使うか左手を使うかは、脳内で無意識のうちに計算して判断しています。これまでの研究では、脳の活動をはかる装置(fMRI)によって、手を選択する時には左右両半球の脳の後頭頂葉(※2)が活動することが報告されていました(Fitzpatrickら、2019)。また、磁気刺激(単発TMS)によって左の後頭頂葉の活動に瞬間的にノイズを付加すると、右手の選択が妨害されることが分かっていました(Oliveiraら、2010)。しかし、この効果は瞬間的であり、シナプスの可塑的変化を誘導し、後頭頂葉の活動を持続的に高めたり弱めたりしたときの影響はわかっていません。さらに、持続的な効果がないため、リハビリテーションで麻痺した手を使うことを促す治療として応用することも難しいという問題がありました。また、これまでの研究では、左右の後頭頂葉が対称的に関係しているという結果と、左側の後頭頂葉が主に関係しているという結果があり、左右の後頭頂葉がどのように関係しているかは十分に分かっていませんでした。

図1:使う手の選択について
様々な位置に提示されるターゲットに、左右どちらかの手をのばす。青線は、体の中心を示し、赤線は、右手と左手を半々の確率で使う選択均衡線を示す。右利きの実験参加者は、選択均衡線が体の中心よりも左側にくることがわかっている。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

私たちは経頭蓋直流電気刺激(tDCS)(※3)が、シナプスの可塑的変化を誘導し、刺激された脳部位の神経活動を、数時間程度の間、持続的に高めたり弱めたりできることに着目しました。右利きの実験参加者を対象に、tDCSをつかい、左側の後頭頂葉の活動を弱め、同時に右側の後頭頂葉の活動を高める刺激と、反対に、左側の後頭頂葉の活動を高め、同時に右側の後頭頂葉の活動を弱める刺激、この2種類それぞれの刺激が、図1の「右手と左手を半々の確率で使うライン(選択均衡線)」に変化を及ぼすかを調べました。実験参加者は、左右どちらかの手をつかい、パソコン画面上の色々な位置にランダムに出現する黒い丸(ターゲット)に、手をすばやく到達させる課題をおこないました(図2)。tDCS刺激前、刺激中、刺激後にそれぞれ同じ課題をおこない、選択均衡線の変化を刺激前と比較しました(図3)。結果は、左の後頭頂葉の活動を弱め、右の後頭頂葉の活動を高める刺激を行ったあと(刺激後)、選択均衡線が右側にずれて、左手担当エリアが広がりました(図4)。一方で、左側の後頭頂葉の活動を高め、同時に右側の後頭頂葉の活動を弱めた場合は、明らかな変化はありませんでした(図5)。この結果から、tDCSで後頭頂葉を刺激すると、刺激終了後のしばらくの間、左手を使うエリアを広くすることができることが明らかとなり、左右の後頭頂葉は、左と右が同じように関係しているのではなく、非対称に関係していることが示唆されました。

図3:実験の手順1つの課題は約8分であり、tDCS刺激前、刺激中、刺激後に行なった。tDCSは10分間刺激した。各課題の前には、練習課題を設定した。

 

(3)研究の波及効果や社会的影響

本研究の結果は、手の選択に対して、左右の後頭頂葉が非対称に、そして因果的に関与していることを明らかにしました。さらに、刺激をやめた刺激後にも持続的に手の選択に変化を与えることに成功しました。この結果は脳卒中によって片側の体が麻痺した当事者に対して、麻痺した手を使うことを促す治療として応用できる可能性があります。リハビリテーションの現場では、麻痺した手を再び動くように治療しますが、ある程度動くようになっても、麻痺した手は、麻痺していない健康な手と比べると使いにくくなるため、健康な手でなんでもやってしまい、麻痺した手を使わなくなってしまうことがあります。生活の中で麻痺した手を使わないと、せっかく回復した手の動きが悪くなり、さらに使えなくなってしまうのです。そのため、リハビリテーションにおいて、手の使用を促す治療はとても重要となります。しかし、手の使用に介入するようなリハビリテーションはほとんど実施されていません。刺激によって、無意識的に麻痺した手を使うことを促すというアイデアは、新しいリハビリテーションのコンセプトを提案するものでもあります。

図5:結果(左右手の選択均衡線の角度変化)
縦軸は、刺激前からの左右手の選択均衡線の角度変化を示しており、0度が体の中心で、プラスになるほど左手担当エリアが大きくなり、マイナスになるほど右手担当エリアが大きくなることを示す。赤が右後頭頂葉を高め・左後頭頂葉を弱めた刺激、青が右後頭頂葉弱め・左後頭頂葉を高めた刺激の結果を示す。青の右後頭頂葉を弱め・左後頭頂葉を高めた刺激で、刺激後に均衡線の角度が増加し、左手の使用が著しく増えたことがわかる(図4の結果と合わせて参照)。

 

(4)今後の課題

今後は、より局所を刺激できる高精細経頭蓋直流電気刺激法という新しい手法をつかい、左右後頭頂葉を個別に刺激することで、左右後頭頂葉それぞれの影響を明らかにしたいと考えています。また、今回は右利きの実験参加者の左手の使用を増加させることに成功しましたが、右手の使用を増加させることはできておらず、利き手との関係も明らかではありません。この問題に対し、今後は頭頂葉のみでなく、頭頂葉と前頭葉の活動の連携に着目し、より広範囲の脳内機序について検証していきたいと考えています。さらに、リハビリテーションにおいて、実際に脳卒中患者に効果があるかを検証し、臨床応用にむけた検討を行います。

(5)用語解説/出典情報

※1 半々の確率で右手と左手を使うライン(左右手の選択均衡線)

今回の実験での各ターゲットは、実験台の手前(四角いスタート位置の中心)を中心として、半径27cmの半円の円周上に、さらに垂直方向を0度(体の左右中心)として、左右対称に±8, 25, 45, 75度の9つの位置に提示した。各ターゲットに対する左右の手の選択率を測り、右手の選択率をターゲット位置ごとにプロットすると図のような青いシグモイド曲線で近似できる。この曲線に対して、右手選択50%、左手選択50%のところが「半々の確率で右手と左手を使うライン(左右手の選択均衡線)」をしめす角度となる。

上がターゲット提示位置(角度)、下が各ターゲットの右手の選択率に対してシグモイド曲線で近似した(青線)。右手の選択率50%のターゲット提示位置を左右手の選択均衡線の角度とした。

※2後頭頂葉

後頭頂葉:頭の上部やや後方、左右に分かれて位置する。視覚や触覚など様々な感覚の処理を担当する。

※3 tDCS(経頭蓋直流電気刺激)

陽極と陰極の2種類の刺激電極を頭表において刺激することで、その直下の脳部位の活動を促進または抑制することができ、神経の伝達が可塑的に変化し、10分の刺激で最大90分の持続効果がある(図)。持続的に脳活動を変化させることができるため、脳活動と行動指標の関係を調べる研究や、リハビリの治療として応用されている。

経頭蓋直流電気刺激装置(tDCS) 赤が陽極、青が陰極電極。脳活動は陽極直下が促進、陰極直下が抑制される。

(6)論文情報

雑誌名:Scientific Reports

論文名:Transcranial direct current stimulation of the posterior parietal cortex biases human hand choice

執筆者名(所属機関名):平山健人、古賀敬之、髙橋徹、大須理英子(早稲田大学)

掲載予定日時(現地時間):2021年1月8日10時

掲載予定日時(日本時間):2021年1月8日19時

(オンライン掲載の場合)

掲載(予定)URL:www.nature.com/articles/s41598-020-80611-8

DOI:10.1038/s41598-020-80611-8 

(7)研究助成

研究費名:科研費(17H02128、19H01091、20H05482)

研究課題名: 「中枢神経疾患後の機能障害の進行と回復過程への学習メカニズムの関与」、「新規非侵襲的脳刺激が拓くネオ・リハビリテーションとそのシステム脳科学的解明」、「脳刺激やモチベーション操作による障害側身体空間を志向する神経回路の活性化」。

研究代表者名(所属機関名):大須理英子(早稲田大学)

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