イベント開催都市住民の幸福度

スポーツイベントと開催都市住民の幸福度の関係性を解明

発表のポイント

  • 大規模スポーツイベント開催都市住民を対象にアンケート調査を実施し、スポーツイベントが開催都市住民の幸福感を醸成すること、ならびにその心理的メカニズムを明らかにした
  • 今回はイベント実施2か月後の調査だったため、今後はより長い時間をかけた研究をすることで、スポーツイベントと幸福感の関係性をより詳細に導き出す

早稲田大学(本部:東京都新宿区、総長:田中愛治)スポーツ科学学術院の佐藤 晋太郎(さとう しんたろう)准教授を代表とする共同研究チーム(米ミシシッピ大学、東海大学、以下研究チーム)は、2019年に開催されたラグビーW杯日本大会の開催都市住民を対象に、(1)スポーツイベントが開催都市住民の幸福感を醸成すること、ならびに(2)その心理的メカニズムを明らかにしました。スポーツイベントが開催都市住民に与える好影響(=インパクト)が、住民の幸福感と正の関係を持つというエビデンスが、世界各地で報告されてきましたが、「なぜ」スポーツイベントのインパクトが住民をより幸福にするのかという心理的メカニズムについては、体系的な研究が世界的に実施されていませんでした。本研究チームはラグビーW杯2019を研究対象として、大会閉幕直後と閉幕から2ヶ月後に、開催都市住民に対してオンラインアンケートを実施し、スポーツイベントのインパクトと住民の幸福感との関係性を調査しました。結果的にはラグビーW杯2019が開催都市にもたらしたインパクトが、住民の心理に好影響をもたらし、高い幸福感が得られたという心理的メカニズムの解明に至りました。本研究プロジェクトでは、大会閉幕2ヶ月後に住民へ追跡調査を行い、住民の幸福感を測定しました。スポーツイベントのインパクトが、2ヶ月後の住民の幸福感に好影響を与えることは解明されましたが、その後、スポーツイベントが幸福感にもたらす影響が持続するとは限りません。今後の研究課題としては、より長い時間をかけた縦断的研究をすることで、スポーツイベントと幸福感の関係性を詳細に説明していく必要があります。

【論文情報】

雑誌名:Current Issues in Tourism

論文名:The effect of Rugby World Cup 2019 on residents’ psychological well-being: a mediating role of psychological capital

執筆者名(所属機関名):S. Sato., K. Kinoshita., M. Kim., D. Oshimi., and M. Harada.

掲載予定日時(現地時間):27 Dec 2020  掲載予定日時(日本時間):28 Dec 2020

掲載URL:https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/13683500.2020.1857713

DOI:https://doi.org/10.1080/13683500.2020.1857713

【研究助成】

研究費名:JSPS科研費JP20292674

研究課題名:参加型・観戦型スポーツと幸福感の関係の解明

研究代表者名(所属機関名):佐藤晋太郎(早稲田大学スポーツ科学学術院)

(1)これまでの研究で分かっていたこと

スポーツイベントと開催都市住民の関係に関する研究は世界各地で蓄積されてきました。その中で、特にポピュラーな考え方としては、スポーツイベントのインパクトが挙げられます。スポーツイベントのインパクトは、経済的インパクト、社会的インパクト、環境的インパクトの3つに大別されます。例えば、スポーツイベントによって、開催都市の経済が活性したり、雇用が創出されること(経済的インパクト)、観光客との交流や自分が住む街への愛着が醸成されること(社会的インパクト)、そしてスポーツイベントによって環境問題への気づきや配慮が醸成されること(環境的インパクト)などと説明すると分かりやすいかもしれません。これらのインパクトが、開催都市住民の幸福感と正の関係を持つというエビデンスが、世界各地で報告されてきました。しかし、「なぜ」スポーツイベントのインパクトが住民をより幸福にするのかという心理的メカニズムについては、体系的な研究が世界的に実施されていませんでした。 

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

本研究チームは、ラグビーW杯2019を研究対象として、(1)スポーツイベントの経済的・社会的・環境的インパクトは開催都市住民の幸福感と関係があるのか、そして(2)その心理的メカニズムを「心理的資本」という概念を用いて説明しました。心理的資本とは、楽観性・希望・レジリエンス・自己効力感から構成される概念であり、「困難があっても明日への希望を持ち、柔軟に立ち向かうためのしなやかな心のエネルギー」(以下、しなやかな心のエネルギー)とイメージすると分かりやすいかもしれません。研究チームは、大会閉幕直後と閉幕から2ヶ月後に、開催都市住民に対してオンラインアンケート調査を実施しました。調査はラグビーW杯2019の開催都市の中から、各都道府県の人口比などを考慮して、札幌、横浜、神戸、東大阪などの7都市の住民を対象に行いました。対象者は大会閉会直後のオンラインアンケートにおいて、ラグビーW杯の(1)経済的・社会的・環境的インパクトをどのように感じたかと(2)心理的資本に関する質問に回答し、二ヶ月後の追跡調査では、幸福感に関する質問に回答しました。大会閉会直後と二ヶ月後の両方のオンラインアンケートに回答した206名の開催都市住民から得たデータをもとに様々な統計処理を施した結果、ラグビーW杯2019が開催都市にもたらした経済的・文化的・環境的インパクトが、開催都市住民の「心理的資本」を醸成し、結果として高い幸福感が得られたという心理的メカニズムの解明に至りました。さらに、スポーツイベントのインパクトの中でも、文化的インパクトと心理的資本の関係がとりわけ強いことから、開催都市住民の「しなやかな心のエネルギー」は、観光客との交流による新しい学びの機会や、おらが街への愛着の醸成といった、スポーツイベントが持つ社会的インパクトの影響が大きいことが示唆されました。

(3)研究の波及効果や社会的影響

本研究では、スポーツイベントを開催することにより住民の幸福感の醸成とそのメカニズムを説明しました。全国都道府県市区町村は、魅力的なスポーツイベントを誘致することで、住民の「しなやかな心のエネルギー」を醸成でき、結果として幸福感の向上も期待できます。新型コロナウィルスの感染拡大により、数々のスポーツや文化的イベントが延期・中止を余儀なくされています。スポーツは人々の生活をより良いものにする力を持っていますが、「生きるための必需品」ではないかもしれません。しかし、またいつか多くのスポーツイベントを開催できる日が来たときは、都道府県市区町村の方々に、ぜひスポーツの力を活用していただき、より幸福な社会の構築に役立てていただきたいと思います。

(4)今後の課題

本研究プロジェクトでは、大会閉幕2ヶ月後に住民への追跡調査を行い、幸福感を測定しました。スポーツイベントのインパクトと心理的資本が、2ヶ月後の住民の幸福感に好影響を与えることは解明されましたが、半年後、一年後、そして数年後まで、スポーツイベントが幸福感にもたらす影響が持続するとは限りません。今後の研究課題としては、より長い時間をかけた縦断的研究をすることで、スポーツイベントと幸福感の関係性を詳細に説明していく必要があります。 

(5)論文情報

雑誌名:Current Issues in Tourism

論文名:The effect of Rugby World Cup 2019 on residents’ psychological well-being: a mediating role of psychological capital

執筆者名(所属機関名):S. Sato., K. Kinoshita., M. Kim., D. Oshimi., and M. Harada.

掲載予定日時(現地時間):27 Dec 2020

掲載予定日時(日本時間):28 Dec 2020

(オンライン掲載の場合)

掲載(予定)URL:https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/13683500.2020.1857713

DOI:https://doi.org/10.1080/13683500.2020.1857713 

(6)研究助成

研究費名:JSPS科研費JP20292674

研究課題名:参加型・観戦型スポーツと幸福感の関係の解明

研究代表者名(所属機関名):佐藤晋太郎(早稲田大学スポーツ科学学術院)

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