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赤とんぼ類自動撮影装置を発明

とまって撮るよ、竿の先 赤とんぼ類自動撮影装置を発明

早稲田大学と国立環境研究所の研究チームは、安価で省電力な光センサーを応用して棒の先にとまった赤とんぼ類を自動撮影する装置を発明し、実際に野外に設置して精度よく撮影が可能であること、一か月に一度程度カメラの電池を交換するだけで野外で数カ月間以上実働可能なことを確認しました。

実用性の高い装置を用いて赤とんぼ類の自動撮影に成功した例は世界初であり、この装置の発明を受けて、近年の赤とんぼ類の分布変化の実態解明みならず、棒の先に止まる性質を持つ他のとんぼ類や鳥類などの生き物の無人調査技術が大きく発展することが期待されます。
本研究の成果は、令和2年9月18日付で生命科学・環境科学分野の学術専門誌「PeerJ」に掲載されました。

1.研究の背景と目的

アキアカネをはじめとする赤とんぼ類は秋の風物詩として国内で広く親しまれているとともに、水田環境とも結びつきが強く、自然豊かな里地里山の指標生物であると考えられています。近年、一部の地域では個体数が激減していることが報告され、その原因として農薬や耕作放棄による影響が指摘されています。また、アキアカネは涼しい場所を好むため、地球温暖化による影響も懸念されています。一方で、赤とんぼ類の現状を把握する調査方法は限られています。一般的には人が目視でヤゴ(幼虫)の抜け殻や成虫を調べるという方法で行われていますが、天候等の影響を受けやすく、手間もかかります。生態学的な観点から妥当な統計解析を行うために数十地点以上のデータがあることが望ましいですが、広い範囲で継続的に調査を実施することは中々難しいのが現状です。
では、他の生き物ではどうでしょうか?例えば、哺乳類では赤外線センサーを用いた自動撮影による無人のモニタリング調査が既に実現しています(例えばFukasawa et al. 2016)。私たちは、赤とんぼ類にもそのような自動撮影の手法が応用できるのではないかと考えました。赤外線センサーは周辺環境と生き物の温度の違いを検出するので、昆虫のような変温動物には不向きです。一方、室内にて昆虫を検出するために、センサー投光部から常時発せられる光を昆虫が遮った際に受光部が反応し、自動検知するセンサーが存在します。投光部を持つセンサーは昆虫のように小さな生き物でも精度よく反応しますが、常に光を出す必要があるため消費電力が大きく、野外に長期間多数設置することができません。光を出さずに受光部だけの光センサーを用いて赤とんぼ類を自動検知することはできないのでしょうか。
その問題を解決するため、国立環境研究所の研究チームは、童謡赤とんぼで「夕やけ小やけの赤とんぼ、とまっているよ竿の先」と歌われるように、赤とんぼが棒状の物体の先にとまりやすいという性質に着目しました。とんぼがとまった先に受光部のみの光センサーを設置しておけば、とんぼによって上からの太陽光が遮られるので、受光部からの信号が変化することが期待できます。同時に、とんぼがとまらないような場所にもう一つ同じ光センサーを設置しておき、そのセンサーからの信号と比較できるようにしておけば、太陽が雲に隠れて暗くなるような場合ととんぼがとまって暗くなった場合を区別することができるので、精度よくとんぼを自動検出できるはずです。投光部の代わりに太陽光を用いるので、消費電力も小さくて済みます。このアイデアを実現するために、本研究では実際に自動撮影装置を開発して、長期間野外設置可能であることを確認するとともに、実際に赤とんぼ類を自動撮影できるか、どれくらい精度よく撮影できるか、撮影結果は従来の人による調査とどの程度一致するのかを検討しました。

2.手法

生き物のモニタリング調査では、得られたデータを統計処理することを見越してなるべくたくさんの地点で調査をすることが重要になってきます。そのためには、より安価な材料を用いた簡易な自動撮影装置が便利です。本研究では、CdSセル1と呼ばれる1個数十円程度の受光部のみの光センサー2個をUSBケーブルでマイクロコンピューター(以下「マイコン」)に接続し、アクリルパイプ、塩ビパイプ等で保護した自動撮影装置(図1A)を試作しました。この装置は一つ目のCdSセルが設置された棒の先端が暗くなり、かつ、先端部の少し下に設置されたもう一つCdsセルが暗くない状態が十秒続いた場合、接続された市販カメラにマイコンから撮影命令が出される仕組みになっています。野外での稼働期間を確認するため、この装置1台を国立環境研究所福島支部の屋外に2016年10月11日から12月16日の間設置しました。

(A)、(B)はYoshioka et al. (2020) Fig. 2を改変

更に、どの程度正確に赤とんぼ類を自動撮影することができるのかを検証するため、国立環境研究所つくば本部内の3か所(「圃場」、「池」、「屋上」)に同年10月21日と22日の2日間、自動撮影装置を一台ずつ設置する短期実験を実施しました。装置にとまったとんぼがどの程度見逃されているかも確認するために、各自動撮影装置にはタイムラプスカメラあるいはビデオカメラを併設しました。また、従来の人による調査と自動撮影結果を比較するため、一日あたり3回、各地点で10分間の目視による赤とんぼ類成虫の調査を行いました。

3. 結果と考察

福島支部に設置した装置は赤とんぼ類の一種であるノシメトンボの自動撮影(図1B)に成功するとともに、マイコンは単三電池3本で2ヶ月以上稼働すること、ただし、接続された市販カメラの電池(単三電池4本)は一か月程で切れる場合があることがわかりました。
また、つくば本部に設置した自動撮影装置によって撮影された画像を確認したところ、2日間でアキアカネ又はナツアカネ2と見られる赤とんぼ類の画像(図1C)が地点によって0-50回撮影されていた一方、17-49回ほど、赤とんぼがとまっていないのに自動撮影されている例が見られました。赤とんぼ以外の他の生き物に反応したとみられる撮影例はなく、雲の動き等に反応した誤検出と見られます。また、自動撮影装置の様子を10秒毎に撮影するタイプラプスカメラを併設し、とんぼが棒の先に滞在するイベント3がどれくらい自動撮影(検出)されたかを確認したところ、20秒以上滞在していたのに見逃された例は一度のみでした(図2)。

図 2. 併設されたタイムラプスカメラで確認された各地点における滞在イベント回数(装置の先端に⾚とんぼ類がとまっていた回数。ただし、⼀旦装置から離れても 20 秒以内に再びとまった場合は、継続してとまっているとみなした)。 屋上では⼀度も装置に⾚とんぼ類がとまらなかった。Yoshioka et al. (2020)の Fig. 5 を改変

さらに人による調査と自動撮影の結果を比較したところ、人による調査では圃場と池で比較的多くの赤とんぼ類が見られた一方で屋上ではあまり見られなかったのに対し、自動撮影では、池で多く撮影された一方で、屋上では全く撮影されず、圃場でもあまり撮影されないという結果になりました(図3)。

図 3. 各地点における⾚とんぼ類の(A)合計⾃動撮影件数と(B)10 分間の⽬視調査の合計個体数。⼩⽂字のアルファベットは、同じ⽂字ならば適合度の検定によって、撮影頻度あるは⽬撃頻度の地点間の偏りに統計的に有意な差がなかったことを⽰す。Yoshioka et al. (2020)のFig. 7 を改変

以上の結果から、自動撮影装置は一か月に一度程度のカメラの電池交換を行えば赤とんぼ類がよく見られる秋期の数カ月を通して野外設置可能であることが確認されました。また、短期間の実験では、十分実用的な精度で自動撮影を行うことが可能であることも示唆されました。一日当たり数十件の誤検出は市販の赤外線カメラを用いた哺乳類調査における自動撮影でも十分にあり得る頻度であり、確認に要する労力を考えれば許容範囲です。また、とまったとんぼを検出できなかった例が比較的少なかったのもこの自動撮影装置の検出力が高いことを示唆しています。
このように、赤とんぼ類の在不在は自動撮影によって十分に把握できることが示された一方で、目視調査との比較によって、自動撮影から個体数密度に情報を得るには課題があることも分かりました。自動撮影は屋上のようにほとんど赤とんぼ類が見られない場所では目視による調査と同様の傾向を示しましたが、圃場と池というとんぼ類が多く見られる場所では目視調査とは一致しない傾向が見られました。これは圃場の周りでは他にもとんぼがとまりやすい構造物があったことが関係しているかもしれません。また、池では同じ個体が装置の上にとどまり続けた可能性もあります。いずれにせよ、今回開発した装置一台による自動撮影から得られる情報は目視の調査と比べて限られており、とんぼの密度が極端に低い場所と高い場所を区別することはできても、とんぼの密度が高い場所同士で比較を行うには不十分でした。この問題は、一か所に装置を多く設置する、長期間設置するといった設置方法の工夫、あるいはカメラ一台当たりのセンサーを増やすように装置を改良する等の工夫で改善することが期待されます。

4.今後の展望

本研究では発明された自動撮影装置が野外調査でも使用可能なことが確認されましたが、まだまだ改良の余地があるのも事実です。実際に多地点で調査するとどのような結果が得られるかについて、今後、福島県の営農再開水田での調査等を通して確認していく予定です。
また、この自動撮影装置は赤とんぼ類の調査用に開発されたものであり、今回の実験では他の生き物は検出されていませんでしたが、サイズや自動検出プログラムの設定を変更することで、その他のとんぼ類や鳥類等、棒の先にとまる性質がある生き物に広く応用できることが期待されます。このアイデアは「飛翔生物検出装置」として特許も認められています(特許第6558701号)。
このように生き物の性質に目を付けなるべく省力的な無人調査技術を開発するという動きは、人口減少下で生物調査の人員が不足がしがちな状況、例えば、現在の新型コロナウイルス感染症の流行下や福島の原発事故による避難指示区域のように移動制限が発生しうる状況において継続的に生物多様性データを蓄積する上で極めて重要になります。自動撮影を用いた無人野外調査技術はまだ十分に昆虫類には応用されていませんが、本研究がその発展の一助となることを願っております。

5.注釈

1. Cds(硫酸カドミウム)を用いた直径5mmほどの光センサーの一種。あたる光が強いほど電気抵抗値が下がります。
2. 本研究で得られた画像からはアキアカネとその他の赤とんぼ類(例えばナツアカネ)を区別することが難しいです。これは、装置に接続されている市販カメラがセンサー部に近いとカメラの方にとんぼがとまってしまう恐れがあり、センサーから距離をとって設置してあるからです。ただし、ノシメトンボは翅の先端部が黒いため、容易にアキアカネと区別することができます。
3. 同じ個体のとんぼがちょっと棒を離れてまたすぐとまるということはよく見られるので、とんぼが一時的に飛び立った場合でも、20秒以内に戻ってきた場合は同じ滞在イベントとみなしました。

6.研究助成
本研究は、JSPS科研費16H05061, 18K05931及び国立環境研究所が進めている災害環境研究プログラム、自然共生研究プログラムの支援を受けて実施されました。

7.発表論文

【タイトル】
Development of a camera trap for perching dragonflies: a new tool for freshwater environmental assessment
【著者】
Akira Yoshioka, Akira Shimizu, Hiroyuki Oguma, Nao Kumada, Keita Fukasawa, Shoma Jingu, Taku Kadoya  ※下線で示した著者が国立環境研究所所属です。
【雑誌】 PeerJ
【DOI】 10.7717/peerJ.9681

8.参考文献

1. Fukasawa, K., Mishima, Y., Yoshioka, A., Kumada, N., Totsu, K., & Osawa, T. (2016). Mammal assemblages recorded by camera traps inside and outside the evacuation zone of the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant accident. Ecological Research, 31, 493.
https://link.springer.com/content/pdf/10.1007/s11284-016-1366-7.pdf

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