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90億光年先の紫外線検出に成功

90億光年彼方の銀河から強い紫外線の検出に成功

発表のポイント

  • 銀河間に漂う水素を電離できる強い紫外線は、40億光年から110億光年の間にある銀河からは発見されていなかった。
  • インドの天文衛星を用い、90億光年彼方の銀河から強い紫外線の検出に成功した。
  • 宇宙の再電離の解明や、宇宙望遠鏡開発に大きな刺激となることが期待される。

早稲田大学理工学術院の井上 昭雄(いのうえ あきお)教授、Inter-University Centre for Astronomy and AstrophysicsのKanak Saha博士らの研究グループは、インドの天文衛星を用いて90億光年彼方にある銀河から強い紫外線の検出に成功しました。

銀河間に漂う水素を電離できる強い紫外線について、これまで多くの天文学者が発見を試みてきましたが、40億光年から110億光年の間にある銀河からは発見されていませんでした。今回の研究では、インドの天文衛星に搭載された紫外線望遠鏡を用い、90億光年彼方にある銀河から、これまで検出された紫外線の中で最も高エネルギー(短波長)の紫外線を検出しました。今回の研究成果は、宇宙の再電離の解明につながる可能性があり、また世界の宇宙望遠鏡開発にとって大きな刺激となることが期待されます。

本研究成果は、2020年8月24日(月)午後4時(英国時間)に『Nature Astronomy』のオンライン版で公開されました。

論文名:AstroSat detection of Lyman continuum emission from a z = 1.42 galaxy

(1)これまでの研究で分かっていたこと

初期の宇宙、ビッグバン後40万年程度から2、3億年程度までの期間は、恒星も銀河も無い「暗黒時代」と呼ばれています。そのころの宇宙の物質(主に水素)は電気的に中性の状態にありました。そして、宇宙最初の天体が誕生し、恒星の集団である銀河が形成されると、たくさんの紫外線が放射され、銀河間に漂う水素は電離されていきました。これを「宇宙再電離」と呼びます。ビッグバンから暗黒時代の前までの水素は電離状態であり、中性の暗黒時代を経て、再び電離状態になりました。そして今日まで、銀河間の水素は電離状態であり続けています。この宇宙再電離は初期宇宙の若い銀河によって引き起こされたという説が有力ですが、詳しくは分かっていません。それを明らかにすることが現代天文学の大きな課題になっています。

天文学者たちは、これまでも水素を電離できるほど強い紫外線(波長91.2 nm※1未満の光、以下電離光子)を放つ銀河を探してきました。しかし、これまでに見つかった電離光子銀河はあまり多くありません。これは電離光子の観測が非常に難しいためです。宇宙再電離の時代はおよそ130億年前であり、そのころの電離光子銀河はまだ見つかっていません。なぜなら、宇宙再電離後の銀河間空間でも中性の水素がまだほんの少しだけ残されており(およそ10万個に1個未満の水素だけが中性)、そのわずかな中性水素でさえ電離光子を吸収しつくすのに十分な量なので、地球まで届くことはないためです。

少し時代が進み110億年前の宇宙では銀河間に残った中性水素の量がさらに少なくなり、電離光子の直接観測のチャンスが出てきます。また、この時代の電離光子は、すばる望遠鏡など地上の大望遠鏡で観測ができる可視光まで赤方偏移※2してくることも重要です。それでもわずか10個程度の電離光子銀河しか報告されていません。さらに時代が進み、距離が近くなると今度は赤方偏移が小さいため、電離光子は紫外線のまま地球に届き、大気に吸収されてしまいます。そこで大気圏外の望遠鏡が必要になります。しかし、ハッブル宇宙望遠鏡をもってしても、およそ40億光年未満の銀河10個程度から電離光子を検出するにとどまっていました。その結果、40億光年から110億光年の間にある電離光子銀河はまったく発見されていませんでした。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

インドの天文衛星AstroSatに搭載された紫外線望遠鏡(UltraViolet Imaging Telescope、以下UVIT)を用いて、これまで見つかっていない時代の電離光子銀河を探査しました。そして、90億光年彼方の銀河AUDFs01から電離光子の検出に成功しました。検出した電離光子の波長は赤方偏移を戻すと64 nmであり、非常に高いエネルギーをもつ紫外線でした。これほど高エネルギーの紫外線を銀河から検出したのは初めてであり、銀河の電離光子スペクトルに関して新しい観測的情報を得ることができました。

(3)そのために新しく開発した手法

AstroSatは2015年9月28日にインド宇宙研究機関によって打ち上げられたインド初の宇宙天文台です。UVITは直径38センチの望遠鏡で、遠紫外線(154 nm)と近紫外線(242 nm)を同時に広い視野で撮像できる機能を持ちます。本研究グループは、UVITをGOODS South※3と呼ばれる空の一点に向け、約28時間にわたって露光しました。そのデータを2年かけて解析し、これまででもっとも高感度の遠紫外線画像を作成しました。本研究グループはこの画像をAstroSat Uv Deep Field south (以下AUDF south)と名付けました。今回報告した銀河の名前AUDFs01はAUDF southの天体番号1という意味です。

AstroSat Uv Deep Field (AUDF)の疑似カラー画像。赤: 波長812.8 nm (ハッブル宇宙望遠鏡)、緑:波長603.5 nm (ハッブル宇宙望遠鏡)、水色: 241.8 nm (AstroSat)、藍色: 154.2 nm (AstroSat)。AUDFs01は四角で囲まれている銀河で、左下にその拡大図を示す。右下はAstroSatのイメージ。(画像提供:Kanak Saha博士)

(4)研究の波及効果や社会的影響

これまで観測されていなかった銀河の遠紫外線スペクトルの情報が得られたことは重要です。銀河が生み出す電離光子の量やそれが銀河間空間にどのように伝わるのかという情報は、宇宙再電離の解明への一つのカギとなる可能性があります。また、AstroSat/UVITのように小さくても性能を特化すれば、ハッブル宇宙望遠鏡をもしのぐ性能を発揮できることが実証されました。世界の宇宙望遠鏡開発にとって大きな刺激となることが期待されます。

(5)今後の課題

宇宙再電離の解明に向けては、今後も多角的に研究を進める必要があります。井上教授の研究グループでは宇宙再電離の時代により近い120億光年の銀河に対して電離光子の観測を進めています。また、さらに初期の宇宙の銀河探査を行い、それらの性質をよりよく理解することも大切です。

(6)研究者のコメント

私がこの研究に参加したきっかけは、ちょうど2年前の夏休みにギリシャのクレタ島で開催された合宿研究会でした。そこで、この研究を主導したKanak Saha博士と出会い、銀河間空間の水素の影響について、以前の私の研究結果を提供することになりました。現在はコロナ禍のためそのような出会いが制限されています。いずれまた世界の研究者がひざ詰めで議論できる日が来ることを願っています。

(7)用語解説

※1 nm
ナノメートル。ナノ(n)は10億分の1を表す。

※2 赤方偏移
宇宙の膨張によって光の波長が伸びる現象。また、その伸び率。元の波長をλ、波長の伸びをΔλとしたとき、赤方偏移はΔλ/λとなり、これをzで表すのが慣例である。このとき、赤方偏移がzの光源からの光の波長は元の1+z倍に伸びて観測される。AUDFs01はz=1.4であることが分かっており、今回UVITで観測した遠紫外線154 nmの光は、赤方偏移を戻せば(2.4で割れば)波長64 nmになる。

※3 GOODS South(グッズサウス)
南天(南半球の空)の炉座にある天域の名称。Great Observatories Origins Deep Survey (GOODS)というプロジェクト名の下、ハッブル宇宙望遠鏡を始めとした世界の大望遠鏡群を使った深宇宙探査が行われた。北天と南天で一か所ずつ探査天域が設定された。

(8)論文情報

雑誌名:Nature Astronomy
論文名:AstroSat detection of Lyman continuum emission from a z = 1.42 galaxy
執筆者名(所属機関名):Kanak Saha (Inter-University Centre for Astronomy and Astrophysics, India), Shyam N. Tandon (Inter-University Centre for Astronomy and Astrophysics, India), Charlotte Simmonds (Observatoire de Genéve, Switzerland), Anne Verhamme (Observatoire de Genéve, Switzerland), Abhishek Paswan (Inter-University Centre for Astronomy and Astrophysics, India), Daniel Schaerer (Observatoire de Genéve, Switzerland), Michael Rutkowski (Minnesota State University-Mankato, U.S.A.), Anshuman Borgohain (Tezpur University, India), Bruce Elmegreen (IBM Research Division, U.S.A.), Akio K. Inoue (Waseda University, Japan), Francoise Combes (Observatoire de Paris, France), Debra Elmegreen (Vassar College, U.S.A.), Mieke Paalvast (Leiden University, Netherlands)
掲載日時(英国時間):2020年8月24日(月)午後4時
掲載日時(日本時間):2020年8月25日(火)午前0時
DOI:https://doi.org/10.1038/s41550-020-1173-5

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