Notice大切なお知らせ

ベンゼンなどから三次元分子を合成

ベンゼンなど安価な原料から有用な三次元分子を合成する

触媒的な脱芳香族的二炭素官能基化反応の開発に成功

発表のポイント

パラジウム触媒によりベンゼン環を壊しながら2つの炭素–炭素結合形成に成功

様々な単純芳香族化合物(平面)から脂環式化合物(三次元)を効率的に合成可能

医農薬で重要視される有用な三次元構造分子の新規合成法を提供

早稲田大学高等研究所の武藤慶(むとうけい)講師、および理工学術院の山口潤一郎(やまぐちじゅんいちろう)教授らの研究グループは、パラジウム触媒を用いて、芳香族化合物(※1)を壊しながら2つの炭素ー炭素結合をつくる「脱芳香族的二炭素官能基化反応(以下、本反応)」の開発に成功しました。

複数の置換基をもつシクロヘキサンなどの脂環式化合物(※2)は三次元骨格をもち、医薬品にも頻出する重要な構造です。本研究では、平面構造であるベンゼンなどの芳香族化合物を「三次元構造前駆体」として活用すべく脱芳香族的合成法の開発を目指しました。しかし、芳香族化合物は、芳香族安定化効果(※3)をもつため、脱芳香族化の達成にはこの安定化効果の打破が課題となります。さらに脱芳香族化と同時に化学修飾する「脱芳香族的官能基化」は、置換基をもつ脂環式化合物の直感的な合成法であるものの、既存法はいくつもの制約を要するため最高難度の分子変換法の一つとされてきました。

今回研究チームは、芳香族化合物に対する触媒的な脱芳香族的官能基化反応の開発を試みました。その結果、パラジウム触媒条件下、ジアゾ化合物(※4)とマロン酸エステルを炭素官能基化剤とすることで、ブロモアレーン(※5)を脱芳香族させ、同時に2つの炭素–炭素結合を形成する本反応の開発に成功しました。複素芳香環を含む様々なブロモアレーンで本反応が効率よく進行します。本反応の後に還元や環化反応など種々の化学反応を施すことで、高度に化学修飾された脂環式分子の短工程合成にも成功しました。

本研究成果は、英国王立化学会誌『Chemical Science』に2020年7月29日(現地時間)に掲載されました。

論文名:Catalytic Three-component C–C Bond Forming Dearomatization of Bromoarenes with Malonates and Diazo Compounds (マロン酸エステルとジアゾ化合物を用いる芳香族ブロモ化合物の触媒的三成分炭素–炭素結合形成脱芳香族化反応)

(1)これまでの研究で分かっていたこと

医農薬分子の多くは、合成が比較的簡便であるという理由から芳香族化合物(平面構造)です。しかし、生物は三次元の分子構造体であり、それらと相互作用する分子(医農薬)も有用な生物活性を得るために三次元構造が望ましいとされています。すなわち、効率的なフラットランドからの脱却(平面構造→三次元構造)が現在創薬現場での課題となっています。芳香族化合物の芳香族性を壊し、すなわち平面構造を壊しつつその環上を化学修飾する脱芳香族的官能基化反応は、三次元構造をもつ脂環式化合物の合成法として直接的かつわかりやすく極めて有用です。しかし、それらの反応は高い芳香族安定化効果の打破を必要とするため、高難度変換法とされてきました。特に置換ベンゼン類は安定な芳香族化合物であり、既存の脱芳香族的官能基化反応では過剰量の芳香族化合物や毒性の金属試薬を使用する必要がありました。

本研究グループではこれまでの研究の結果、パラジウム触媒をもちいたベンジルアルコール類やブロモアレーンの脱芳香族的アリル化反応(※6)を発見しています(参照:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acscatal.9b03461)。これらは過剰量の芳香族化合物を用いず一当量の芳香族化合物の脱芳香族化を可能にした好例ですが、アリル化反応に限られていました。さらに、得られた脱芳香族体の不安定さにより、これらを安定な三次元構造体へ変換することができませんでした。

(2) 今回の研究で新たに実現しようとしたこと

本研究グループ(大学院先進理工学研究科修士課程2年加藤弘基、同修士課程1年武者樹、同博士課程2年小松田雅晃、高等研究所武藤慶講師、理工学術院山口潤一郎教授)は、三次元環状分子の効率的な合成法の開発を志向し、アリル化剤とは異なる炭素化剤を使用して、安価なブロモアレーンを効率的に脱芳香族的官能基化する新手法の開発に挑戦しました。

(3)そのために新しく開発した手法

本研究グループはこれまで、脱芳香族的アリル化反応には「アリル-パラジウム-ベンジル中間体」の発生が重要であるとわかっていました。今回、アリル基の炭素原子を一つ酸素に置き換えた化学種(エノラート)を用いても同様に反応が進行し、脱芳香族的アルキル化ができると考えました。膨大な反応条件の精査の結果、パラジウム触媒と水素化ナトリウム(NaH)存在下、種々のブロモアレーンに対しジアゾ化合物とマロン酸エステルを反応剤に使用すると狙いの脱芳香族的アルキル化が進行し、脱芳香族化反応と同時に二つの炭素­–炭素結合が形成できることがわかりました。

(4)今回の研究で得られた結果及び知見

開発した脱芳香族的アルキル化は、20種類以上のブロモアレーンを脱芳香族的に二官能基化できることがわかりました。また、本手法で得られる生成物に対して種々の変換反応を施すことで、多様な脂環式化合物が合成可能になりました。例えば、ブロモナフタレンを出発原料とし、開発した脱芳香族的アルキル化で得られる生成物を変換することで、高度に化学修飾された脂環式化合物が合成できました。

(5)研究の波及効果や社会的影響

今回開発した反応は容易に入手可能なブロモアレーンを触媒的に変換し、有用な三次元構造分子を合成できます。本反応は過剰量の芳香族化合物を要せず、効率的です。1当量のブロモアレーンに対して反応が進行するため、今後、医農薬化合物の直接変換へと応用すれば、新規医薬品候補化合物の迅速探索が可能になると期待できます。

(6)今後の課題

現状、適用可能な反応剤がマロン酸エステルや特定のジアゾ化合物に限られるため、合成できる置換脂環式化合物の拡大に改善の余地を残します。今後、新規触媒の開発を通じて、この課題を克服したいと考えています。

(7)用語解説

※1 芳香族化合物:ベンゼンを代表とする環状不飽和有機化合物のこと。安価に入手可能。化学的に安定である。

※2 脂環式化合物:シクロヘキサンなどの芳香族性をもたない環状有機化合物のこと。骨格が柔軟で、三次元構造をもつ。

※3 芳香族安定化効果:芳香族化合物がもつ環上のパイ電子が非局在化することで得られるエネルギー的な安定化効果。

※4  ジアゾ化合物:ジアゾメタンやジアゾ酢酸エステルを代表とする、N2で表されるジアゾ基と結合した炭素をもつ分子。有機合成で頻用される。

※5 ブロモアレーン:臭素が結合している芳香族化合物。安価に入手可能。

※6 アリル化:C3H5で表される炭素置換基を導入する反応のこと。

(8)論文情報

掲載雑誌:Chemical Science(ケミカルサイエンス)
論文名:Catalytic Three-component C–C Bond Forming Dearomatization of Bromoarenes with Malonates and Diazo Compounds (マロン酸エステルとジアゾ化合物を用いる芳香族ブロモ化合物の触媒的三成分炭素–炭素結合形成脱芳香族化反応)
著者:Hiroki Kato, Itsuki Musha, Masaaki Komatsuda, Kei Muto, and Junichiro Yamaguchi(加藤弘基、武者樹、小松田雅晃、武藤慶山口潤一郎
論文公開日:2020年7月29日 (現地時間)
DOI: https://doi.org/10.1039/D0SC02881A
掲載URL: https://doi.org/10.1039/D0SC02881A

(9)研究助成

研究費名:科学研究費:新学術領域研究
研究課題名:求核種活性化型有機・遷移金属ハイブリッド触媒を用いる脱芳香族的アルキル化反応
研究究代表者名(所属機関名) 武藤慶(早稲田大学)

研究費名:科学研究費:若手研究
研究課題名:配位子による反応空間制御を鍵とする触媒的脱芳香族的官能基化反応の開発と応用
研究究代表者名(所属機関名) 武藤慶(早稲田大学)

研究費名:里見奨学会研究助成
研究課題名:脱芳香族的官能基化による「平面構造からの脱却」合成法の開発
研究究代表者名(所属機関名) 武藤慶(早稲田大学)

研究費名:科学研究費:基盤研究(B)
研究課題名:脱カルボニル型変換反応の非線形展開:転位・脱酸素・メタセシス
研究究代表者名(所属機関名) 山口潤一郎(早稲田大学)

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