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バイオディーゼル植物の成長促進成功

バイオディーゼル原料植物の成長促進に成功
遺伝子融合によるモーターたんぱく質の高速化で実験

ポイント

  • 植物種子の油脂から生産されるバイオディーゼルは、化石燃料に代替する次世代の燃料として注目されている。
  • バイオディーセルの原料植物として注目されているカメリナにシロイヌナズナ由来の高速型ミオシンを異種発現させ、植物の成長促進や種子数を増加させることに成功した。
  • 種子の生産量が増えることでバイオディーゼルの生産や、さらに高速型ミオシンが植物増産技術として汎用性を持つことが示され、トウモロコシやイネなどさまざまな資源植物の増産が期待される。

科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業において、早稲田大学の段 中瑞 研究員と富永 基樹 准教授らの研究グループは、バイオディーゼルに有用な原料植物として期待されるカメリナ(Camelina sativa)で、シロイヌナズナ由来のたんぱく質(人工的に高速化を施したモーターたんぱく質)を異種発現させることにより、植物体の成長促進や種子数の増加に成功しました。

藻類から高等植物までのあらゆる植物の細胞では、小胞体やミトコンドリアなどの細胞小器官と共に細胞質が活発に動く原形質流動という現象が見られます。原形質流動は細胞小器官に結合したモーターたんぱく質注1)のミオシンXI注2)が、細胞骨格を構成するアクチン繊維の上を運動することによって発生することが知られています。これまでに研究グループは、高速型ミオシンの開発によりモデル植物であるシロイヌナズナの成長促進やサイズの大型化を明らかにしてきており、この技術のシロイヌナズナ以外の植物への応用が期待されていました。

今回研究グループは、カメリナにシロイヌナズナミオシンXI由来の高速型ミオシンXI遺伝子を異種発現させ、カメリナの茎や葉の成長が促進されるとともに、種子数も増加することを明らかにしました。

本成果により、高速型ミオシンXIはシロイヌナズナ以外の植物において、成長促進や種子の増産に有効であることが初めて示されました。また、近縁種であれば、異種の高速型ミオシンXI遺伝子を発現させることでも、増産効果が得られることが明らかとなりました。

本研究成果は、2020年6月16日(日本時間)に植物細胞分子生物学会誌「Plant Biotechnology」のオンライン版で公開されました。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発(ALCA)
研究領域:「生物資源の制御によるバイオマス・有用成分の増産」(運営総括:近藤 昭彦 神戸大学 教授)
研究開発課題名:「原形質流動の人工制御:植物バイオマス増産の基盤技術としての確立」
研究開発代表者:富永 基樹(早稲田大学 教育・総合科学学術院 准教授)
研究開発期間:平成26年10月~令和2年3月

あらゆる植物の細胞内では、原形質流動と呼ばれる細胞内輸送がみられます。シロイヌナズナで原形質流動を発生しているミオシンモーターを人工的に高速化したところ、植物の大型化が明らかとなりました。本研究課題では、ミオシンのさらなる高速化によりシステムとしての完成を進めるとともに、資源植物として有望視されているイネでの検証実験を行い、さまざまな植物バイオマス増産に適応可能な普遍的基盤技術としての確立を目指します。

研究の背景と経緯

植物を原料とするバイオ燃料は、光合成により大気中の二酸化炭素(CO2)を固定した光合成産物から作られるため、CO2の増加を伴わないクリーンなエネルギー源と考えられています。特に、植物種子の油脂から生産されるバイオディーゼルは、化石燃料に代替する次世代の燃料として注目されています。しかしながら、主原料となる菜種や大豆は食糧でもあるため、限られた耕作地での競合が懸念されています。乾燥した貧弱な土地でも育つカメリナは、作物と競合しない非食物系バイオディーゼルの原料植物として注目されており、種子の生産性の向上が望まれていました。

研究の内容

本研究グループは、種子から産出される油脂がバイオディーゼルの原料として利用され、過去にはジェット機を飛ばした実績のあるカメリナ(Camelina sativa)に着目しました。カメリナは、モデル植物であるシロイヌナズナと同じアブラナ科に属し、シロイヌナズナの遺伝子をそのままカメリナで発現させても機能することが知られています。

植物の細胞内では、モーターたんぱく質ミオシンXIがアクチン繊維上を運動することにより、原形質流動と呼ばれる活発な輸送が行われています(図1)。原形質流動はあらゆる植物で発生している現象なため、高速型ミオシンXIによる植物成長の促進は、いろいろな植物に応用可能なシステムであると期待されています。

本研究グループは、これまでにミオシンXIがエンジンであるモーター領域を回転させ、あたかも人が歩くように運動するタイプのモーターたんぱく質であることを明らかにし(図2)、さらに、シロイヌナズナミオシンXIのモーター領域(エンジン)を生物界最速である緑色藻類シャジクモ注3)ミオシンXIのモーター領域と遺伝子工学的に置換することで、高速型ミオシンXIを開発しています。開発した高速型ミオシンXIをモデル植物であるシロイヌナズナで発現させ、植物の大型化や成長促進にも成功しています(図3)。

今回、カメリナのミオシンXI遺伝子を使うのではなく、シロイヌナズナに使用したシャジクモ-シロイヌナズナ高速型キメラミオシンXI遺伝子をカメリナで異種発現させました。その結果、高速型シロイヌナズナミオシンXIを導入したカメリナは、背丈や葉の成長促進のみならず、早期花成を促し、種子の収量が野生株と比べて約2倍に増加することが明らかになりました(図4)。

今後の展開

高速型ミオシンXIの発現によってカメリナの種子数が増加したことから、単位面積あたりのバイオディーゼル原料の生産性の増強が期待できます。

今後、高速型ミオシンXIと、油脂合成や脂肪酸組成改変に関連する遺伝子を同時発現させることによって、より良質なカメリナオイルの増産を目指します。また、高速型ミオシンXIによる植物の成長促進が、モデル植物であるシロイヌナズナ以外でも有効なことが示されたため、トウモロコシやイネ、サトウキビ、ヤトロファなど資源植物の増産により、CO2の削減やバイオマスなど応用展開が期待されます。

付記

本研究は、千葉大学 大学院理学研究院 生物学研究部門の伊藤 光二教授と共同で行いました。

 

参考図

図1 植物細胞における原形質流動

図1 植物細胞における原形質流動

植物の細胞内では、細胞骨格たんぱく質であるアクチン繊維が張り巡らされている。細胞小器官に結合した植物ミオシンXIが、方向性を持ってアクチン繊維上を移動することにより、原形質流動と呼ばれる活発な細胞内輸送が発生している。

 

図2 植物ミオシンXIによる細胞小器官の輸送

図2 植物ミオシンXIによる細胞小器官の輸送

細胞小器官に結合したミオシンXIは、2つのモータードメインを交互に結合させることであたかも人が歩くようにアクチン繊維上を運動する。

 

図3 高速型ミオシンXIによるシロイヌナズナの大型化

図3 高速型ミオシンXIによるシロイヌナズナの大型化

原形質流動の速度を決めているミオシンXIの速度を、人工的に高速化したところ植物(シロイヌナズナ)のサイズが大型化することが明らかになった。

 

図4 高速型ミオシンXIによるカメリナの成長促進と種子数の増加

図4 高速型ミオシンXIによるカメリナの成長促進と種子数の増加

高速型シロイヌナズナミオシンXI-2の発現により、カメリナの成長促進や種子数の増加が明らかになった(スケールバー:10cm)。

用語解説

注1)モーターたんぱく質
ATPの加水分解によって化学エネルギーを運動に変換するたんぱく質のこと。アクチン上を動くミオシン、微小管上を動くキネシンやダイニンが知られている。

注2)ミオシン
モーターたんぱく質の一種。動植物を含めて約80クラスが見つかっており、植物には植物特異的なミオシンVIII(クラス8)とミオシンXI(クラス11)の2クラスが存在する。原形質流動は、ミオシンXIの運動により発生していることが知られている。

注3)シャジクモ
陸上植物の先祖にあたる淡水産の藻類。1つの細胞が10センチ以上に成長することもあり、その原形質流動は高等植物の10倍以上速い。原形質流動を発生しているシャジクモミオシンXIは、生物界最速のモーターたんぱく質として知られている。

<論文タイトル>

“Heterologous transformation of Camelina sativa with high-speed chimeric myosin XI-2 promotes plant growth and leads to increased seed yield”
(カメリナにおける高速型キメラミオシンXI-2の異種発現は植物成長や種子生産を増強させる)
DOI:10.5511/plantbiotechnology.20.0225b

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