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核家族を営むネズミの愛情形成遺伝子

社会性の発達を解明するためのハタネズミの実験リソース構築を開始

ハタネズミの家族生活

ハタネズミは北米大陸とユーラシア大陸に広く生息し、木の実、草、昆虫などを食物とし、成体の体長で10cm前後、体重は30〜60g程度の小型のネズミである。ユーラシアハタネズミ、アメリカハタネズミ、日本固有種のニホンハタネズミなど多数種が存在するが、その中でも米国中央部が原産のプレーリーハタネズミ(Prairie Vole)は、哺乳類には珍しい生活形態を持つことから、医学・生物学分野で注目されている。
プレーリーハタネズミは、一度つがいになるとそのペアは巣とナワバリを共有し、共に過ごすのを好み、ほぼ一生をパートナーと添い遂げるという、一夫一妻制の生活形態をとる 。雄個体に対する実験では、パートナーとそれ以外の雌個体を提示すると、雄個体はパートナーのほうに近寄って寄り添う様子も確認されている。またプレーリーハタネズミの親子生活にも特徴がある。通常のネズミは母親のみで子育てを行い、約1カ月程度で仔は親の元を離れていくが、プレーリーハタネズミの場合は父親も妻と同居しており、父として子育てに参加する。巣の防衛の役割も父が担う。子育て期間中に夫婦は次の子を生むことになるが、その時には、数週間前に生まれて少し成長した兄姉が、弟妹の子育てのサポートを行う。プレーリーハタネズミは、ネズミとしてはもちろん、哺乳類としても稀な核家族形態をとって生活している。

ハタネズミの「愛情形成」遺伝子

米エモリー大学のLarry Young博士のグループは1999年、遺伝子解析によりプレーリーハタネズミのV1aR遺伝子に、他のハタネズミとは異なる特徴(遺伝子多型)があることを発見した。プレーリーハタネズミのV1aR遺伝子を導入したマウスはパートナーを好むようになることも確認された。遺伝子一つの違いがプレーリーハタネズミの家族形態を生み出していると考えられる。人間の精神機能は、複雑で緻密に発達したヒト特有の高度な脳によってもたらされ、このようなネズミの遺伝子とは無関係だと思われがちだが、この遺伝子多型は霊長類にも共通する可能性がある。Young博士らは2005年には、一夫一妻制をとらないチンパンジーなどの霊長類は「非プレーリーハタネズミ型」であり、ヒトは「プレーリーハタネズミ型」であることも見出している。その後、2010年代になって、Young博士やスェーデン・カロリンスカ研究所の研究により、この遺伝子の別領域において、ヒトにもプレーリーハタネズミにも、パートナーへの絆の強さを反映する遺伝子多型があることも明らかとなった。

プレーリーハタネズミハタネズミの実験リソース構築

高度に発達したヒトの神経システムも、その形成・発達の原点となる分子機構にはネズミとの共通点が、我々が思っている以上に多いのかもしれない。実際に我々も、通常の実験動物であるマウスにおいて、発達期の社会的経験が成熟後の社会行動に大きな影響を及ぼすことを明らかにしている。

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プレーリーハタネズミやマウスの社会性、それを生み出す脳の構造と機能を調べることは、社会の中で成長する人間の「こころ」とは何かを解明する道につながるものと期待できる。
早稲田大学重点領域研究機構環境医科学研究所は、人間科学部の生命科学系と心理系を中心に、教育・理工学部とともに、人間関係(他個体との関係)を含めた環境と「こころ」の関係の理解を目的として研究を展開する組織である。そのミッションの一つとして、2016年にYoung博士のプレーリーハタネズミをもらい受け、その実験リソースを構築するために繁殖飼育を開始した。既に共同研究者や学内研究者への供給も可能な規模となっている。この取り組みは日本医療研究開発機構(AMED)脳科学研究推進プログラム「臨床と基礎研究の連携強化による精神・神経疾患の克服(融合脳)」の支援を受けることも決定した。
アリストテレスは、人間は単に群れをなすのではなく、目的を達成するために個体が集合しコミュニティー(ポリス)を形成すると述べている。今後、この研究リソースを活用することで、愛することや家族の生物学的基盤が解明され、家族やコミュニティーの中で成長し生活する人間の「こころ」とはなにかという謎の理解に繋がるだろう。同時に、その研究成果が、精神疾患の治療や、社会生活でのストレスなどの問題を解決する糸口が見つかることが期待される。

 

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