単層カーボンナノチューブの長尺化へ

単層カーボンナノチューブの成長にガドリニウム添加触媒の有効性を確認 長尺成長技術開発への一歩

発表のポイント

  • 単層カーボンナノチューブ(SWCNT)は優れた物性を持ち、様々な分野での応用が期待されているが長尺に成長させることが難しく実用化を妨げている。
  • 従来SWCNTを基板上に成長させるにはアルミナ(Al2O3)下地上の鉄(Fe)触媒が知られていたが、これにガドリニウム(Gd)を微量に添加することで性能が向上することを示した。
  • 最適なGdの添加量を求めると共に、触媒の化学結合状態を調べることでGdの役割とSWCNTの成長停止のメカニズムの理解を進めた。

早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構の杉目 恒志(すぎめ ひさし)次席研究員は、Istituto Officina dei Materiali (イタリア)と共同で、これまで単層カーボンナノチューブ(SWCNT)(※1)の成長に有効とされていたアルミナ(Al2O3)下地上の鉄(Fe)触媒にガドリニウム(Gd)を添加することで寿命が約3倍に伸びることを確認し、従来の性能を上回る触媒を開発しました。

SWCNTは軽量で強靭でありながら高い電気伝導性や熱伝導性を持つ素材として様々な応用が期待されています。枯渇の心配がない炭素で高機能なデバイスなどが実現できれば、持続可能な社会を実現する技術開発につながります。しかし、長尺化や効率よく成長させることが難しいことから、用途が限られることや高コストであることなどが問題となっています。長尺化できない大きな理由として成長の停止が挙げられ、これに成長中の触媒の構造変化が大きく関わっていることが分かっていました。

本研究では、多層カーボンナノチューブの成長で有効とされていたGdの添加が、SWCNTの成長にも有効であることを確認し、その最適値を求めると共に化学結合状態を調べることでそのメカニズムを明らかにしました。その結果、GdにはCNTの成長中に起こる触媒構造の変化を抑える効果があることが確認されました。今後、本研究で構築した理論をもとにさらに高性能な触媒開発と成長手法に応用することで、より効率的な長尺SWCNTの成長を可能とする手法の開発につなげ実用化を目指します。

本研究成果は、『ACS Nano』に2019年11月1日にオンライン掲載されました。

論文情報

(1)これまでの研究でわかっていたこと

単層カーボンナノチューブ(SWCNT)は炭素のみで構成され、軽量・強靭であり高い電気・熱伝導性をもつことから、様々な産業・医療分野での応用が期待されています。現在SWCNTを成長させるには化学気相成長(CVD)法(※2)が用いられることが多く、その際にナノ粒子触媒(※3)が必要です。基板上に触媒を担持し高密度にSWCNTを成長させる手法は長尺化が可能な手法として有力です。触媒としてはアルミナ(Al2O3)下地上の鉄(Fe)触媒が有効であるとされており、これを凌駕する触媒の組み合わせはおよそ15年間見つかっていませんでした。また成長が途中で停止してしまうことは知られていましたがそのメカニズムの理解と制御が重要な課題でした。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

本研究では単層カーボンナノチューブを成長させる触媒として、従来のFe/Al2O3を凌駕する触媒を開発することを目指し、比較的成長が容易な多層カーボンナノチューブの成長の際に有効とされていたガドリニウム(Gd)について調べました。その結果、Gdは触媒の寿命を最大で約3倍に伸ばす作用があることが分かりました。

(3)そのために新しく開発した手法

基板上に触媒をつけるスパッタ法(※4)に筆者らが開発したオリジナルのコンビナトリアル手法(※5)を適用することで、Gdの膜厚がSWCNTの成長に与える影響を広範囲にスクリーニングしました。その結果、Gdの最適膜厚は0.3 nmという原子1層以下程度であることが分かり、膜厚が大きすぎるとSWCNTの成長が阻害されることが分かりました(図1)。これによりGdはAl2O3のように下地として機能しておらず、異なる役割があることが分かりました。さらに大気中の酸素などによる影響を受けない特別なX線光電子分光法(※6)を用いることで、触媒の微細な化学結合状態の違いを検出しGdの役割を調べました。その結果、800℃で加熱し還元した際にGdがFeと結びつくことが観察され、これによってFeとCの相互作用が弱くなっていることが明らかになりました(図2)。

図1. (a) コンビナトリアル手法によるガドリニウム(Gd)の勾配をつけたサンプルの模式図。(b)コンビナトリアル手法によるサンプルのCNT成長後の写真。

図2. Gdを添加しない触媒と添加した触媒の還元後(SWCNT成長前)のX線光電子分光法による結果。(a) 鉄(Fe)のスペクトル、(b) 炭素(C)のスペクトル。

(4)研究の波及効果や社会的影響

SWCNTをより効率よく長尺に成長させることができれば、新たな用途の可能性が広がると共に大量生産によりコストが下がることなども期待できます。枯渇の心配がない炭素で強度材料や高機能なデバイスなどが実現できれば、持続可能な社会を実現する様々な技術開発につながります。

(5)今後の課題

今回の結果によって、横方向の触媒構造の変化を抑制することができましたが、それだけではCNTの成長停止を完全に防ぐことはできませんでした。CNTをより長尺に成長させるためには、下地への拡散を制御することが必要であると分かりました。今後更なる触媒や成長手法を開発することで、より実用的な成長手法を開発していくことが課題です。

(6)用語解説

  • ※1 カーボンナノチューブ

炭素のみからなる直径がナノメートルスケールのチューブ状の素材。軽量でありながら高い引張強度やしなやかさを持ち、強度材料や電子デバイスなど様々な応用が期待されている。層が1層の単層カーボンナノチューブ(Single-wall carbon nanotube, SWCNT)と層が複数の多層カーボンナノチューブ(Multi-wall carbon nanotube, MWCNT)がある。

  • ※2 化学気相成長法 (Chemical Vapor Deposition, CVD)

炭化水素やアルコールなどを原料とし、化学反応を利用してCNTなどを成長させる方法。比較的低温成長が可能な手法であり、長尺化や大量生産が可能である。CNTを成長させる際にはナノメートルスケールの触媒粒子が必要である。

  • ※3 ナノ粒子触媒

直径がナノメートルスケールの金属粒子で、CNTの成長には鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)などが用いられる。

  • ※4 スパッタ法

真空中でプラズマのエネルギーを利用して金属の薄膜を作製する技術。純度の高い金属薄膜やその化合物の薄膜を作製することが可能。CNTの成長にはナノメートルスケールの薄膜が必要である。

  • ※5 コンビナトリアル手法

スパッタ法の際にスリット上のマスクを設置することで、一枚の基板上に大きな膜厚分布を作製することが可能な手法。一度の実験で触媒膜厚の影響を効率よく調べることが可能である。

参考文献: S. Noda, H. Sugime, et al, “A simple combinatorial method to discover Co-Mo binary catalysts that grow vertically aligned single-walled carbon nanotubes,” Carbon 44, 1414, (2006).

  • ※6  X線光電子分光法

X線を用いて電子の結合エネルギーを測定することで、元素の化学結合状態を調べる手法。作製後(還元後)のサンプルを大気中で搬送するとサンプル表面が酸化されてしまうが、本研究では真空搬送が可能な装置を用いた。

(7)研究助成

Page Top
WASEDA University

早稲田大学オフィシャルサイト(https://www.waseda.jp/top/)は、以下のWebブラウザでご覧いただくことを推奨いたします。

推奨環境以外でのご利用や、推奨環境であっても設定によっては、ご利用できない場合や正しく表示されない場合がございます。より快適にご利用いただくため、お使いのブラウザを最新版に更新してご覧ください。

このままご覧いただく方は、「このまま進む」ボタンをクリックし、次ページに進んでください。

このまま進む

対応ブラウザについて

閉じる