東アジア文化圏と村上春樹──越境する文学、危機の中の可能性── 総合人文科学研究センター主催 国際シンポジウム

作家・村上春樹氏(1975年・一文卒)のエッセイをきっかけに、領土問題など国家間の紛争で危機を迎えている日本、中国、韓国などの文化交流について考える国際シンポジウム「東アジア文化圏と村上春樹-越境する文学、危機の中の可能性-」(早稲田大学総合人文科学研究センター主催)が14日、国際会議場井深大記念ホールで行われました。

経緯

2012年9月尖閣諸島の国有化をきっかけに日中関係の紛争が過熱したとき、村上春樹氏は新聞に「魂が行き来する道筋を塞いでしまってはならない」(朝日新聞9月28日付)というエッセイを投稿しました。音楽や文学や映画やテレビ番組が多くの人々に受け入れられ、楽しまれているという東アジア共通の文化圏が生まれており、それが危機に瀕しているという趣旨でした。シンポジウムには、このエッセイで示された危機感を共有する日本、中国、韓国、アメリカの8名の文学研究者・作家が集い、講演とパネルディスカッションで活発に意見を交わしました。

講演内容(一部抜粋)

千野拓政 早稲田大学文学学術院教授「東アジア文化圏とは何か?-若者の見る村上春樹とサブカルチャー-」

アジアの若者には明らかにこれまでとは異なる共通の感覚、文化が生まれている。村上文学には登場人物の『孤独』や『閉塞感』に共鳴し『癒し』や『救い』を感じるという読者が非常に多く、愛好者どうしのコミュニケーションが盛んなのもこれまでにない特徴。また、冷戦終結からグローバリゼーションへと移り変わる時代における村上作品の受容とサブカルチャーの浸透には共通点がある。

閻連科 中国人民大学文学院教授・作家「中国における著作活動の特殊性」

村上作品は中国文化に影響を与えるまでの存在ではなく、本格的な研究も少ない。東アジアに深層文化のプラットホームはまだ形成されておらず真の文化圏の構築にはより深いレベルが必要であるが、村上作品は東アジア文化圏形成の一歩にはなるだろう。

施小煒 上海杉達大学教授・日本文化研究所所長「インターネットで見る中国における村上春樹『1Q84』の受容」

中国での書籍販売ルートとしてのインターネット通販サイトが普及している。中国のインターネットにおける村上理解については、個人ブログや書評サイト、ネット書籍オンライン販売の大手三社のカスタマーレビュー欄において発表された『1Q84』読後感や批評などを見てみると、中国における村上春樹受容が明らかになってくる。

加藤典洋 早稲田大学国際学術院教授・文芸評論家「六十八年後の村上春樹と東アジア」

戦争・敗戦との結びつき、戦後との切断の中で「合鍵」、「マスターキー」としてハルキがいる。中国メディア特派員が「村上以前に、領土問題について率直な意見を明らかにする著名作家がほとんどいなかった」という発言をしたが、新鮮なことではなくともこれは大事だということ、目新しくない大事なことを人々の耳に届くように語ることが大切なことと言える。

尹相仁 ソウル大学校人文大学アジア言語文明学部教授「村上春樹と東アジアの間を往還するもの」

『ノルウェイの森』の成功から、「ハルキシンドローム」という流行語が出来た一方で、「童顔のハルキ」という批判的な表現がある。東アジアにおけるハルキ小説の評価をめぐる一般読者と評論家・作家たちの間の温度差が見える。アジアは現在「文化」ではなく「マーケット」としてのみ繋がっている。

マイケル・エメリック カリフォルニア大学ロスアンゼルス校アジア言語文明学部教授「村上春樹、東アジア、世界文学」

東アジア文化圏はアジアの内部だけで成立するものではなく、アジア以外の外側の地域からも考えられるべき。また、翻訳された“Haruki Murakami”としての作品は原文の内容が一部削られたり刊行順に違いがあるなど、原作とははっきりと区別されるものである。

131220_haruki2

シンポジウムのようす

パネルディスカッション「あらたな村上春樹」

モデレーター:松家仁之慶應義塾大学総合政策学部特別招聘教授 松永美穂早稲田大学文学学術院教授

パネリスト:千野拓政氏、閻連科氏、施小煒氏、加藤典洋氏、尹相仁氏、マイケル・エメリック氏

 

総合人文科学研究センター

Page Top
WASEDA University

早稲田大学オフィシャルサイト(https://www.waseda.jp/top/)は、以下のWebブラウザでご覧いただくことを推奨いたします。

推奨環境以外でのご利用や、推奨環境であっても設定によっては、ご利用できない場合や正しく表示されない場合がございます。より快適にご利用いただくため、お使いのブラウザを最新版に更新してご覧ください。

このままご覧いただく方は、「このまま進む」ボタンをクリックし、次ページに進んでください。

このまま進む

対応ブラウザについて

閉じる