(アルファベット+絵) × 音の聞き比べ = 日本人の英語学習促進 早大・東大共同研究、学校での指導効果向上に寄与

早稲田大学理工学術院英語教育センターのエマニュエル・マナロ(Emmanuel Manalo)教授、東京大学教育学研究科の植阪友理助教、東京大学教育学研究科博士課程の関谷弘毅氏による共同研究で、絵を用いた記憶方略を活用するという方法と、日本語と英語の音の違いを意識化させて聞き比べるという方法を組み合わせることにより、ともにアルファベットの音の学習を促進することを小学生への実験によって明らかにしました。

日本において英語の学習効果をあげることはここ20年間にわたって政府が継続的に掲げてきた目標です。しかし、日本の英語のスキルは、他の国に比べて必ずしも高くない状況が続いています。このため、指導法の研究が極めて重要となっています。本研究において検討したような指導法は、子どもが学校において英語を学ぶ際の効果を高めるために重要であると考えられます。

この研究はJournal of Applied Research in Memory and Cognition (JARMAC)に掲載されています。

研究概要:絵を用いた記憶方略と音の違いの意識化がアルファベット音の学習に及ぼす促進効果

早稲田大学理工学術院英語教育センターのエマニュエル・マナロ教授、東京大学教育学研究科の植阪友理助教、東京大学教育学研究科博士課程の関谷弘毅さんが最近行った研究では、絵を用いた記憶方略を活用するという方法と、日本語と英語の音の違いを意識化させるという方法が、ともにアルファベットの音の学習を促進することを明らかにしています。

131210_alphabet1

今回用いた記憶方略では、アルファベットそのものの形と、その文字で始まる日本語の単語イメージを結びつけています。例えば、左に挙げたbの例では「ブラシ」のイメージと、dの例では「電話」のイメージと関連づけています。こうした関連づけでは、アルファベットの文字の形が、物のイメージ(ここではブラシ)を思い出すのを助け、さらに文字の音(ここでは/b/)を思い出すことを助けることになります。

一方、英語と日本語の音の違いを意識化させる介入では、外来語なども素材として取り入れながら、アルファベットの音素と日本語の音の違いを強調して指導しました。例えば、「フラワー」という外来語を日本語として発音する場合には、冒頭の音が“fu”と発音され、fという音素のあとに母音が挿入されます。一方、実際の英語では“f”という音で発音され、日本語とは違って母音が挿入されません。英語と日本語の音の違いを意識化させる介入では、例えば、日本語の発音のフラワーの「フ」の音と英語のflowerの/f/の音を聞き比べさせるなどを行い、両者の違いを確認した後で、発音練習を行いました。

本研究の背景

英語における読みを獲得することは、英語を母語とする子どもにとっても容易ではありません。ましてや、英語を母語としない日本の子どもなどではより困難となります。特に、日本語の場合には、文字の名前と発音が一致しています(例えば、日本語では「ね」という文字は、「ね」と発音されます)が、英語の場合には、文字の名前と発音が一致していません(例えば、英語では“n”という文字は、enと読みますが、/n/と発音されます)。また、日本語の子どもがアルファベットの音の学習が難しいもう一つの理由として、英語は音素を基本とするのに対して、日本語は、基本的には母音と子音からなるモーラを単位としていることも挙げられます。こうした言語構造を意識化することによって、より一層、英語のアルファベット音の獲得が促進されると考えられました。

131210_alphabet2

また、絵がついたアルファベト表に代表されるように、絵と文字を結びつけるという工夫は英語学習における代表的な工夫であり、決して新しいものではありません。しかし、一般的に使われているもの(左の図のリンゴの例のようなもの)では、効果が薄いと考えられます。なぜならば、文字と絵がばらばらに呈示されており、文字の形と物のイメージが思い出すための手がかりになっていないからです。また、右の図アヒルとdの例のように、図と文字を結びつけるような工夫がされている場合であっても、英語の単語(duck)が用いられた場合には、子どもは必ずしも英語の単語を知らないので、効果が薄いと考えられます。そこで、文字の形と日本語の単語を結びつけるような工夫が導入されました。

方法

この研究には、140名の小学校6年生が参加しました。参加した児童は、アルファベットの発音については十分に知識がないものも、アルファベットの名前については知っている状態でした。すなわち、/ef/=F,/em/=Mのように、アルファベットの名前から正しいアルファベットを探すことはできますが、/f/, /M/といったアルファベットの発音を聞いただけでは、正しく選べない状態でした。そこで記憶の方略と教示する群としない群、音の比較をする群としない群と4群のいずれかに条件で指導を受けました。取り上げた音素は、12個の子音です。指導は45分授業2コマで、通常授業の中で行われました。すべての子どもが、同じ時間の指導、同じ音と文字の組み合わせを学習し、記憶の方略を指導されたか否かもしくは、日本語の音との違いを明示的にしているのかだけが、各条件で異なっていました。子ども達は指導の前後に、文字の名前や音が聞き分けられるかを調べるテストにも参加しています。

結果

全体として、指導をうけたすべての学習者において、アルファベットの音の学習が促進していたことが示されました。ただし、中でも記憶の方略の指導を受けた群と、音の明示的な比較を行った群では、それに応じた一層の学習効果が見られたことが示されました(平均と標準偏差については、以下の表を参照してください)。こうした効果は統計的にも確認されています。

131210_alphabet3

 

本研究の意義

日本において英語の学習効果をあげることはここ20年間にわたって政府が継続的に掲げてきた目標です。しかし、日本の英語のスキルは、他の国に比べて必ずしも高くない状況が続いています。鎌田薫早稲田大学総長を座長とする教育再生実行会議においても、小学校段階から英語教育を初めて英語力を早急に高める必要性があることが強調されています。このため、指導法の研究が極めて重要となっています。本研究において検討したような指導法は、子どもが学校において英語を学ぶ際の効果を高めるために重要であると考えられます。

出典

この研究はすでにJournal of Applied Research in Memory and Cognition (JARMAC)に掲載されており、オンラインからご覧になることが出できます。また、書誌情報は以下の通りです。Manalo, E., Uesaka, Y., & Sekitani, K. (2013). Using mnemonic images and explicit sound contrasting to h
elp Japanese children learn English alphabet sounds. Journal of Applied Research in Memory and Cognition, 2,216–221.

エマニュエル・マナロ教授のサイト

Page Top
WASEDA University

早稲田大学オフィシャルサイト(https://www.waseda.jp/top/)は、以下のWebブラウザでご覧いただくことを推奨いたします。

推奨環境以外でのご利用や、推奨環境であっても設定によっては、ご利用できない場合や正しく表示されない場合がございます。より快適にご利用いただくため、お使いのブラウザを最新版に更新してご覧ください。

このままご覧いただく方は、「このまま進む」ボタンをクリックし、次ページに進んでください。

このまま進む

対応ブラウザについて

閉じる