リアルタイムな都市浸水予測が可能に

本年6月末までに試行運用開始を目指す

発表のポイント

  • 地球規模での気候変動の影響が顕著化してきており、未曾有の豪雨が発生すれば東京でも深刻な浸水の発生は避けられない状況となってきている
  • そこで、本研究では東京都23区で発生する都市浸水をリアルタイムで予測するシステムを開発し、社会実装を可能とした
  • 東京都23区を対象に、本年6月末までに文部科学省のDIAS(データ統合・解析システム)※1上で試行運用を開始する予定

概要

早稲田大学理工学術院の関根正人(せきねまさと)教授東京大学地球観測データ統融合連携研究機構の喜連川優(きつれがわまさる)教授・生駒栄司(いこまえいじ)特任准教授と山本昭夫(やまもとあきお)特任助教、および一般財団法人 リモート・センシング技術センターの研究グループは、東京都23区で発生する都市浸水をリアルタイムで予測するシステムを開発し、社会実装を可能としました。

本研究成果の一部は、文部科学省委託事業「地球環境情報プラットフォーム構築推進プログラム」の支援を受け、データ統合・解析システム(DIAS)を利用して得られたものです。

(1)これまでの研究で分かっていたこと

都市河川の洪水予測などに関連する計算技術はこれまでにもありましたが、東京都23区の地上・下水道・都市河川といった都市内の雨水の流れを力学原理に基づき一体的に計算し、その結果として浸水を予測しようとする手法はありませんでした。最近になって、従来の計算技術の範囲内で都市の浸水を計算しようという取り組みがなされるようになりましたが、本研究の取り組みとは異なります。たとえば、現実とは異なる雨水の取り扱い方をしていたり、モデルと割り切って厳密性を追求することなく、導入したパラメータをチューニングすることにより妥当な結果が得られるようにしたりするなど、簡便に概略値を捉える計算手法に留まっていました。これに対して、本研究では限りなく工学的に十分に信頼がおけて、かつ長期的な使用に耐える手法の構築を目指しました。

一方、近年それぞれのエリアの浸水リスクをできるだけ早く住民に伝えることが喫緊の課題と認識されるようになり、従来の技術の範囲内で計算され作成された「浸水ハザードマップ」や「洪水ハザードマップ」が公表されています。ところが、既存の浸水情報の多くは、静止画として示された予想浸水深がどの程度確かなものであるかが定かにされず、信頼性の議論を傍らにおいて速報性ばかりが優先されてきました。そこで、より信頼性の高い浸水情報を、住民にわかりやすく届けることが重要になってきたと考えています。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

東京都23区がこれまでにない規模の豪雨に襲われたときに、どのような規模の浸水が発生するのか、浸水が深刻化するプロセスとはどのようなものか、事前にどのような対策を講じておけばどの程度まで被害軽減が図れるのか、という問いに対して、本研究では最新の技術を駆使して予測した結果を踏まえた答えを提示することを目標としました。

本研究に取り組むにあたって、豪雨による被害軽減を実現するために達成すべきこととして次の二つを設定しました。一つは、平常時に生活範囲に潜んでいる浸水の危険性を住民自らが的確に理解できるような画像情報を提示できるようになること。もう一つは、豪雨時に迫りくる浸水の状況を住民に事前に伝えるシステムを構築すること。これら二つへの住民による認知が高まり、自ら活用できるようになることによって豪雨被害軽減が実現できると考えました。

(3)そのために新しく開発した手法

研究の第一段階として、早稲田大学の関根教授が、東京に代表される高度に都市化されたエリアを対象に、「都市浸水」の発生とこれが深刻化するプロセスを水の流れを支配する力学原理のみに基づいて精緻に予測する手法を開発しました。本研究は2000年から長期にわたって取り組んでおり、完成した手法を「S-uiPS(スイプス)」(Sekine’s urban inundation Prediction System)と名づけました。S-uiPSを用いた数値予測を行う上で重要となるのは、対象エリア内に既に整備されている都市のあり様、言い換えれば最新の都市基盤に関わるすべての情報を省略することなく考慮に入れることです。具体的には、「道路・下水道ならびに都市河川」のネットワークとその関連付帯施設についての現状を忠実にとらえることのできるデータと、都市の土地利用状況ならびに「都市街区に立てられている建物」などに関わる情報である「建ぺい率・容積率」などのデータがこれにあたります。河川の付帯施設としては地下調節地に代表される貯水施設や、下水道のポンプ場・水再生センターなどが挙げられます。S-uiPSの開発が本研究の第一段階にあたります。

次に、第二段階としてS-uiPSの計算コードを高速化し、リアルタイムでの浸水予測が可能となるように取り組みました。リアルタイム浸水予測には、入力情報として降雨データが必要となります。降雨データは次に挙げる二つのデータを使用します。一つは国土交通省による「XRAIN※2」であり、これは約250mメッシュの空間分解能力をもち、一分毎に得られた観測雨量として提供されるものです。もう一つは、気象庁による「高解像降水ナウキャスト※3」の降雨予報データです。気象庁によれば、降雨予報には精度上の限界があり、本予測システムにふさわしい精度を有するのは30分先くらいまでであるようです。そこで、30分先までの降雨予報の結果を入力値としたリアルタイム浸水予測の実現を目指します。この予測システムの実現のためには並列計算による計算の高速化が不可欠であったため、東京大学喜連川研究室の山本特任助教が中心となって取り組みました。また、予測計算の結果は早稲田大学関根研究室で開発された画像化の技術により動画情報として表示・配信することにしました。この計算には膨大なデータの高速処理が必要であることから、東京大学生駒特任准教授が中心となって取り組み、このシステムを文部科学省のデータ統合・解析システムDIAS(Data Integration & Analysis System)のリアルタイム・データ利活用プラットフォーム基盤上で実現することにしました。

2005年杉並豪雨を対象としてS-uiPSにより計算された東京都23区の浸水深マップ

(4)研究の波及効果や社会的影響

リアルタイムで浸水を予測するシステムは、まず東京都23区を対象に、本年6月末までには試行運用を開始する予定です。その後、一年の準備を経て2020年夏の東京オリンピック・パラリンピックまでには、十分な精度を有する浸水情報を継続的に提供できるような安定した運用を目指し、システムの社会実装を進めます。

S-uiPSによるリアルタイム浸水予測は、豪雨時の都市生活を大きく変え、被害軽減を実現する上で大きな波及効果があると考えています。豪雨時に懸念される都市固有の被害として危険度が高いのは「地下空間」と「道路アンダーパス」です。前者については、地下への入口に止水板を設置する、あるいは防水扉を閉めるといった対策がとられることになりますが、これを設置するタイミングを見極めるのはとても難しいと考えられてきました。万一、設置が遅れると地下浸水が引き起こされることになり、人命にかかわる被害が発生する可能性があります。アンダーパスについても、いつ通行止めにするのかという判断がきわめて重要です。道路渋滞が深刻化すると自動車が占有する体積の分だけ浸水深が増大する結果になるため、豪雨時にも渋滞を回避することが望ましいと言えます。また、豪雨時であっても急病人を病院に運ぶ必要があり、消防車は火事の現場に駆けつける必要があります。現時点の浸水状況を正確に知ることができ、さらに30分先の状況を予測できれば、的確なタイミングでの対処が可能となり、自動車の最適な経路選択も容易になります。物流についても同様のことが言えます。このようにリアルタイム浸水予測が社会実装され活用が進むと、都市内のどこでいつどの程度の浸水が発生するかがわかるようになるため、豪雨予報によりもたらされるものよりも具体的な形で浸水の危険を察知して安全を確保できるようになると期待されます。

さらに、東京では2020年にオリンピック・パラリンピックが開催されます。雨が多い時期に世界中から観戦客や観光客が集まることになります。この予測システムの社会実装は、彼らに対する安全上の「おもてなし」となり、スムーズな大会運営のため有効に活用されることを期待しています。

(5)今後の展開

予測精度に関しては、今後も可能な限りの検証を続けていきます。計算の信頼性と情報の速報性がともに重要であるためです。また、情報の受け手となるのは、たとえば鉄道などのインフラの管理者であり、住民一人ひとりということになるため、一目見て浸水の危険が察知できるように画像のわかりやすさをさらに追求していきます。

東京都23区以外の都市でも、都市インフラの情報をまとめたデータベースを作れば、予測手法S-uiPSを適用することが可能です。実態に合わせて設定しなければいけないパラメータがひとつもないため、将来未曾有の豪雨が発生したときの予測も同じ精度で可能となります。そのため、この手法が他都市に展開されれば、国内外の大都市で発生する浸水被害の軽減にも有効です。

(6)用語解説

※1 DIAS

データ統合・解析システム(DIAS)は、1980年代に東京大学生産技術研究所高木幹雄教授が中心となり開発を開始した地球環境データレポジトリから始まり、数多くのプロジェクトの支援を受けながら発展を続けてきました。2006年度から国家基幹技術 海洋地球観測探索システム「データ統合・解析システム」として第Ⅰ期プロジェクトを開始し、2010年度にはプロトタイプが開発されました。これにより、世界で初めて多種多様かつ大容量な地球観測データ、気候変動予測データ等を統合的に組み合わせ、水循環や農業等の分野における気候変動の影響評価や適応策立案に資する科学的情報を提供するプラットフォームが実現しました。2011年度からは「地球環境情報統融合プログラム(DIAS‐P)」と名称を変更し、第Ⅱ期としてDIASを社会的、公共的インフラとして実用化するための更なる高度化、拡張が実施されました。2016年度からは文部科学省委託事業「地球環境情報プラットフォーム構築推進プログラム」として第Ⅲ期が開始され、気候変動適応・緩和等さまざまな社会課題の解決に貢献するアプリケーションの稼働とサービス提供を目指した、長期的安定的な社会基盤としてのシステム構築および運用が開始されています。

※2 XRAIN

国土交通省が運用する高性能気象レーダによるリアルタイム雨量観測システムのことを指し、eXtended RAdar Information Networkの略称がXRAINです。2010年に試験運用が始まり、今日に到っています。Xバンドのマルチパラメータ・レーダによる雨量観測によれば、これまでのCバンドレーダに比べて高分解能な観測が可能となります。具体的には、空間的におよそ250m毎、時間的には1分毎の降雨値を精度よく知ることができます。

※3 高解像降水ナウキャスト

2014年度に運用が開始された「気象庁による雨量予報システム」のことを指します。これには気象庁などが有する全国の雨量計や上記のXRAINなどのデータが活用されており、これを踏まえて行われる降雨予報ということになります。これによると、30分先までは250m四方を一つの単位として5分毎の予報雨量を知ることができます。ただし、30分を超え60分先までは従来通り1km2毎の予報値となり、精度が低下することになります。

(7)論文情報

雑誌名:土木学会論文集B1(水工学)、Vol.67、No.2
論文名:住宅密集地域を抱える東京都心部を対象とした集中豪雨による内水氾濫に関する数値解析
執筆者名(所属機関名):関根正人(早稲田大学)
掲載年:2011年

雑誌名:土木学会論文集B1(水工学)、Vol.70、No.4
論文名:XバンドMPレーダによる降雨データを用いたリアルタイム浸水予測に向けた試み
執筆者名(所属機関名):関根正人・浅井晃一・古木雄(早稲田大学)
掲載年:2014年

雑誌名:土木学会論文集B1(水工学)、Vol.72、No.4
論文名:石神井川流域を対象とした豪雨時の内水氾濫と河川洪水流の一体予測計算
執筆者名(所属機関名):関根正人・近藤恭平・神山宙大・小林香野(早稲田大学)
掲載年:2016年

雑誌名:土木学会論文集B1(水工学)、Vol.73、No.4
論文名:森ヶ崎処理区を対象とした2013年7月23日豪雨時の都市浸水の再現計算とその精度検証
執筆者名(所属機関名):関根正人・中森奈波・児玉香織・斎藤涼太(早稲田大学)
掲載年:2017年

雑誌名:土木学会論文集B1(水工学)、Vol.74、No.4
論文名:東京都23区を対象とした豪雨時浸水リスク評価とアンダーパスの冠水事前予測
執筆者名(所属機関名):関根正人・児玉香織(早稲田大学)
掲載年:2018年

雑誌名:土木学会論文集B1(水工学)、Vol.74、No.5
論文名:高潮により引き起こされる東京都23区の浸水被害拡大プロセス
執筆者名(所属機関名):関根正人・小方公美子(早稲田大学)
掲載年:2018年

(8)研究助成

研究費名:文部科学省 地球環境情報プラットフォーム構築推進プログラム基幹アプリケーションFS
研究課題名:精緻な浸水予測手法を基礎とした東京都23区の豪雨時リアルタイム浸水予測システムの実用化に向けたフィジビリティスタディ
研究代表者名(所属機関名):関根正人(早稲田大学)

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WASEDA University

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