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低分子化合物で植物時計の仕組み発見

発表のポイント

  • 植物の概日リズムを延長する低分子化合物を発見しました。
  • 植物時計の延長を促すタンパク質とその機能を、世界で初めて明らかにしました。
  • 花成時期調節を目指した化合物(植物調整剤)の開発へ向けた取り組みが加速すると期待されます。

概要

早稲田大学理工学術院の山口潤一郎(やまぐちじゅんいちろう)教授らは、名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)の中道範人(なかみちのりひと)准教授らと共同で、低分子化合物を使って植物時計に関わる新たなタンパク質とその働きを発見しました。今回の低分子化合物の発見により、将来的な地球環境変動に対する適応策の一環である花成時期調節を目指した化合物(植物調整剤)の開発へ向けた取り組みが加速すると期待されます。

本研究成果は米国アカデミー紀要『Proceeding of the National Academy of Sciences』に2019年5月16日(米国現地時間)にオンライン掲載されました。

(1)これまでの研究で分かっていたこと

概日時計は地球上の多くの生物に認められる約24時間の周期を創りだす遺伝的に組込まれたシステムです。植物は概日時計の働きにより、1日のうちで最適な時刻に適切な生理反応を行います。オジギソウの日周期的な就眠運動や、多くの草本植物の開花する時間などは良く知られた「時計に依存した」生理応答です。多くの植物は特定の季節に花を咲かせますが、その現象の背景にある日長測定のための体内時間情報の基礎として概日時計は働いています。特定の季節に花芽を形成するための日長測定を、概日時計が生み出す体内時刻を基礎として使っています。時計機構の変異による花成時期の変化の事例が多くの植物種で報告されてきました。概日時計は複数の時計関連タンパク質の相互の転写制御によって成り立つとされますが、その理解は未だ不完全です。 その理由の1つとして、多くの植物は遺伝的冗長性の高い遺伝子群を持ち、このような冗長性遺伝子群を見出す方法が限られていたからです。したがって、植物時計システムの完全解明のために、冗長性遺伝子群をみつけだす新しい方法が望まれていました。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

早稲田大学の山口潤一郎教授名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)の中道範人准教授と共同で、植物の時計の仕組みを理解するために「化学・生物学の融合研究」を行いました。すなわち、時計周期に関わる化合物を探索し、それを指標として時計の仕組みを理解しようとしました。

まず、中道准教授らは数万の化合物ライブラリーからのスクリーニングによって、植物(シロイヌナズナ)の時計周期を延長する低分子化合物を見出しました。その中で、見いだした化合物の1つがPHA767491(以下PHA)※1です(図1)。

図1. PHAの構造(左)と概日時計周期の延長効果:約24時間の概日時計周期(青字トレース)を約3〜4時間ほど延長させる

そこで、山口教授らはPHAの構造活性相関研究※2を行い、どの部分が活性発現に重要であるか確かめました。次に、その標的となるタンパク質を決定するため、PHAに活性発現に重要な部分を残した分子プローブ※3を合成し、それを用いてタンパク質を解析しました(図2)。

図2. 分子プローブ(左)と標的タンパク質の決定の流れ(右)

その結果、標的タンパク質の決定に成功し、その後の生化学的研究によりこれまで遺伝的重複性が要因となって隠されてきた時計のメカニズムを発見しました。以下にまとめます。

  1. シロイヌナズナのカゼインキナーゼI (CK1)ファミリーが標的タンパク質であった
  2. CK1をコードする遺伝子はシロイヌナズナには少なくとも13遺伝子座あり、 これらの遺伝子群の発現を一度にノックダウンすると時計周期が延長した
  3. CK1は植物時計にユニークな時計関連転写因子(PRR5とTOC1)をリン酸化修飾することで、その分解を制御することが示唆された

(3)そのために新しく開発した手法

時計延長活性をハイスループットスクリーニングで評価できる手法と、化学合成による多数の類似したPHA誘導体の開発、分子プローブの人工合成です。

(4)研究の波及効果や社会的影響

本研究では、活性のある低分子化合物の探索および分子プローブの活用により、これまで遺伝的重複性が要因となって隠されてきた時計のメカニズムを発見しました。 また多くの穀物で、時計およびその下流を標的とした品種が開花期の調節のために選抜されています。したがって今回の低分子化合物の発見により、将来的な地球環境変動に対する適応策の一環である花成時期調節を目指した化合物(植物調整剤)の開発へ向けた取り組みが加速すると期待されます。

(5)今後の課題

本研究は、植物に活性のある低分子化合物の標的を分子プローブの合成/利用により発見した世界で初めての例です。類似の研究は医薬品リード化合物の探索や、動物の時計タンパク質の解明研究ではみられますが、植物ではありません。細胞レベルで取り扱える研究ではなく、植物という不安定な対象をもちいなければならないからです。実際、研究を始めてからこの結果が得られるまで5年以上の月日がかかりました。今回化学・生物学の融合研究により本手法を確立したことにより、今後は未解明の植物時計のメカニズムが解決できると考えています。

また、多くの穀物で、時計およびその下流を標的とした品種が開花期の調節のために選抜されてきていることを踏まえると、今回の低分子化合物の発見により、将来的な地球環境変動に対する適応策の一環である花成時期調節を目指した低分子化合物の開発へ向けた取り組みを加速すると期待されます。なお、同共同グループ(齊藤 杏実早大修士課程2年・山口・中道ら)はPHAのさらなる構造変換により、植物に対する強力な新規CK1阻害剤(AMI-331 Hydrochloride)の開発に成功しており、近日中に論文として公表され、試薬会社から発売される予定です(東京化成工業 試薬番号:A3352)。

(6)用語解説

※1 PHA767491

動物のCDK7(cyclin dependent kinase 7)の阻害剤として知られていた化合物。今回の発見により植物CK1阻害剤のリード化合物となった

※2 構造活性相関研究

化合物の構造を化学合成によって改変し、化学構造のどの部位が活性発現に重要であるか、特に必要でないかを確認するための研究

※3 分子プローブ

活性をある程度保持した分子を担体(アガロースビーズ)に共有結合させてつくる。プルダウンアッセイに用いる。プルダウンアッセイはよく魚釣りに例えられることがあるが、分子プローブは「魚」(標的タンパク質)を釣るための「釣り竿」的な存在である。

(7)論文情報

雑誌名:Proceeding of the National Academy of Sciences(米国アカデミー紀要)
論文名:Casein kinase 1 family regulates PRR5 and TOC1 in the Arabidopsis circadian clock
(シロイヌナズナの概日時計においてCasein kinase 1はPRR5とTOC1を制御する)
執筆者名(所属機関名):Takahiro N Uehara, Yoshiyuki Mizutani, Keiko Kuwata, Tsuyoshi Hirota, Ayato Sato, Junya Mizoi, Saori Takao, Hiromi Matsuo, Takamasa Suzuki, Shogo Ito, Ami N Saito, Taeko Nishiwaki-Ohkawa, Kazuka Yamaguchi-Shinozaki, Takashi Yoshimura, Steve Kay, Kenichiro Itami, Toshinori Kinoshita, Junichiro Yamaguchi, Norihito Nakamichi.
(上原 貴大、水谷 佳幸、桑田 啓子、廣田 毅、佐藤 綾人、溝井 順也、高尾 早織、松尾 宏美、鈴木 孝征、伊藤 照悟、齊藤 杏実、大川(西脇)妙子、篠崎(山口)和子、吉村 崇、Steve Kay、伊丹 健一郎、木下 俊則、山口 潤一郎*、中道 範人*(*責任著者))
掲載日(米国現地時間):2019年5月16日
掲載URL:https://www.pnas.org/content/early/2019/05/14/1903357116
DOI:

(8)研究助成

研究代表者:中道 範人
科研費基盤B(18H02136)
科研費萌芽研究(17K19229)
新学術領域「環境記憶統合」(15H05956)
JST さきがけ研究 (JPMJPR11B9)
鳥取大学乾燥地研究センター共同研究(28D2001)
豊秋奨学会研究費助成

研究代表者:山口潤一郎
新学術領域「中分子戦略」(16H01140, 18H04428)
内藤記念科学奨励金助成

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