2013年度 大学院入学式 鎌田薫総長による式辞

皆さん、ご入学おめでとうございます。

早稲田大学を代表いたしまして、新入生の皆様およびご家族・ご関係の皆様に、心よりお祝いを申し上げます。

このたび晴れて早稲田大学大学院に入学されたのは、修士課程2,307名、専門職学位課程738名、博士後期課程341名、合計3,386名に上ります。このほか、昨年9月には、修士課程406名、博士後期課程100名の院生が入学していることを申し添えます。

国内はもとより、世界のさまざまな地域から選りすぐられた、研究心に燃える精鋭を数多くお迎えできたことは、本学にとっても大きな喜びであり、また、大いに誇りとするところでもあります。

近年、本学における大学院進学者は急速に増加して参りました。本年4月入学者は、昨年4月入学者に比べて、専門職学位課程は6研究科合計で42名、博士後期課程は17研究科合計で15名、それぞれ入学者が微減していますが、修士課程入学者が、今年度新たに設置した国際コミュニケーション研究科入学者54名を含めて、18研究科合計で111名増加したことによって、入学者総数では54名増加という結果となっています。

このように、大学院進学者が増加してきた背景には、今日の社会は、新しい知識・情報・技術が政治・経済・文化をはじめ社会のあらゆる領域での活動の基盤として飛躍的に重要性を増す「知識基盤社会」となっており、個人の人格形成の上でも、社会・経済・文化の発展・振興や国際競争力の確保等の国家戦略の上においても、大学院が極めて重要な役割を果たしているという事情があります。にもかかわらず、諸外国と比較すると、人口10万人あたりの修士号取得者は英国の5分の1、博士号取得者でも半分以下であり、特に企業の研究者に占める博士号取得者の割合では、オーストリアやベルギーの4分の1に止まり、台湾やトルコの後塵を拝していますし、社会人がより高度な専門的能力を涵養するための学び直しの機会も限られており、それらの大幅な増加が求められています。

こうした事情を背景として、国は、大学院教育の充実に向けて「グローバルCOEプログラム」、「組織的な大学院教育改革推進プログラム」、「博士課程教育リーディングプログラム」などの施策を講じています。

本学においても、これらのプログラムも活用し、また、各種の専門職大学院や国内外の大学との共同大学院を設置するなどして、大学院教育の拡充を図って参りました。さらに、昨年11月に策定した新たな中長期計画 “Waseda Vision 150”において、本学が創立150周年を迎える2032年までに、大学院生を現在の約1万人から1万5千人に増やし、社会人教育も現在の3万5千人から5万人に増やすという数値目標を掲げています。

最近では、産業競争力の強化という観点からも、技術と経営を俯瞰したビジネスモデルを創出できる人材を育成するための大学院教育プログラムの強化等が注目されています。法科大学院に関しては法曹人口に関する数値目標の見直しなど厳しい状況がありますが、全体としては、皆さんに対する期待が高まっているということができると思います。

もっとも、今この時点で産業競争力の強化のみを強調することには若干の抵抗感があります。一昨年3月の東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故は、科学技術の限界や社会システムの問題点を露呈させ、研究者集団の間に学問・研究のあり方を見直すべきであるという意識が共有されるようになりました。

昨日行われました学部入学式におきましても、本学理工学部卒業後に医師の資格を取られ、陸前高田市の岩手県立高田病院院長として勤務中に東日本大震災に伴う大津波によって病院機能を完全に喪失し、ご家族も行方不明となっている中で、直ちに臨時診療所を設置し、被災地の地域医療を守り続けた、石木幹人院長から、新入生の皆さんに心のこもったメッセージを頂戴いたしました。

その他にも、中国からの研修生を全員宿舎から高台に避難させた後、自分の家族を探すために宿舎に戻ろうとして、研修生たちの目の前で津波にのみ込まれてしまった宮城県女川市の佐藤水産株式会社の佐藤充専務など、多くの校友が早稲田人らしい自己犠牲・社会貢献の精神を発揮し、全世界の人々に大きな感動を与えました。

私たちは、これらの事実とともに、東日本大震災と原発事故から得たさまざまな教訓、とりわけ本学教旨が言うように、学問・研究の成果を私利私欲のため、あるいは一党一派の利益のために用いるのではなく、これを世のため人のために活用し、人類全体の幸福の実現を究極の目的とするような人格を形成しなければならないという教訓を風化させることなく、語り継いでいかなければなりません。

と同時に、わが国における最高学府へ進学された新入生の皆さんには、それぞれの所期の目的を達するために、不断の前進をして下さることを強く期待しています。

本学の創立者・大隈重信は、学生達にいつも口癖のように、「青年よ、理想を持て、勇気を持て、そして進め」と言っていたそうです。早稲田大学の校歌においても、「久遠の理想」という言葉が2回使われています。理想を抱くこと、前途に夢を描くことは、人間にとって生きる糧となり、さらなる進歩向上への推進力となります。

「勇気を持て」というのは、ここでは道徳的な勇気のことを意味していると思います。権威や権力に屈服せず、または安易な妥協をせず、目先の利益に引きずられることなく、正義をつらぬき、正しく生き抜くということは生易しいことではありません。早稲田人の特色としてしばしば語られる「在野精神」も、自立的精神と批判的精神に裏付けられた道徳的な勇気を意味するものということができます。

「進め、然らずんば退く」という考え方は、「進取の精神」と通ずるものがあります。大隈重信はまた「停滞は死滅である」とも語っています。学問の発展のためには、既存の論理を所与のものとして受け入れて納得してしまうのではなく、何事にも疑問を抱き、真理の探究のため果敢に挑戦していく前進の姿勢が必要なのです。

ここでは、皆さんに、こうした前進の姿勢を示すものとして、かつて本学理工学部教授を務めた考古学者・直良信夫先生の言葉を贈りたいと思います。

直良先生は、早稲田中学講義録などによって独学した後、働きながら岩倉鉄道学校夜間部を卒業しました。標準的な教育階梯を踏まない、市井の考古学者でありましたが、1931年、兵庫県明石市において旧石器時代のものと思われる化石人骨を発見しました。この「明石原人」発見のニュースはアカデミズムから黙殺され、戦後一定の評価を与えられるまで、世間の嘲笑に堪え続けなければなりませんでした。明石原人発見の後、本学の徳永重康教授に師事して、文学博士号を取得して、本学教授に就任し、松本清張の小説『石の骨』のモデルにもなっています。

先生はご自身の著書の中で、こう記されています。

「若い方々へ一言申し上げたいのは、自分の人生や学問に勇気と自信をもっていただきたいということである。勇気と自信は、師や先輩の顔色をうかがっていては生まれてこない。外国の研究をあがめたてまつっていては駄目である。どうか若い方々は、一寸の光陰を惜しんで勉強し、その勉強から正しいと信じたことを堂々と、声を張りあげて主張する勇気、自信を持っていただきたい。」

この場にいる新入生の皆さんは、やがて研究者や実務家として社会の第一線で活躍されることと思います。早稲田大学の建学の精神が謳うように、人々の先頭に立って、学問の成果を世のため人のために活かす、そうした人格を形成できるよう、学問・研究への努力を惜しまず、不断に精進してください。

皆さんのこれからの大学院生活が何より実り多きものとなることを心から願って、お祝いの挨拶とさせていただきます。

新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。

以上

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