軽水冷却による高速増殖炉の実現、核燃料サイクル実用化へ新たな道
軽水冷却原子炉による高増殖性能の達成

図1 燃料格子と新燃料集合体
背景・目的
高速増殖炉は発電をしつつ消費するより多くの核分裂性物質を生成できるので夢の原子炉と呼ばれ、世界で永年研究開発が行われている。 その主流であるナトリウム冷却高速炉は冷却材として液体ナトリウムを用いるための対策設備が必要でまだ実用化に至っていない。 軽水冷却原子炉での高増殖性能は永年の研究にもかかわらず、いまだ達成されていない。

図2 炉心配置図(水平断面図)
経験豊富な軽水冷却発電技術の延長上で高速増殖炉を実現できると、使用済燃料処理処分やウラン資源有効利用のための核燃料サイクル実用化の途が開けるので望ましい。 使用済燃料を再処理し、核燃料サイクルを産業として実現することは、資源の有効利用のみならず、放射性廃棄物問題への対応の点でも必要である。 世界の多くの国で原子力発電が計画されている。使用済燃料の処分方策としての核燃料サイクル技術を確立することは、日本の優れた原子力発電技術を国際展開する場合に、使用済燃料処分のオプションを提供出来る点で日本の立場を強化する。
1970年代に入って軽水炉の実用化時代の長期化を背景として高転換軽水炉が、欧米や日本で研究されるようになった。日本では軽水炉メーカや研究開発機関で研究が行われてきた。これまで最高の増殖性能を示したものは軸方向二重非均質炉心の低減速沸騰水型炉(RMWR)である。しかし核分裂物質炉心装荷量が大きいため複合システム増殖時間は約245年であり、液体金属冷却炉のような高い増殖性は達成できていない。 水対燃料体積を低減する事により増殖性能の向上が期待できる。RMWRでは燃料棒の間隔を狭くした稠密燃料格子が用いられている。

表1 増殖性能の比較
考案と性能
水対燃料体積比をさらに低減する方法として燃料棒を隙間なく束ねる新燃料集合体を考案した。【図1】に新燃料集合体と3本の燃料棒で囲まれる流路(燃料格子)を示す。燃料集合体は隙間なく束ねられており、3本の燃料棒で囲まれる領域の中央に円管状の流路がある。新燃料集合体では従来の燃料棒のように上下端で端栓が被覆管に溶接されているので、燃料棒の放射能の密封性を損なうことなく水対燃料体積比を低減できる。
新燃料棒を用いる原子炉の設計計算を行った。最高の増殖性能が得られた炉心の配置図を【図2】に、軸方向2重非均質炉心低減速BWR(RMWR)との特性比較を【表1】に示す。RMWRよりはるかによい増殖性能(複合システム増倍時間)が得られている
増殖性能の目標
エネルギー需要の伸びは国民総生産(GDP)の伸びとよい比例関係がある。OECDのデータによると先進7か国の最近十年間のGDP平均成長率は1.4%であり、これはエネルギー需要が約50年で2倍になることに相当する。 表1の本提案の増殖性能(複合システム増倍時間)43年はこれより短く、先進国のエネルギー需要の伸びを上回る高増殖性を達成できている。
今後の開発上の課題
沸騰水型軽水炉条件での設計、安全性の確認、新燃料集合体の詳細設計と試験、原型炉での性能確認など
波及効果や社会的影響
発電に永年実用されている軽水冷却技術を用いて高増殖が可能になる。経験豊富な技術を用いて高速増殖炉が実現し、大量の軽水炉使用済み燃料の処理処分、核燃料サイクルの実用化の展開をもたらし、原子力の国際展開、原子力平和利用に役立つ。
発表予定
日本原子力学会欧文誌(Journal of Nuclear Science and Technology)January, 2013. Yoshiaki Oka, Takashi Inoue and Taishi Yoshida,“Plutonium breeding of light water cooled fast reactors” 2012年12月末にオンライン掲載予定
関連プロジェクト
1. 科学研究費補助金 平成22-24年度、基盤研究B 課題番号22360398「高速・熱中性子結合炉心の炉物理的研究」代表者 岡芳明 2. 文部科学省・科学技術振興機構よりの委託事業「軽水冷却スーパー高速炉に関する研究開発」平成22-25年度、代表者 岡 芳明
用語説明
複合システム増倍時間(複利システム増倍時間):複合システム倍増時間とは、複数の高速炉を稼動させ、生成されるプルトニウムなどの核分裂性物質(燃料)が、1基の高速炉分だけ生成されたら、ただちに、1基の高速炉を稼動させ、さらにこの炉も加えて、次の1基の高速炉分生成されたら、また、1基の高速炉として稼動させるという方式を採用した場合、最初の複数の高速炉に装荷した燃料の2倍の燃料量が、核燃料サイクル全体として、高速炉内と再処理等のための炉外貯蔵量の合計量として生成されるまでの年数のこと
リンク
日本原子力学会欧文誌:Plutonium breeding of light water cooled fast reactors
以上