リチウム蓄電池の新しいシリコン負極材料を開発 7000回以上の充放電が可能に ― 理工 逢坂教授・門間准教授ら

7000回以上の充放電が可能に ― 理工 逢坂教授・門間准教授ら

 早稲田大学理工学術院応用物理化学研究室の逢坂哲彌教授と門間聰之准教授らは、リチウム蓄電池材料としての新しいシリコン負極材料を開発しました。これまでの研究開発報告では、シリコン負極は充放電による膨張・収縮により電極が壊れやすく、およそ100回の充放電が限度でしたが、新シリコン負極材料はこうした電極の劣化を防ぐことに成功し、約7,000回の充放電が可能となりました。より大きな容量を持つ正極材量が開発されることで、蓄電池の容量・出力の大幅な向上が期待できます。同研究室は、携帯電話や自動車向けに、数年後の実用化を目指しています。

研究成果概要

 Fig.1.

Fig.1.

電気エネルギーを化学エネルギーとして蓄える事が出来る二次電池は,1859年に鉛蓄電池が開発されて以降,様々な電池が開発されてきたが,主にニッケルカドミウム二次電池,ニッケル水素二次電池を経て現在,リチウムイオン電池(LIB)が、蓄電池としてそのエネルギー密度が高いことから、蓄電池開発の中でも最も精力的に開発されています(Fig.1. 二次電池のエネルギー密度の変遷)。携帯機器などの小型電子機器用電源として発展してきたこの電池系は、研究開発者の努力により大容量化されてきており、自動車用(ハイブリッド自動車(HEV,PHEV)、電気自動車(EV))に使われだし、且つ、今回の大災害に対応する、電力の新エネルギー対応電源として次世代型LIBが盛んに開発されています。

 

Fig.2.

Fig.2.

この流れの一環として、我々は、新しいリチウム蓄電池材料としてのシリコン負極材料を開発しました。これまでのLIBでは負極に、層状のカーボンにリチウムイオンを挿入脱離する、理論容量370 mAh/gの反応を利用してきましたが、高性能正極が開発されはじめ、その高くなった正極の容量を活かすべく、負極に対しても容量をさらに大きくする必要が出てきました(Fig.2. 正極・負極開発による18650型二次電池の容量増加予測)。そのため、リチウムイオンの挿入脱離に替わり大きな容量が期待できるシリコンへとリチウムの電気化学化学的な合金化、脱合金化反応が注目されてきました。このシリコンの反応を利用することで、リチウム電池負極として、1,000 mAh/g以上の容量が出ることは報告されていたのですが、充電放電を繰り返す回数としてはせいぜい100回程度というのが限界でした。これは携帯電話で考えた場合、毎日充電するとして,せいぜい半年しか電池が使えないことになります。携帯電話でも最低1,000回、自動車や電力用途の蓄電池としては1,000回以上使える蓄電池でないと市販品にはなりません。この負極の寿命が短い原因は、充電時にシリコンとリチウムが合金化すると元の体積の約4倍になり、放電すると再び負極の体積が小さくなることに起因しています。この体積変化を毎回の充放電サイクルで繰り返すと電極がぼろぼろになり負極材料が剥離してくるため、回数を上げることが出来ませんでした。この問題を我々は解決し、7,000回以上の充放電サイクルが可能なシリコン材料を報告しました。この材料は、単純な有機電解によってシリコン前駆体からシリコンに還元され、同時に進行する電解液の分解反応の生成物を含んだ堆積物が電極上に析出することで合成され、その析出物は、シリコンと酸素とカーボンを含んでいるアモルファス(無定型)状態(Si-O-C)であることを見つけ出しました。この状態は、およそ3 nmの単位で、Si、O、Cの元素が均一に分散していることを確認しています。

Fig.3.

Fig.3.

この結果は、次のリチウム蓄電池負極材料として、ブレークスルーを与える開発であり、さらにより大きな容量を持つ正極材料が開発されることで、電池全体としてのエネルギー密度を上げることのできる負極材料を開発したことになります。(Fig.3)に今回開発したSiOC負極が現行の炭素負極と置き換わった場合のサイクル特性の予想図を示します。正極のサイクル特性にもよりますが、現行をLIBと同等のエネルギー密度を持ち、安定したサイクル特性を示す正極が用いられた場合、約1.4倍の容量を示し、7,000サイクル後でも現行のLIBを上回る容量を示すリチウム二次電池が可能となります。我々は、この新たな材料に対して、更に合成や作動条件を詰めながら、より良い利用しやすい形に開発を進めています。

関連論文

Electrodeposited novel highly durable SiOC composite anode for Li battery above several thousands of cycles
Toshiyuki Momma, Seiichi Aoki, Hiroki Nara, Tokihiko Yokoshima, Tetsuya Osaka Electrochemistry Communications, 13, 969-972 (2011).

Highly durable SiOC composite anode prepared by electrodeposition for lithium secondary batteries
Hiroki Nara, Tokihiko Yokoshima, Toshiyuki Momma and Tetsuya Osaka* Energy & Environ.l Sci.  5, 6500-6505, (2012).

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早稲田大学理工学術院 応用物理化学研究室

以上

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