2012年度 学部入学式 鎌田総長による式辞

2012年度 学部入学式 式辞

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新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。

2012年度学部入学式を挙行するにあたり、早稲田大学を代表いたしまして、新入生の皆様ならびにご列席のご家族・ご関係の皆様に対し、衷心よりお慶びを申し上げます。

本日、めでたく早稲田大学に入学された学部生は、13学部合わせて10,163名に上ります。このように多くの優れた新入生をお迎えできたことは、本学にとって、この上ない慶びであり、全ての新入生に対して、教職員一同に成り代わって、心からの歓迎の挨拶を送りたいと思います。

昨年は、3月の東日本大震災と原子力発電所事故を承けて、入学式を中止いたしました。本年は、無事に入学式を挙行できることを大変嬉しく思いますが、この場を借りて、犠牲者のご冥福をお祈り申し上げるとともに、今なお不自由な生活を強いられている被災者の皆さまに心よりお見舞いを申し上げます。本学では、研究を通じた復興支援、学生ボランティアの派遣を中心とした被災地支援、そして授業料免除や奨学金給付等による被災学生支援を三つの柱として、大学ならでは支援活動を展開しているところです。本日ご出席の皆さまの中にも、被災地域出身の新入生が含まれています。それらの方々が、本学で勉学に励み、その成果を発揮することで、被災地の方々を大いに勇気づけてくれるものと期待しています。

さて、この未曾有の大災害を通じて、多くの人が、科学技術の限界、行政の機能不全、エネルギー浪費型生活様式の行き詰まりなどを感じたものと思います。これに、わが国を含む先進諸国の経済や国家財政が長く低迷していること、環境・エネルギー・食糧など地球規模の問題が山積していることなどを考え合わせるならば、私たちは、いま、全く新しい価値観に基づいて、社会全体のあり方を抜本的に考え直すことを求められているということができるのではないでしょうか。

こうしたわが国の現状を考えるときに、私は、いまから130年前、同じようにわが国が大きな歴史的転換点に立っていた時代に、大隈重信らが、早稲田大学の前身である東京専門学校を設立したことに思いをはせずにいられません。

当時の為政者たちは、わが国が西欧の政治制度を直輸入することによって急速に上からの近代化を図ろうとしていました。これに対し、大隈らは、わが国を真に近代的な独立国家として確立させるためには、自由で独創的な学問を究めることによって、わが国に最も適した制度を見いだすとともに、教育を通じて国民の一人ひとりが自立した精神と高い倫理観を備えるようにしなければならないと考えたのです。

この建学の精神は、創立30周年を機に、さらに普遍的な内容をもったものとされ、「早稲田大学教旨」として広く世間に公表されました。この教旨は、「早稲田大学は学問の独立を全うし学問の活用を効し模範国民を造就するを以て建学の本旨と為す」から始まり、「広く世界に活動す可き人格を養成せん事を期す」という言葉で結ばれています。ここで「人材」とせず、「人格」とされているところに深い意味が込められているのですが、この点については、別の機会にお話しすることにしたいと思います。

いずれにしろ、この「早稲田大学教旨」は、全ての早稲田人の間に脈々と受け継がれ、現代においては、特に独創的学問と道徳的観点を含んだ教育の重要性を強調している点で、その先見性と普遍性が高く評価されています。

近時、東京大学による秋入学の問題提起が、教育界のみならず政界・財界・言論界に大きな反響を呼んでいます。これも、新たな社会のあり方を模索する上で大学教育が極めて重要な役割を果たすという認識が社会全体に共有されていることの証しであるということができます。

秋入学の構想は、第1に、国際化対応を促進することを目的とし、第2には、学生に強靱さを身につけさせることを目的としています。しかし、早稲田大学では、既にそのいずれの目的についても、はるかに先進的な対策を講じていることを新入生の皆さんにお伝えしておきたいと思います。

第1の国際化対応促進という目的については、先ほど紹介したように、早稲田大学教旨にも謳われているところであり、本学創立以来、これを実施してきたところです。実際、東京専門学校は、創立後間もない明治18年(1885年)には最初の留学生を受け入れ、明治38年(1905年)には清国留学生部を設置して、本格的に留学生の受け入れを進めて参りました。こうした伝統に加えて、近年では、複数の学部で既に9月入学を実施しているほか、交換留学制度や、英語のみで学位を取得することができるプログラム、日本語教育プログラム等を拡充することにより、日本語能力の十分でない外国人学生の留学を容易にしています。その結果、現在では、世界約100か国から4千名を超える外国人学生を受け入れ、日本で最も国際化の進んだ大学となっています。外国人学生が授業やサークル活動で日本人学生と共に学び、共に議論すること、学生寮で生活を共にすることで異文化交流を促進することは、外国人学生による日本の文化・伝統・歴史の理解を容易にするだけでなく、日本人学生の異文化交流を促進し、国際感覚を高める上でも極めて有益であると考えています。

海外への学生の送り出しについて言えば、既に古く、明治28年(1895年)に東京専門学校を首席で卒業すると同時に米国に留学し、後に日本人初のイェール大学教授となった歴史学者・朝河貫一などの先駆者がおります。現在では、学生4人に1人のネイティブスピーカーがインストラクターにつく実践的外国語授業や外国語による専門科目の授業などを実施するとともに、多様な留学プログラムを学生に提供すること等によって、毎年約2千名の早大生が海外に留学するようになっています。

なお、国際化対応は、単に語学力を身につければ達成できるわけではありません。外国人と対等に議論し、容易に答の見いだせない問題について、自ら調査・分析し、考え、問題解決の道筋を見いだす能力を備えていることが前提とされなければなりません。こうした能力は、しかし、留学を考えていない学生にとっても必須の能力です。本学では、そうした基本的な能力を涵養するために、学術的文章作成力、文系学生のための数学的思考力など、あらゆる学問の基礎となる力を鍛える授業を、学部の壁を越えて受講できるようにするとともに、各学部の授業においても、考える力・議論する力の養成が期待される問題解決型の双方向・多方向授業方法を導入するよう努めたいと考えています。

また、秋入学の提案の第2の目的である、多様な体験を通じて学生に強靱さを身につけさせるという点については、早稲田大学では、既に、毎年延べ2万人を超える学生を、国内外のボランティア活動やインターンシップ、さらにはプロフェッショナルズ・ワークショップと称する実際の企業・自治体における実務を体験させる授業などに送り出しています。これ以外にも、早稲田大学は、伝統的に、サークル活動その他、学生の自主的活動が極めて盛んですし、国内外の有力大学との単位互換制度や交換留学制度が充実していますので、多様な環境で多様な個性とぶつかり合い、切磋琢磨する機会は、既に豊富に存在しています。したがって、現時点において、いわゆるギャップタームを導入して新入生に一斉に学外体験をさせる必要性は感じておりません。

このように、早稲田大学では、多様な学生のニーズに柔軟に応えるために、各種の方策を講じているところですが、大学は、基本的に、学生が自ら学ぶところであり、手取り足取り指導するところではありません。したがって、これまでに説明したさまざまなプログラムを利用するかしないか、学問・芸術・文化・スポーツ等に関わる本学の豊富な資源を活用するか否かも、皆さんの自主的な判断に任されています。

学生時代は、自分の生き方を模索し、価値観を形成していく、人生で最も大切な時期です。新入生の皆さんにおかれましては、早稲田大学教旨に謳われている建学の精神をかみしめて、自ら信ずるところに従って、主体的に、さまざまな機会を捉えて、できるだけ多くの経験を重ねながら、ぜひ幅広く深い教養と豊かな人間性を育んでください。そして、皆さんが、やがては世界の平和と人類の幸福の実現に向けた新しい社会秩序を形成する歩みの先頭に立ってくれることを、心から期待して、お祝いの挨拶とさせていただきます。

皆さん、入学おめでとう。早稲田大学において、存分に皆さんの能力に磨きをかけてください。

早稲田大学 総長 鎌田 薫

以 上

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