顕 彰 状
阿刀田高氏は、1935年1月13日に東京に生まれた。16歳のときに父を亡くし、苦学を重ね、1954年、早稲田大学第一文学部文学科仏文学専修に進学する。1955年、結核のため休学し、16ヶ月間の療養生活を送る。この間に多数の短篇小説を読んだことが、後年の活躍の礎となった。1960年、大学卒業後、文部省図書館職員養成所に入所し、翌1961年から国立国会図書館に司書として勤務する。
国会図書館で勤務をしながら、執筆活動をつづけ、1972年に作家として独立する。1978年『冷蔵庫より愛をこめて』が好評を博し、1979年『来訪者』で第32回日本推理作家協会賞短編部門、『ナポレオン狂』で第81回直木賞をそれぞれ受賞した。また、1995 年『新トロイア物語』で第29回吉川英治文学賞を受賞している。ミステリーとユーモアを特色とする多数の創作を著し、短編小説の名手として文壇で高く評価されている。また、世界の古典にも精通し、その教養を生かした随筆にも定評がある。
氏の日本文化への貢献は、創作にとどまることなく、社会的な活動にも広く及んでいる。1993年から1997年に日本推理作家協会理事長をつとめ、2007年より日本ペンクラブ会長となる。現在、新田次郎文学賞・直木賞・小説すばる新人賞の選考委員などをつとめている。この間、文部科学省設置の文化審議会会長(2005~2007 年)など政府の審議委員を歴任、2003年紫綬褒章、2009年旭日中綬章を受勲した。
早稲田大学への貢献も著しく、2000年度には第一文学部・第二文学部において客員教授をつとめ、2007年より文化推進部アドバイザリー・コミッティーの委員として本学の文化推進に尽力している。2010年には、日本ペンクラブ会長である氏が中心となって、国際ペン東京大会を早稲田大学において開催した。大隈講堂をはじめとする本学の施設が会場となり、話題を呼んだことは記憶に新しい。この国際的な行事は、本学の海外との文化の交流・発信に大きく寄与することとなった。
阿刀田高氏は早稲田大学の文学伝統を継承するとともに、独自の領野を開拓、文壇にゆるがぬ地位を築いた。また、氏は、日本ペンクラブ会長、直木賞をはじめ各種文学賞の選考委員をつとめるなど、後進の育成と日本文学の振興にも大きく貢献し、本学の文化活動への尽力も多大である。
ここに早稲田大学は、阿刀田高氏の顕著な功績をたたえ、早稲田大学芸術功労者として永くその栄誉を顕彰するものである。
2011年4月1日 早 稲 田 大 学