中高年男性による自殺は月曜日の朝に急増

性別・年齢グループ別に自殺の起こりやすい曜日・時間帯を特定

発表のポイント

  • 自殺が多発する曜日・時間帯について体系的な研究が国内外ともに実施されていなかった。
  • 性別・年齢グループごとに自殺の起こりやすい曜日・時間帯が大きく異なること、また、経済状況によって自殺の起こりやすい時間帯は変化することを明らかにした。
  • 自殺が起こりやすいタイミングにサポート体制を充実することで自殺予防につながることが期待される。従来夜に行われることの多い電話相談などは朝にも拡充すると効果的である可能性が高い。

早稲田大学政治経済学術院のJeremy Boo(論文執筆当時:同大学院政治学研究科修士課程2年、現在:ミシガン大学政治学研究科博士課程在籍中)、上田路子(うえだ みちこ)准教授、および大阪大学大学院国際公共政策研究科の松林哲也(まつばやし てつや)准教授の研究グループは、日本国内の41年間(1974年~2014年)の自殺者約90万人の死亡時刻データを調べ、性別や年齢グループによって自殺で亡くなる曜日や時間帯が異なること、さらに、経済状況が悪化するにつれ、早朝から通勤時間にかけての中高年男性の自殺が増加することを明らかにしました。

現在、全世界では毎年80万人が自ら命を絶っていると言われています。自殺者を一人でも少なくするため、自殺が起こりやすい時期や時間帯を特定し、そのタイミングに相談体制を充実させ、見守りを強化することが不可欠です。しかし、自殺がいつ多く発生するかについてはこれまで体系的な研究が国内外で実施されていませんでした。

本調査の結果、中高年男性(40歳~65歳)の自殺が月曜日の朝に集中していることなど、性別・年齢グループ別に自殺リスクが高まる曜日・時間帯が明らかとなりました。これにより、従来と比べてより効果的な曜日・時間帯にサポート体制を強化・充実させることが可能となるため、自殺を防ぐことにつながると期待されています。

本研究成果は2018年9月17日(月)にElsevier社「Journal of Affective Disorders」のオンライン速報版で公開され、Volume 243: pages 366-374(2019年1月15日刊行)に掲載予定です。

1.これまでの研究で分かっていたこと

自殺は多くの国において大きな社会問題であり、全世界では毎年80万人が自ら命を絶っているといわれています(WHO 2014)。日本における自殺者数は近年減少傾向にありますが、依然として日本の自殺死亡率は他の先進国と比較して高い水準にとどまっています。自殺は基本的に「防ぐことのできる死」(WHO 2014)と考えられており、また自殺の「負の外部性」は大きいことから(澤田・上田・松林 2013)、自殺で亡くなる方を一人でも少なくすることは、社会全体で取り組むべき非常に重要な課題と考えられます。そのためには、自殺が起こりやすい時期や時間帯を特定し、そのような時期や時間帯に相談体制を充実させ、見守りを強化することが不可欠です。

これまでの研究で日本では夏休みなどの長期休み明けに学生・生徒の自殺が多いこと(Matsubayashi, Ueda, and Yoshikawa 2016)、月曜に自殺が多いこと(自殺対策白書2018)、自身の誕生日に自ら命を絶つ人が多いこと(Matsubayashi and Ueda 2016)などについては明らかになっていましたが、自殺が多発する時間帯については日本のみならず他国においても体系的な研究がされていませんでした。

2.今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

本研究グループは共同研究を行い、1974年から2014年の間に自殺で亡くなった約90万人の死亡時刻を調べ、性別・年齢グループ別に自殺の起こりやすい時間帯を明らかにしました。さらに、自殺の背景にはうつ病などの健康問題だけでなく、経済問題も大きな要因としてあることが知られていることから(澤田・上田・松林 2013)、経済状況と自殺の起こりやすい時間帯との関連について調査しました。

3.今回の研究で得られた結果及び知見

人口動態調査の死亡票を分析対象とし、1974年から2014年に日本国内において自殺で亡くなった20歳以上の日本人のうち、死亡日時が記録されている873,268名について死亡時刻・曜日を性別・年齢グループ別に集計しました。その際、調査期間の41年間を1974年から1994年、及び1995年から2014年の二期に分け、集計を行いました。さらに、死亡時間帯ごとの死亡者数に統計的に有意な差異があるか分析を行いました。

その結果、主に以下のことが明らかになりました。40歳から65歳までの中高年男性の場合、朝(4:00から7:59まで)に自殺で亡くなる方が一番多く、特に日本経済が悪化した1990年代後半以降は月曜日の朝に自殺者数の大きなピークがあることがわかりました(図1参照)。1995年から2014年のデータを用いた分析結果によると、40歳から65歳の男性が月曜日に自殺で亡くなる頻度は土曜日と比較して1.55倍(95%信頼区間: 1.52-1.58)であり、また彼らが出勤時間前(4:00から7:59まで)に自殺で亡くなる頻度は夜遅くの時間帯(20:00から23:59まで)と比較すると1.57倍 (95%信頼区間: 1.55-1.60)であることが明らかになりました。20歳から39歳の男性の自殺に関しても同様で、1995年以降は朝の通勤時間帯、特に月曜日の朝に自殺で亡くなることが多い傾向がありました。しかし、分析を1994年以前に限定した場合、どの年齢の男性にも出勤時間前に自殺が集中する傾向が認められませんでした。

図1 年齢グループ別自殺者数(男性)

データ:人口動態調査 (1974-2014年) 注:図中の破線は深夜12時を示す。

さらに、勤労世代(20歳から65歳まで)が朝の時間帯(4:00から7:59まで)に亡くなる割合は、経済状況が悪化するにつれて増えることもわかりました。図2に示されているように、日本における失業率が上昇するにつれ、早朝から朝の通勤時間帯(4:00から7:59まで)に亡くなる男性の自殺死亡者の割合が増加する傾向にあります。同時間帯の中高年男性の自殺の手段を見ると、首吊りやガス中毒が多いことから、出勤前に自宅で亡くなるケースが多いものと思われます。

図2 失業率と朝4時から8時までに発生した自殺の割合

また、勤労世代の男性は深夜12時頃に自殺で亡くなるケースも多いことがわかりました。特に、1994年以前に発生した20歳から39歳までの男性の自殺は日付が変わる頃に集中しています(図1)。一方、66歳以上の高齢男性の場合、昼の12時頃に自殺で亡くなるケースが多く、若年・中高年男性とは全く異なるパターンとなっていました。女性の場合も、全年齢層で男性の高齢者と同様に、昼の比較的早い時間帯に自殺で亡くなるケースが多いことが明らかになりました。

本分析の結果は、性別や年齢グループによって自殺で亡くなる時間帯が大きく異なること、また人々が自ら命を絶つ決断のタイミングには経済状況が関連していることを強く示唆しています。

4.研究の波及効果や社会的影響

いのちの電話などの自殺予防を目的とした電話相談サービスは夕方から深夜にかけて相談を受け付けているところが多いですが、今回の分析結果は、夜の時間帯よりもむしろ早朝から通勤時間帯にかけて相談体制を充実させる必要があることを示しています。また、勤労世代の男性の自殺リスクが平日の朝に大幅に上昇することを踏まえ、通勤時間帯に駅構内で見守りや声かけ活動を実施することも有効な手段と考えられます。家庭内においても出勤前の男性に普段と変わった様子がないか注意することで防ぐことのできる自殺があるかもしれません。

高齢男性や女性に関しては、お昼から夕方にかけての自殺リスクが高いことから、これらのグループを対象とする自殺予防活動は昼間に行うことが効果的と考えられます。また、彼らが日中に自殺で亡くなる傾向があるということは、仕事などで家族が家を出払っている間に自傷行為に及んでいるとも考えられるため、リスク要因を抱える高齢者や主婦などが昼間に一人にならないよう、家族や地域コミュニティによるサポートを強化することも大切だと思われます。

5.今後の課題

今回の分析は、死亡診断書に記載された死亡時刻をもとにしており、実際に死亡者が自傷行為を行った時刻とは異なる可能性もあることに注意が必要です。救急搬送のデータを用いるなどして自殺が起こりやすい時間帯について検証を続けていくことが必要と考えられます。

6.研究費について

本研究は、平成29–31年度文部科学省科学研究費補助金 (研究種目:基盤研究(B)、課題番号:17H02541、研究代表者:上田路子)及び、平成29、30年度自殺総合対策推進センター(JSSC)革新的自殺研究推進プログラム委託研究費 (研究代表者:上田路子)の助成を受けて行われました。また、本論文は早稲田大学の助成を受けてオープンアクセス論文として発表しました。

7.引用文献

  • 厚生労働省 「平成30年版 自殺対策白書」
  • Tetsuya Matsubayashi, Michiko Ueda, and Kanako Yoshikawa. 2016. “School and Seasonality in Youth Suicide: Evidence from Japan.” Journal of Epidemiology and Community Health, 70 (11): 1122-1127.
  • Tetsuya Matsubayashi and Michiko Ueda. 2016. “Suicides and Accidents on Birthdays: Evidence from Japan.” Social Science & Medicine, 159: 61-72.
  • World Health Organization (WHO). 2014. Preventing Suicide: A Global Imperative.

8.論文情報

雑誌名:Journal of Affective Disorders
論文名:Diurnal variation in suicide timing by age and gender: Evidence from Japan across 41 years
執筆者名:J. Boo, T. Matsubayashi and M. Ueda
掲載URL:https://doi.org/10.1016/j.jad.2018.09.030
DOI:10.1016/j.jad.2018.09.030

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