他業界とのコラボが増える時代に必要なのは人の話や意見を引き出し、聞き取る対話力 創造理工学部・蓮池隆准教授

様々な確率現象の組み合わせのほかに、人間の気持ちや感性が関わることで、不確実性が高まることがある。
感性や感情を数理モデルに組み込むために必要なこととは?

国際学術誌『Information Science』や『Fuzzy Optimization and Decision Making』等に研究業績が紹介されるなど、国際的に注目を集める蓮池隆准教授。

理論のみならず、数理モデルの実社会への応用に挑戦する蓮池准教授が、今、目指しているのは、人の気持ちや感性を数理モデルに組み込むことだった。

統計学や確率論などの数学的知見を、世の中の事象に適用し、目的に対して最も効果的な意思決定を下すために活用されるオペレーションズ・リサーチ。このなかでも、「不確実性の状況下における意思決定」が蓮池隆准教授の専門分野となる。将来、何が起こるかわからない状況で、どう意思決定すべきかの研究だ。

数学的知見を現実に適用すると聞くと、経済や金融などの分野が思い浮かぶかもしれない。これらは様々な確率現象が複雑に絡み合い、未来の予測が難しい。特に金融工学は蓮池准教授が扱う分野の一つだ。

だが、確率現象のほかに、意思決定をする上で避けて通れないにも関わらず、不確実性をさらに高めかねない要素がある。

人間の関与だ。

「意思決定を下すのは人です。人の気持ちや感情、感性といったものは多様で、定量化するのが難しい。また、意思決定に多くの人が関われば、それだけ多種多様な感性が入るので、意思決定がブレたり、合意形成が難しかったりすることもあります」。蓮池准教授はこの一筋縄ではいかない人間の感性や感情を数値や関数で表現し、数理モデルに置き換えて取り扱うことにも挑戦しているのだ。

「僕の研究のなかで、最も難しいところであり、最も面白いところかもしれません」と蓮池准教授は語る。

データに基づき、観光ルートを提案渋滞回避や、有事・災害の際のルート提案も

一般的にもわかるように、どのような分野での活用が考えられるのかを尋ねると、意外な答えが返ってきた。

「今、共同研究で取り組んでいるのが『観光科学』です。どこかの観光地を訪れた時に、誰にどのような観光ルートを提案すればよいか。そのモデルを作っています」。旅行者は日本人なのか、外国人なのか。観光目的は何か。その観光地への訪問は何回目なのか。これらのデータによって、観光ルートの魅力度は変化する。たとえば、はじめての京都なら、清水寺は外せないという人もいるだろう。だが、何度も京都観光をしている人にとっては、もう少し知られていない寺院仏閣がおすすめになるかもしれない。

蓮池准教授は、共同研究者が収集してきたこのような観光データをもとに、数理モデルを作り、活用しようとしている。このモデルを使えば、これから観光しようとする人が自分のデータを入力するだけで、おすすめの観光ルートが出てくるわけだ。

旅行会社や観光協会にとっては垂涎の技術かもしれない。蓮池准教授は冗談めかして語る。

「ゆくゆくはアプリやソフトにしたいですね。今、協力してくれる企業を募集中です」。また、このようにして、様々なデータを数理モデルにできれば、多くのことに活用できると指摘する。

「観光以外にも、渋滞を避けるルートも提案可能です。2020年の東京オリンピック・パラリンピックでも、人の流れがどうなるのかをある程度制御できるでしょう。また、災害や有事の際、どのようなルートを示せば良いのかの判断も可能です」。応用されるのが待ち遠しい。

人の感性を定量化する手法でより現実に近い数理モデルを構築する

大阪大学工学部在籍時、もともと好きだった数学を活かそうと、金融工学を研究していたが、研究をすすめるにつれて、ひとつの問題にぶつかった。

「金融分野は市場からデータが集まるので、ほかの分野よりも解析や研究が進んでいます。しかし、それでも、『人は合理的に動かない』のです。最近、行動経済学などでも言われることですが、それぞれの人が持つ相場観など人の気持ちや感性が入ると、数理モデルがうまく機能しません。だったら、その人間の部分をどうにかできないかと考えたのです」。人の感性を数値化するために、蓮池准教授が使うのは「ファジィ理論」だ。ファジィ理論はある一定の文章や形容詞を、人がどう感じるのかを定量化するために用いられる。

「よく使われる例は、『背が高い』と感じるのは何cmからか、という問題です。たとえば、身長180cmは高いとします。それ以上は高いと感じますが、179.9cmはどう感じるでしょうか。179cmは? こう考えると、背が高いかどうかの基準は、一点では決まらず、なだらかになります。このなだらかな線を数理モデルで表そうとしているわけです」。通常、データはアンケートなどで集める。この例では、たとえば、高い・わからない・高くない、という3択から選択してもらう。選ぶまでの時間もデータの一つになり得る。時間がかかれば、それだけ判断に悩んだ証拠で、「わからない」寄りの意見だと判断できるからだ。

ただ、長いアンケートは回答者に負担を強いるし、答えているうちに意見が揺らぐことがある。だから、アンケートに市場データや一般的な意見を組み合わせて、モデルを構築することも考えている。アンケートと市場データ・一般的な意見をどう組み合わせたら、うまく現実を数値や関数で表現できるか。その理論を研究するのも蓮池准教授の研究の一つだ。

このように、様々な理論を使って、人間の感性を定量化し、より現実に近い数理モデルを創造しようとしている。

大量にあるランダムなデータが、蓮池准教授の手により整った数式に置き換えられていく。

一方、蓮池准教授は逆の方向でも研究を進めている。つまり、現実から数理モデルを構築することとは逆に、数理モデルから現実を表せるかどうかだ。

「オペレーションズ・リサーチは、実問題における最適解を導き出せなければ無意味です。なので、最適化の手法を作る、いわば最適解を導き出す道具を作るのも、我々の仕事です」。例として、看護師のスケジューリングを挙げる。看護師のシフト作成は、それぞれの資格・技量、患者の人数と状態、3交代制など多くの要素があって難しい。

「まともなスケジュールを出せるようになったのも、ここ4~5年の話。最初の頃は、制約条件を満たしているはずなのに、『やっぱり違うのよね』と言われていました」。原因は何だったのか。

「暗黙の了解、意識していないルールなど、共有しているはずなのに、皆が気づいていない制約条件を明らかにすることができなかったのです」。それらを全部引き出すことができなければ、当然、最適解を導き出すことはできない。

意思決定過程の説明図。意思決定者それぞれに話を聞き、数式を修正。皆の主観を反映する。

「だから、対話力、コミュニケーション能力が大切です。コツは、まず相手の話をよく聞き、引き出すこと。そして、相手のことを考え、相手にわかる言葉で話すことです」。現在、蓮池准教授は農産物のサプライチェーン効率化に取り組み、農作物の無駄を作らない安定供給のため、農家と消費者とのマッチングを最適化しようとしているが、このような他業界とのコラボレーションはますます増えると予測する。だから、学生には机上の知識だけでなく、様々な分野に興味を持ち、対話力を身につけてほしいと、授業でも工夫している。

「授業で発言できない学生もいるので、授業のあとに、『ツイートしてくれ、つぶやいてくれ』と言って、紙に何かを書いてもらっています。授業の感想を書けと言うと、気が重くなるので。なかには絵を描いてくる学生もいます。それも立派なコミュニケーションです」。毎回だいたい70人からのツイートが寄せられる。そのすべてに返信しているという。決して楽な作業ではない。

「結局、この積み重ねがコミュニケーションの力になると思うので」。大阪で青春時代を過ごし、人が好きで、人間に興味があるという蓮池准教授。研究の原動力は、「人が喜ぶところを見たい」という素直な気持ちと、「誰かに役立ててもらえたらいいな」という純粋な願い。この思いが対話を通じて学生に伝わり、やがては広く社会に伝播していくはずだ。

早稲田大学創造理工学部・研究科広報誌「創造人」20号より転載

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