日本人の国際化、政治、社会に関する意識 全国を対象とした2009年からの継続調査を分析

早稲田大学文学学術院の田辺俊介(たなべ しゅんすけ)教授らの研究グループは、2009年から4年ごとに実施している「国際化と市民の政治参加に関する世論調査」の2017年調査(回答者総数4,386名、回収率43.1%)の結果をもとに、日本社会における外国人に対する意識や政治意識について分析を行った。今回の研究では、次のような興味深い結果が得られた。

  1. 『愛国心や国民の責務を教えるよう戦後教育を見直すべき』との意見への賛成は59%(2009年)から49%(2017年)と減少。今以上に愛国心教育を推進する必要性はないと考える人が増加。一方、『国旗・国歌を教育の場で教えるのは当然』という意見について、賛成が63%(2009年)から75%(2017年)と増加。とくに若い世代で賛成が増加しており、国旗国歌が教育現場にあることが自明視され、一定の定着をみた結果と考えられる。
  2. マスメディアの報道への不信感を持つ人が過半数を超え、特に18歳から34歳では3分の2近くの人が不信感を抱き、35歳から49歳でも6割が「信頼できない」との回答しており、相対的に若い世代において、マスメディアへの不信感が広がっている。
  3. 沖縄では、基地の集中が不平等であるとの意見が7割を超えるが、全国では半数にとどまる。また、『沖縄の経済は米軍基地なしには成り立たない』という考えに全国では半数が肯定しているが、沖縄では3割にとどまる。
  4. 日本に住む外国人に関する調査では、アメリカ人、ドイツ人の増加に賛成が多いのに対し、韓国人・中国人に対する排外的な意識は、尖閣問題などからか、2009年に比べて2013年で急増し、2017年でも同水準を維持。
  5. 2017年衆議院選挙の調査結果において、立憲民主党や希望の党などの政党は年齢が高い人ほど投票の割合が増える傾向だが、自民党はどの年齢層でも3割前後あり、安定的に票を得ていることがわかった。一方、安倍首相に対する好感度は顕著に低下している。

2000年代に社会問題化したナショナリズムや政治意識に関し、継続調査にもとづく研究は少なく、同様の項目を2009年より4年ごとに継続して調査した本結果は、日本のナショナリズムや政治意識に関する議論を深める素材を提供しうるものである。

(1) これまでの研究で分かっていたこと

2000年代以降の日本社会では、「ナショナリズムの高まり」とみられる諸現象が多発している。例えば中国・韓国に対する差別的・排外主義的な主張が、ネット上だけに止まらず、「行動する保守」を自称する団体によって街頭で展開された(安田2012)。またそれら諸団体は、反原発運動や沖縄反基地運動に対してもヘイトスピーチを行うなど、排外主義思想と「反・反原発」や「反・反基地」など他の政治的態度との間に一定の関連構造が存在していることが伺える。カウンター活動の成果により、ここ数年は「行動する保守」の路上行動自体は減少傾向にある。しかし彼ら・彼女らの出現の背景にある日本人一般のナショナリズム、特に韓国・中国への好感度の低下は否定できない状況である(内閣府 2014)。

また2012年末から続く安倍政権は、靖国参拝や教育現場における愛国心教育の強制など「ナショナリズム」重視がその特徴の一つに挙げられる。また同政権は「国益」という言葉を強調し、「現実主義」路線と称した様々な政策を展開している。例えば安全保障における集団的自衛権の行使容認、沖縄の普天間基地移設問題における(対沖縄)強行姿勢、さらにエネルギー政策における原発再稼働。リベラル派からは強い反発を受けるそれら政策に邁進する安倍政権の様子からも、安保政策や原発推進政策とある種のナショナリズムの間には、一定の関連があると考えられる。

そのような特定の政治勢力や政党の政治的主張とナショナリズムの関連は幅広く研究されている。例えば外国人排斥を訴える極右政党の欧州における伸張については、社会学・政治学における主要なトピックの一つとなっている(Semyonov, Rajiman & Gorodzeisky 2006等)。また欧米諸国のホスト社会側の人々の移民・外国人への意識(特に偏見)について、社会学・社会心理学など様々な分野での研究の蓄積がある(例えばQuillian 1995など)。しかし日本との社会状況の違いから、それらの知見をそのまま日本に適用することは困難である。また強硬なナショナリズムの主張の担い手について、特に日本では言説レベルでの議論や少数事例による検討(小熊・上野 2003, 高原 2006等)が未だ主流であり、量的データに基づく実証研究は充分とは言えない。

以上のような社会的背景と先行研究をふまえ、本研究グループは2009年11月と2013年12月に日本全国を対象とした量的社会調査を行った。その調査データの分析から、個人的属性(社会経済的属性・外国人との接触経験)だけでなく、居住地域の状況(外国人居住率・ブルーカラー比率)がナショナリズムに影響し、また各種イデオロギーや政治意識と相互連関することを示した(田辺2011, Tanabe 2013)。さらに2009年時点に比べて2013年の調査結果では、尖閣・竹島を巡る領土ナショナリズムの急速な高まりの結果、対中国・韓国に対する排外性が強まり、かつそれら意識と愛国主義の関連が強まっていた。ただし愛国主義的傾向一般が強まっているわけではないこともデータから示されている。しかしその後も安倍政権が続く中、日本社会の、特に政治的な「右傾化」が懸念されている(例えば中野2015)。一方で安倍政権の安保法制に対しては、若者達の中心としたSEALDsの活動が着目されるなど、反対勢力も同時に伸張している可能性も存在し、総じて国内の政治的意見の分裂が大きくなっているかにも思われる。そのような現状について正確に把握するためにも、以前の調査と比較可能な新たな調査を必要と考え、2017年10月の衆議院選挙後に全国60地点(沖縄10地点)を対象とした大規模量的社会調査を実施した。

(2) 今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

本研究は、民主党への政権交代直後の2009年10月、尖閣・竹島問題などを経た上での自民党与党復帰後の2013年11月、突然の解散にはじまった最近の総選挙直後の2017年10月に行った全国を対象とした世論調査データから、日本社会のナショナリズムや政治的態度の不変性と可変性について、代表性の高いデータに対する高度な統計分析により、詳細な検討を行うものである。

現段階ではまだ基礎的な分析にとどまるが、例えば「愛国心」については、『愛国心や国民の責務を教えるよう戦後教育を見直すべき』との意見への賛成は59%(2009年)から49%(2017年)と減少。今以上に愛国心教育を推進する必要性はないと考える人が増加していた。一方、『国旗・国歌を教育の場で教えるのは当然』という意見について、賛成が63%(2009年)から75%(2017年)と増加していた。とくに若い世代で賛成する人が増加しており、国旗国歌が教育現場にあることが自明視され、一定の定着をみた結果と考えられる。また「排外主義」の一側面である韓国人・中国人に対する排外的な意識は、尖閣問題などからか、2009年に比べて2013年で急増し、2017年でも同水準を維持していた。あるいは政治的な意識としては、2013年調査と2017年の衆議院選挙直後の調査結果を比較すると、安倍首相に対する好感度が顕著に低下し、特に「もっとも嫌い」という強い嫌悪を抱く人が二倍程度に増加していた。一方で、自民党の好感度は微減にとどまっていることから、2017年の選挙結果は「自民党勝利」ではあっても、「安倍信任」とは言いにくいことが示された。

(3) そのために新しく開発した手法

以上のような経年比較を行うためにも、4年ごとに同様の調査設計の全国調査による継続的な量的社会調査を実施し、同水準のデータを収集し続けることが必要である。このような継続的な調査については、未だ数少なく、特にナショナリズムや対外国人意識、それと政治意識を同時に調査し、それら関連を検討できる継続調査は本調査のみと言いうる。

例えば1955年から10年ごとに行われている「社会階層と社会移動に関する全国調査」(通称「SSM調査」)は日本で最も著名な継続調査であるが、社会階層や社会的格差が主たる関心である。また総合的に社会の諸側面については「日本版総合社会調査」(通称「JGSS調査」)が現在ほぼ2年おきに実施されているが、扱うテーマが幅広い分、個別のトピックの詳細な分析は難しい。5年ごとに行われる「日本人の意識調査」も、同様の傾向である。また主に選挙関連の事象を中心的な対象とするJapanese Electoral Studiesについては1983年に第1回が行われた後、2018年第6回まで継続しているが不定期で、調査項目の変更も多く、厳密な比較分析が難しい。その点、4年ごとに定期的に、かつ同様の調査設計で続けている本調査プロジェクトは、比較可能性が非常に高い、「新たなデータ」と言いうるものである。

なお、調査データのクオリティの指標となるサンプリングと回収率については以下の通りである。まず2017年調査は、選挙人名簿から9,000名(地点数60,1地点150)の対象者を抽出し、3,882名からの回答を得ており、不着などを除いた回収率は44.54%である(なお2017年に同時に行った沖縄在住者対象の調査としては、抽出標本数は1,500、回収数504で、不着等を除いた回収率は34.47%)。2013年調査は、選挙人名簿から10,200名(地点数51、1地点200)を抽出し、4,134名(調査不能を除いた回収率は42.2%)から回答を得た。2009年調査では30市区町村の選挙人名簿から無作為抽出した8,550名を対象とし、3,610名(転居先不明の方など調査不能を除いた回収率は43.4%)からの回答を得ている。3調査とも郵送調査としては比較的高い回収率であり、また選挙人名簿からの無作為抽出を行っていることから、代表性が高く、高度な学術的な分析に耐えうる調査データである、と言いうるだろう。

(4) 今回の研究で得られた結果及び知見

まだまだ途上であるが、基礎的な分析からも以下のような興味深い知見が得られている。

1.愛国心教育、「今以上」の推進は不要と考える人が増加

「子どもたちにもっと愛国心や国民の責務について教えるよう、戦後の教育を見直さなければならない」という意見についての賛成する人の割合は、59%(2009年)から49%(2017年)へと10ポイント程度減少している。第二次安倍政権成立以後、今以上の愛国心教育の推進は必要性ではない、と考える人が増えているようである。

一方で「国旗・国歌を教育の場で教えるのは当然である」という意見について、賛成が63%(2009年)から75%(2017年)と増加しており、とくに若い世代で賛成が増加している(20代では57%から77%で、30代も52%から73%で、両世代とも20ポイントほどの増加)。この点については、「国旗及び国歌に関する法律」(略称「国旗国歌法」)が1999年に公布・施行されてから20年近い歳月が経つ中で、教育の場に国旗・国歌が存在することを自明視する世代が増えてきていることを示す結果と考えられるだろう。

2.広がるマスメディアへの不信感、若年層において特に不信感強

「マスメディアの報道の中には信頼できないものも多い」という質問に対し、「そう思う」「ややそう思う」とする回答が全体でほぼ過半数(47.9%)、一方「あまりそう思わない」と「そう思わない」は合計でも1割強(13.7%)であり、メディアの報道を信頼している人はそれほど多くない。

こうした傾向は特に若年層において顕著で、18〜34歳の世代では合計すると約3分の(64.1%)の人が「そう思う」「ややそう思う」と回答している。また、35〜49歳の世代でも、ほぼ6割が「信頼できない」と考えており、50歳未満の相対的に若い世代において、マスメディアに対する不信感が広がっていると言える。

3.沖縄と本土ですれ違う米軍基地に対する認識

米軍基地に関する問題は、基地が集中する沖縄と、その受益者ともいえる本土では、様々な認識の違いが指摘されている。本調査結果としてもそれは大きな認識差として浮かび上がっている。まず『沖縄に米軍基地が集中しているのは不平等である』という意見に対して、沖縄では「そう思う」と「ややそう思う」という人が7割を超えるが、全国では半数程度にとどまる。

あるいは、『沖縄の経済は米軍基地なしには成り立たない』という考えに全国では半数が肯定しているが、沖縄では3割程度である。

以上のように、基地問題については市民の間でも沖縄と本土で大きな認識ギャップが存在し、そのことが問題解決を難しくしている側面があることは無視できないと思われる。

4.好転しない韓国人・中国人への排外主義

2009年頃から盛んになったヘイトスピーチの問題とも関連し、特に近隣諸国の人々(韓国人・中国人)への排外主義が社会的に大きな問題となっている。本調査では「あなたが生活している地域に、以下のような人々が増えることに賛成ですか、反対ですか」とたずねた上で「1.賛成、2やや賛成、3やや反対、4反対」という4つの選択肢からの回答を求めた。

調査の結果、ヘイトスピーチ問題が議論され始めた2009年に比べ、尖閣諸島沖の中国漁船衝突事故(2010年)が大きく報道された後の2013年調査では、中国人の増加に反対する意見が急増(2009年の反対+やや反対65.7%から2013年では75.8%と10ポイントの増加)し、2017年でも75.0%と同水準を維持している。韓国人に対する意見も同様の変化を示しており、2009年では「反対+やや反対」で55.3%だったものが、2013年で66.7%、2017年でも66.7%とほぼ変化がなかった。

2009年と2013年の間の排外主義的回答の急増は、中国(尖閣諸島問題)・韓国(竹島問題)などの領土問題がクローズアップされた結果と考えられる。さらに2017年でもその悪化した状況が継続していることが、2017年の結果にも影響したと推察される。

 

5.「安倍信任」ではない選挙結果~2013年に比べて悪化する安倍首相への好感度

本調査では政党・政治家などに対する好感度を「もっとも好き+3」から「もっとも嫌い-3」までの7段階で聞いている。その結果、自民党の好感度の平均値は、わずかに低下しているがほぼ変わらず、2017年では0.44、2013年では0.48であった。一方、前回調査(2013年)ではプラスの値(0.36)だった安倍晋三首相に対する好感度は、今回調査ではマイナスの値(-0.09)に転じた。

安倍首相に対する-3~-1という「嫌い」という評価の合計も、2013年では(有効回答中)22.8%だったものが、2017年では34.9%と約1.5倍に、さらに「もっとも嫌い-3」と回答した人が、2013年では9.8%だったものが、2017年では18.1%と2倍近くに増えている(ちなみに自民党に対して「もっとも嫌い-3」と回答した人は2013年で8.0%、2017年でも9.9%と横ばい)。この結果から、確かに2017年の総選挙は自民党が大勝しましたが、その結果をいわゆる「安倍信任」とはみなせない、と結論づけられよう。

(5) 研究の波及効果や社会的影響

本研究は、2009年から4年ごとの継続的な社会調査データに基づく議論を行うことで、通俗的で印象論に偏りがちなナショナリズム高揚論や「右傾化」論とは異なる、データに基づく実証的な議論が提供可能である。また、昨今の混迷する政治情勢に対して、過去との比較の視点も含めた世論の動向を提示することにより、結果的に一時的な熱狂や雰囲気によるポピュリスティックな政治に対する一定の歯止め効果を持ちうることを期待している。

(6) 今後の課題

4年ごとに実施することが重要であるが、調査の継続可能性については、時限的な科学研究費補助金(いわゆる「科研費」)を獲得できるか否か、に依存している。昨今「反日的」と認定した研究に対して、自民党の議員が国会で取り上げて批判するなど、研究結果が政権与党に都合が悪い(もしくは「悪い」と考えられる)場合、それを妨害しようという動きまで生まれている。本研究も「政治」を対象とすることから、そのようないわれなき誹謗中傷を受ける危険性を、今後は考慮せざるを得ない。一方、だからこそ、本プレスリリースなどの形で社会的還元を行うことで、研究の必要性と重要性についての社会的な認知と理解を広げていくことが、課題解決の着実な一歩となると考えている。

(7) 100字程度の概要

継続調査からみる日本人のナショナリズムと政治意識。2010年代の日本人は本当に「右傾化」しているのか?本土と沖縄の認識のずれや安倍人気の実相などを、日本全国を対象とした量的社会データから明らかにする。

※「国際化と市民の政治参加に関する世論調査2017」結果の一部は速報版として掲載中。

文献

  • 内閣府, 2014, 『平成26年度外交に関する世論調査』.
  • 中野晃一,2015,『右傾化する日本政治』岩波書店.
  • 小熊英二・上野陽子, 2003, 『”癒し”のナショナリズム―草の根保守運動の実証研究』慶應義塾大学出版会.
  • Quillian, Lincoln, 1995, “Prejudice as a Response to Perceived Group Threat: Population Composition and Anti-Immigrant and Racial Prejudice in Europe,” American Sociological Review 60: 586-611.
  • Semyonov, Moshe, Rebeca Rajiman & Anastasia Gorodzeisky, 2006, “The Rise of Anti-foreigner Sentiment in European Societies, 1988-2000,” American Sociological Review, 71: 429-49.
  • 高原基彰,2006,『不安型ナショナリズムの時代―日韓中のネット世代が憎みあう本当の理由』洋泉社.
  • Tanabe, Shunsuke (Ed.),2013,‘Japanese Perceptions of ‘Foreigners’, Trans Pacific Press.
  • 田辺俊介(編),2011,『外国人へのまなざしと政治意識―社会調查で読み解く日本のナショナリズム』, 勁草書房.
  • 安田浩一, 2012, 『ネットと愛国』講談社.
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